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ミドルウェアのコンテナとレッドハットの「OpenShift」が戦略の鍵?「IBM THINK 2019」レポート

“Kubernetes Everywhere”IBMのマルチクラウド戦略と新発表

2019年02月25日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 米IBMがカリフォルニア州で開催した年次カンファレンス「IBM THINK 2019」。前回記事ではAI/機械学習領域の“Watson Anywhere”ビジョンについてお伝えした。

 今回はもうひとつの大きなテーマである「クラウド」領域について、新発表製品の紹介も交えながら、IBMとしての戦略を読み解いてみたい。エンタープライズにおいてもハイブリッドクラウドやマルチクラウドの利用が当然の時代、戦略のキーワードは“Kubernetes Everywhere”のようだ。

「IBM THINK 2019」はサンフランシスコのモスコーニ・センターで開催された

IBMの現状認識、クラウド化されていない「残り80%」の業務をどう変革するか

 まずはIBMがクラウドを取り巻く現状をどう認識しているのかについて、今回のTHINKにおける幹部らの発言からまとめておこう。

基調講演で登壇したIBM会長兼社長、CEOのジニー・ロメッティ氏

 IBMが示すデータによると、すでに顧客企業の94%はハイブリッドクラウド環境を、また67%がマルチクラウド環境(複数ベンダーのパブリッククラウド、SaaS含む)を利用している。この動きは一時的なものではなく、ハイブリッド/マルチクラウド利用の動きはこれからさらに一般化していくだろう。

 ただしIBM会長兼社長、CEOのジニー・ロメッティ氏は、現状で顧客企業においてクラウド化された業務はまだ全体の20%に過ぎず、これからの焦点は「残り80%」の業務をどう変革していくかにかかっていると説明する。この「残り80%」はミッションクリティカルな基幹業務が意識されており、単にコスト削減や展開のスピード化だけを求めてクラウド化されることはないだろう。業務そのものを変える「デジタルトランスフォーメーション」も意識しながら、プラットフォームやテクノロジーの戦略的な選択が行われることになる。

これから「残り80%」の基幹業務アプリケーションを変革しなければならない

 したがって、この「残り80%」の変革には時間がかかる。日本IBM IBMクラウド事業本部長の三澤智光氏は、今後10年間程度はオンプレミス/従来型(レガシー)とパブリッククラウド/クラウドネイティブという2タイプのアプリケーションが共存する期間が続くと述べ、それが顧客企業にとってのチャレンジ(課題)になることを指摘した。この共存期間中、企業は異なるテクノロジーやセキュリティ、ガバナンスが混在するIT環境を支えなくてはならないからだ。

レガシーからクラウドネイティブへの移行は段階的に進むため、しばらくは「共存期間」が続くことになる

 ハイブリッドクラウドマネジメントサービス担当ディレクターのロバート・エリクソン氏は、これまでレガシーアプリケーションの運用(ITOps)では「コントロール」が、クラウドネイティブアプリケーションの運用(DevOps)では「スピード」が重要視されてきたが、これからはその両方を同時に実現する新しい“Digital Operations”モデルを考えなければならないと語った。

 IBMが強く意識する基幹業務アプリケーションの場合、これまでのオンプレミス環境で実現されてきたセキュリティや一貫したガバナンスを確実に維持しつつ、構築や運用におけるアジャイルさも追求することになる。

ロバート・エリクソン氏は、従来型IT運用(ITOps)とDevOpsそれぞれの長所を生かした新たなモデルが必要だと述べた

 さらに「クラウドベンダーロックイン」という課題も生まれている。これからシステムの改修やモダナイズを図っていくうえでは、特定のクラウドベンダーに依存しないオープンスタンダード技術の採用が望まれる。特にサーバーレス/マイクロサービス領域では各クラウドベンダーが独自実装を進めており、この問題が重くのしかかる。

 こうした要件を端的にまとめると、「(これからの)クラウド環境は、ハイブリッド、マルチクラウド、オープン、セキュア、そして一貫した形でマネジメントが可能なものであるべきだ」というロメッティ氏の言葉になるだろう。

第一段階:「VMware on IBM Cloud」でクラウド移行、差違をなくす

 レガシーアプリケーションのクラウド移行ソリューションとして、IBMでは2016年から「VMware on IBM Cloud」を提供してきた。THINKの基調講演でゲスト登壇した米ヴイエムウェアCEOのパット・ゲルシンガー氏によると、VMware on IBM Cloudの採用実績はグローバルで1700社以上を数える。日本でも、オンプレミス基盤の80%をVMware on IBM Cloudでクラウド移行した富士フイルムの大規模事例が公開されている。

ヴイエムウェアCEOのゲルシンガー氏は「VMware on IBM Cloud」の実績を紹介した

 VMware on IBM Cloudを使ってレガシーアプリケーションをクラウド移行し、API経由で他のアプリケーションと連携させたり、将来的なモダナイズに備えたりするのが、IBMがハイブリッドクラウド戦略の“第一段階”として考えるストーリーである。

 このとき、レガシーとクラウドネイティブのアプリケーションをIBM Cloudという同一のクラウド基盤に載せることで、オンプレミスの段階で存在していたテクノロジーやガバナンス、セキュリティの違いを(ある程度は)解消できる。こうした差違は、運用コストやセキュリティリスクの増大につながるため、できるだけ解消していかなければならない。

VMwareの仮想化技術でオンプレミス/IBM Cloud間の差異をなくし、同じクラウド基盤にあるアプリケーションとの差違もなくす。三澤氏はこれを「崖を埋める」と表現した

 そうした観点から、今回のTHINKではオンプレミス/マルチクラウド間で多様なアプリケーション/データの間を“つなぐ”統合プラットフォーム「IBM Cloud Integration Platform」が発表されている。具体的には「IBM Cloud Private(ICP)」上で動作するメッセージングバスやデータ統合、APIゲートウェイ/管理、高速データ転送サーバーなどのソフトウェアコンテナ群で構成されており、IBMによれば「従来の3分の1」の短時間でアプリケーションやデータを統合できるという。

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