特別企画@プログラミング+ 第41回
AIビジネスの企画立案、実装に役立つ『AI白書2019』ついに発売!
冨山和彦氏(経営共創基盤代表取締役CEO)×中島秀之氏(札幌市立大学学長)「AIで日本は遅れている。誰かが作ったAIをタダまたは安く使い倒せばいい」
2018年12月18日 09時00分更新
株式会社角川アスキー総合研究所(本社:東京都文京区、代表取締役社長:芳原世幸)が12月11日(火)に発行した『AI白書2019』(編:独立行政法人情報処理推進機構 AI白書編集委員会)は、人工知能(AI)がもたらす技術革新と社会の変貌をまとめた本格的な白書として、爆発的に売れたベストセラー『AI白書2017』の最新版です。
本書では冒頭のカラーページで、冨山和彦氏(株式会社経営共創基盤代表取締役CEO)と中島秀之氏(札幌市立大学学長、AI白書編集委員長)による対談と、尾原和啓氏(ITジャーナリスト)と松尾豊氏(東京大学大学院特任准教授、AI白書編集委員)による対談2本を掲載しています。
今回は冨山氏と中島氏による対談の一部を抜粋。冨山氏と中島氏はこのままでは日本は米中の下請けになると警鐘を鳴らしています。
* * *
中島 『AI白書2019』の編集委員会では、AIについて、技術、投資、人材といった面で、日本は米中から周回遅れになっているという意見が出ています。冨山さんはこの現状をどのようにとらえていらっしゃいますか。
冨山 周回遅れどころか、何周回も遅れています。アメリカと中国は、政治体制は異なりますが、産業・社会構造は似ています。割と個人主義で、お金が好き。起業志向で、ソフトウェアに強い。こういった要素は、幸か不幸かAIと相性が良い。どちらかと言うと、日本の産業・社会構造は逆です。組織がガチっとしている集団主義で、年功型の組織。ハードウェアを改善していくのにフィットしているモデルです。
さらに言うと、中国は国中がサンドボックスで、何でもやり放題です。一方、日本は規制が厳しい。中国からAIベースのサービスモデルが先にたくさん出てきた時に、どのように対抗すべきか。日本は会社の形を根本から覆さなければならないし、今までのような少しずつハードウェアを改良していくモデルだけに集中していると、必ず米中の下請けになります。
中島 AIによる破壊的イノベーションで変わらなければいけない今現在、大きな問題が2つあります。1つは法規制の話で、もう1つは、今おっしゃったような企業の話です。法規制に関して言うと、新しい公共交通システムは技術的には実現できているのですが、法的にはタクシーの乗り合いもできないし、バスの路線もなくすことができない。自動運転も日本では全然実装できていないのに対して、米中ではどんどん実施しているような状態です。日本の法律は「これとこれはしていいよ」と書いてあること以外はできない。一方で、アメリカと中国は法律で行ってはいけないことを書いている。技術の進展が早くなっているにもかかわらず、日本は業界保護になっていて、イノベーションに全く向いていない。法律をホワイトリスト型からブラックリスト型に変えないといけません。
冨山 ブラックリスト型の法律を作ってはならないとは、憲法には書かれていません。強い政権が本気になれば基本的な法体系のあり方を変えたり、「禁止されていないものは原則自由」という方向に切り替えることはできるはずです。そもそも日本は自由主義国家ですから、本来は原則すべて自由なのです。
しかし、日本は「お上がやっていいよ、ということを民がやる」というモデルを明治時代から引きずっています。そろそろ本来の自由主義国家になった方がいいと思います。
中島 私は制度に逆らうような研究をたくさんやってきたのですが、制度が悪いと思っているから、こちらに正義がある。企業もそれくらいの気概が必要ですよ。
冨山 日本企業はいろいろなことを忖度する。例えば規制改革要望を出すこともできますが、日本の大手企業は出さない。そういう話はたくさんあります。
結局、この国は他責文化なのです。誰かに寄りかかっているのが前提なので、規制をしてもらったり、行っても良いことを明確にしてもらうのが好きなんですよ。誰かに保証してほしいと常に思っている。
中島 何か事故が起きると、自分の責任にしないで組織の責任になりますよね。また、なにかと政府の責任にしたがります。
