エンタープライズが主導する新たな章の始まり、レッドハット・ホワイトハーストCEOもゲスト登壇
IBM THINKでロメッティ会長が語った「第2章」の意味と戦略を読む
2019年03月05日 07時00分更新
「本日ここにいる皆さんは、Digital Reinvention(デジタル変革)における『第2章(Chapter 2)』の入り口に立っている」――。2月に米国で開催された「IBM THINK 2019」の基調講演において、IBM会長兼社長、CEOのジニー・ロメッティ氏は参加者に向けてこう切り出した。
昨年(2018年)の「データとAIの時代」など、例年このイベントの基調講演ではロメッティ氏が、IBMにとっての大きな方向性を指し示すキーワードを掲げるのが常だ。しかし、今回のキーワードとなった「第2章」や「コグニティブ・エンタープライズ(Cognitive Enterprises)」は、それだけを聞いても何を意味しているのかわかりづらいのが正直なところだ。
本稿ではロメッティ氏の基調講演の内容をふまえながら、この「第2章」や「コグニティブ・エンタープライズ」という言葉に込められた真意について探っていく。それと合わせて、ゲスト登壇したレッドハットCEOのジム・ホワイトハースト氏の言葉から、IBMがレッドハットを買収した意味や両社の将来戦略についても見ていきたい。
「デジタル変革の『第2章』はエンタープライズが主導していく」
第2章の始まりを宣言するということは、これまでの「第1章」が終わるということだ。それではデジタル変革の第1章とはどんなもので、それがどう変わるというのか。まずはそこから確認しておこう。
基調講演の中で、ロメッティ氏は次のように語った。
「ご来場の皆さん(顧客企業やパートナー)には、デジタル変革のジャーニー(道のり)をIBMと共に歩んでいただいていることへの感謝をお伝えしたい。昨年も申し上げたとおり、企業競争力の源泉はデータである。そして、われわれ(IBMと顧客)が共に成し遂げてきた『第1章』には、デジタル、AI、数多くの実験的取り組み、多数のカスタマー向けアプリといった特徴があり、これらがクラウドへの動きを強く後押ししてきた」(ロメッティ氏)
すなわちエンタープライズにおけるデジタル変革の第1章とは、新たなビジネスモデル(=デジタル)とテクノロジーの活用(=AI)、新たな顧客との関係構築(=カスタマー向けアプリ、SoE:Systems of Engagement)を模索する段階であり、そうした領域における試行錯誤を柔軟/迅速に実行できるインフラとしてクラウドの活用が拡大してきた。
ただしこの動きはまだ部分的なものにすぎない。エンタープライズの業務全体で見ると、クラウド化された業務はそのうちの20%にとどまっており、残り80%の業務、特にミッションクリティカルなコア業務はまだ変革されていないとロメッティ氏は述べる。そこで第1章の経験もふまえつつ、残り80%の、企業ビジネスの根幹をなす重要な業務の変革に取り組む「第2章」がこれから始まるというわけだ。
またロメッティ氏は、「わたしの考えでは、この第2章の多くの部分をエンタープライズが主導していくことになる」と語る。上述したように“レガシーな業務を変革すること”が第2章の定義であれば当然とも言えるが、それに加えて、デジタル化した市場の第2章では、クラウドネイティブな新興企業ではなく既存のエンタープライズが再び力を持つようになるという意味も込められている。「企業競争力の源泉はデータ」であり、エンタープライズは過去からのデータを大量に蓄積している。データの力を解き放つことができれば、エンタープライズの競争力は大幅に向上するだろう。
これからの第2章に求められる次世代の企業像を、IBMでは「Cognitive Enterprise(コグニティブ・エンタープライズ)」と呼び、定義している。日本IBM 取締役専務執行役員 グローバル・ビジネス・サービスの山口明夫氏は、AIだけでなくインフラ、アプリケーション、データ、業務プロセス、さらには企業文化やスキルまでを含む、あらゆるレイヤーでの変革が必要であり、IBMでは製品とサービスを通じてそれらを包括的に支援できると説明した。
「IBMはこれまでずっと『第2章』に向けた整備を行ってきた。たとえば顧客業種ごとに対応した専門スキルしかり、IBM Cloudしかり、レッドハットの買収しかり、量子コンピューターの『IBM Q』もしかりだ。これらの能力を総合的に生かせるのが第2章の時代。今回のTHINKで、顧客からも『IBMのこれまでの資産を生かせる段階になった』という言葉をいただいた」(山口氏)