スタートアップの「ものづくりトラブルあるある話」を一掃する契約ガイドラインが凄い
契約ガイドライン策定業務検討会 座長小林茂教授インタビュー
契約ガイドラインは4つのプロセスごとに策定
今回作られている契約ガイドラインは、ものづくりのプロセスを要件・要求定義、原理試作、量産設計・量産試作、量産の4つに分けた構成となっている。ものづくりについてゼロから最後まで携わった人なら一通り把握しているが、そういった経験のないスタートアップが何かを作ろうとしたときに起こりがちな誤解が生じないようにという配慮だ。
そのプロセスごとに得意とする製造業者も違うし、注意しなければならない点が異なることもあるので、どのプロセスにおける話なのかを明確にすることで齟齬が起きないように整理されている。量産を前提とした試作の話なのか、要件定義もできていない時点での試作の話なのかによってまったく話は変わるので、同じ出発点から話ができることによって交渉をスムーズにし、時間の短縮や相互理解につながる形だ。そして、そのプロセスごとに注意すべき点が示されている。
Startup Factory構築事業はスタートアップを支援することが目標となっているため、ガイドラインもスタートアップが使いやすいことが重視されているが、製造業者が不利になるような契約が想定されているわけではなく、内容は双方にとってフェアに作られている。
ただし、このガイドラインでは、現状の製造委託のビジネスモデルを前提としているのではなく、新事業を創発しやすいエコシステムの実現を目指した、新しい商慣習の普及を目指した提案をしている。
例えばこれまで無料でやっていた要件・要求定義や原理試作についてコンサルティングといった形で製造業者がお金を取る、あるいはそのスタートアップに可能性があると思えば投資するという考え方を示しつつ、スタートアップには、自分たちが主体性を持って責任を持ってもらうことを前提に、製造業者には新たなチャレンジを促すガイドラインになっている。
さらに、この契約ガイドラインには標準契約書がセットされている。この標準契約書はそのまま使えるひな形という想定で作られているが、その内容についても検討会で議論され、スタートアップや製造業者といった、専門文章に慣れていない人を想定した作りとなっている。
例えば、それぞれの権利など重要な事項を前のほうに配置し、必要なことではあるがどんな契約書でも出てくる内容については後ろに、また、関連性のある内容は条文として隣同士に来るように……といった形だ。
契約と聞くと、何か面倒だという印象があり、後回しになっていることもあるが、それは誤解だと小林教授は語る。
スタートアップが仮説と検証を繰り返しながらビジネスを展開するのは、リスクを最小限にするためのはずで、契約もそれと同じ。はじめはできると言っていた製造業者が、いざ始めてみたらできなかったり、他の業者に変更しなければならないといったことが起きた際、契約をきちんと交わしておくことによって対応を早めたり、発生しがちなリスクが最小化できる。
ガイドラインにはこれまでの調査と、参加メンバーの知見が凝縮されており、スタートアップが重視している「時間」を無駄にしないこと、リスクを最小化することに寄与できるようになっている。
量産化トラブルあるある:量産試作編
■試作品を元に修正を求めたところ、想定外の期間と金額を要求された。工場側は量産ラインを考えながら制作するため、小さな修正が思わぬトラブルを招く。
小林座長のワンポイントコメント
展示会などでの好評価を受けて試作品を量産に進めようとした際、スタートアップ側から見てほんの少しの修正をするだけなのにコストが大きくかかるケースがある。これは製造業者側が難癖をつけているということではなく、元々の仕様で量産に最適化していたため、そこに修正が加わると、それに対して大きな変更を加える必要が生じるケースがあるためだ。
製品を作る際は、安全基準をクリアする必要もあり、製造設備の準備もしなければならないため、形状を変えると加工方法から変わってしまうこともある。こうしたこともあり、ガイドラインでも量産試作からは、基本的に後戻りができないことを強調している。
ただ、スタートアップとしては製品を魅力的にするためにどうしてもその修正は譲れないということも出てくるはずで、そうした際に備えた費用も用意することが重要で、見積もりの倍くらいは余裕を持っておくべきだ。
やり直しが判明してから投資家と協議したり、資金調達をするとなると、さらに時間が掛かってしまうので、あらかじめ想定しておいたほうがいい。