冨山 企業の中で偉くなる人は、私の理解では他責力が強い人です。上手に他人のせいにする人が出世する。自責力が強い人は責任を取ってしまうから出世しない。「副業してはいけない」などと、自分の人生を会社が決めてくれて、その代わりに何かが起きたら会社のせいにできる。日本人はそういうもたれあいでやってきたので、AIやソフトウェアは不得手なんですよ。
中島 昨年頃から、AIは具体的な利用事例や先進事例が出始めています。日本企業はAIとどのように向き合っていくべきだとお考えですか。
冨山 2つのアプローチが考えられます。1つは誰かが作ったAIをタダまたは安く使い倒すアプローチ。もう1つはAIを競争領域ととらえて差別化、付加価値を作っていくというアプローチです。
例えば、バス会社を経営していて、5,000人のドライバーがいるとします。運転手が足りなくて困っているときに、自動運転技術がたくさん出てきたら、それをタダまたは安く使えばいい。自分たちでAIを開発する必要は全くありません。今のAIの開発トレンドからすると、オープンソースになっていくし、安く使えるようになる。これは誰でも手に入るので、競争領域ではありません。それを使う能力があれば大丈夫です。
もう1つは、たまたま日本に、AIのある分野のドリームチームが集まってベンチャーを作ることができた場合、AIそのものが付加価値や競争領域の中心となります。これはすごい例外です。企業の90%は前者だと思います。
中島 松尾豊先生は研究でも勝てると言っています。分野によっては勝てるかもしれませんが、私も企業は使う側に回ったほうがいいと思います。
冨山 AIを競争領域だと考えて、頑張って開発しようとするのが一番危ないです。資源を投入して、自動運転のモジュールを搭載してみたら、Mobileye(イスラエル)のほうがよっぽどよくできていて、値段は1/10なんてことが起きてしまう。それなら最初からMobileyeを搭載したほうが賢い。日本企業は自前主義にとらわれているところがあります。
以前、ある自動車メーカーの研究開発者向けの講演で、パワーウィンドウやワイパーが好きで自動車を買った人はいますかと聞いたら、1人も手を上げなかった。しかし、実際はパワーウィンドウやワイパーを自社で開発している。競争領域でないものは自社で開発しないで、他社に任せたらいいんですよ。でも、その割り切りができない。
自分たちが競争すべきところはどこか。それがデジタル革命とグローバル革命では鮮烈に問われます。ですので、「AIの研究者を集めるんだ」と言っている会社があれば、その会社は危ないです。
AIウォッチャーのような人材を雇って、世界中の開発動向を見ながら、どれをパクるかを考える。「すげーぞ」と思ったら買収しても良い。それができているのが、コマツです。コマツはロシアやアメリカの技術を買ったり、ライセンスを受けたりしています。
* * *
※対談の全文や AI導入企業・実用化事例など、AIの導入・ビジネス化に必要な情報を網羅した『AI白書2019』は好評発売中です!
●冨山和彦(とやま・かずひこ) ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年、産業再生機構設立に参画し、COOに就任。同機構解散後、株式会社経営共創基盤(IGPI)を設立(同社代表取締役CEO)。経済同友会副代表幹事、内閣府総合科学技術・イノベーション会議基本計画専門調査会委員、経済産業省産業構造審議会新産業構造部会委員などを務める。著書に『AI経営で会社は甦る』(文藝春秋)などがある。
●中島秀之(なかしま・ひでゆき) 東京大学大学院情報工学専門課程修了(工学博士)。通産省工業技術院電子技術総合研究所に入所後、産総研サイバーアシスト研究センター長、公立はこだて未来大学学長を経て、2016年6月より東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻特任教授。現在、札幌市立大学学長。人工知能を状況依存性の観点から研究している。
【書籍概要】
タイトル:『AI白書2019』
発売日:2018 年12月11 日
編:独立行政法人情報処理推進機構 AI白書編集委員会
発行:株式会社角川アスキー総合研究所
発売:株式会社KADOKAWA
ISBN:978-4-04-911014-2
定価:本体 3,600円+税
版型:A4判 496ページ 2色刷(冒頭のみ4色)
販売はこちらまで
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