なんでも自由に入れられるキャビネット
深澤氏が基本においたのは、「なんでも自由に入れられるキャビネット」という発想だ。いわば、冷蔵庫を家電としてとらえるのではなく、家具のひとつにとらえた発想ともいえる。
「冷蔵庫は食品を冷やすだけでなく、なにも載っていない皿や、ビールを注ぐグラスを冷やすために使う人もいる。そのように、なんでも放り込んでおける自由なキャビネットという発想の方が、いまの生活に合うようになっている。また、暗い部屋で冷蔵庫の扉を開けると、なかから光が漏れるのはとても幸せな瞬間。こうした動きも、冷蔵庫の役割のひとつととらえた」とする。
家具のひとつという観点では、家電製品とは意識をしないで自然に使えることにこだわり、随所に工夫を凝らした点も見逃せない。これは、深澤氏のこれまでの数々の実績を見ても、得意とする部分であることがわかる。
たとえば、TZシリーズには、「R28」という角丸のデザインを採用している。これは、親指と人差し指で物を握る際の角度と同じであり、その角度を用いることで、自然にハンドルをつかみ、ドアを閉める際にも意識せず、ほかの作業をしながらでも自然に閉めることができるという。
「閉めるという動作をすることが自然であり、その動作をした記憶もないということが大切。それでいて、しっかりとしたホールド感がある。例えるのならば、バレリーナが相手を上に持ち上げる際のホールド感のようなものを実現している」という。
これを実現したのがR28という角度なのだ。
「R28という角度が見つかったあとは、鋼板をどうやって、この角度で折り曲げるのかという話になる。そこは日本に開発、製造拠点を持つアクアならではの日本の技術によって実現した」とし、「その技術はすごいものだった」と感心する。
ちなみに、アクアの親会社である中国ハイアールの本社がある中国・青島の青島ビールの小瓶も、実は同じ“R28”を採用していたことを、深澤氏は明かしてくれた。
さらに、左右の扉を真ん中から分けずに、非対称としたのもTZシリーズの特徴のひとつだ。これも「狭いところにはなにを入れるか、広いところにはなにを入れるかといったことを考えずに、自然に入れられる分割率を導き出した」とする。
こうした細かい部分に、深澤氏のこだわりが生かされ、これまでの冷蔵庫にはない自然な佇まいと、自然な使い勝手を実現しているというわけだ。
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