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特別企画@プログラミング+ 第52回

Quoraムック発売記念連載 「コロナ後の世界をどう生きるか」第6回(最終回)

濃厚接触者を追跡するコンタクト・トレーサーなど、事業家は準備を始めている

2020年07月31日 15時00分更新

文● Kenn Ejima

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 さて、この連載も最終回となりました。

 「コロナ後の世界をどう生きるか」というタイトルで、大きく潮目が変わった現代において、それぞれが「自分の頭で考える」ことの大切さ、思考体力とでも呼ぶべき基礎力の大切さを、Quoraというレンズを通じて見てきました。

 7月20日現在、売上がほぼ完全にゼロになった旅行業界を救えと立ち上がった「Go To トラベル キャンペーン」が炎上しています。スタート直前になって東京都を除外したことで事実上骨抜きとなり、キャンセル料をどうするかなどという些末な議論にはまり込んでいます。

 そもそも、観光というのは周辺の飲食も含めれば年間60兆円に迫る巨大市場です。そこに、市場規模に対して3%にも満たない1.7兆円という「焼け石に水」の援助をすることに、どれほどの意味があるのでしょうか。

 スウェーデンでは、高齢者には医療資源を使わせないという断固たる姿勢に国民が理解を示してロックダウンを行わず、人口あたりの死亡率では周辺国を大きく上回る状況となりましたが、結局のところ経済も他国と同じぐらい落ち込んでしまい、踏んだり蹴ったりの状況となりました。戦略的な意思決定を行ったように思えましたが、ロックダウンしなければ経済を維持できるわけでもない、ということが明らかになったのです。

 もちろん「最終的な死亡者数が同じなら早く済ませるほうがいい」という考え方はありますが、経済というものは世界とつながっており、サプライチェーンも消費者心理も一国の状況だけでは決まらないものだったのです。ここからV字回復すれば大逆転ですが、その可能性はそれほど高くないように思えます。

『Quora 世界最大級の知識共有プラットフォーム-ビジネスと人生の課題をすべて解決する-』には、アダム・ディアンジェロQuora創業者兼CEOのインタビューも掲載

近江商人の「三方良し」

 Quoraでも紹介しましたが(「吉村知事が発表した大阪モデルはCOVID-19対策を緩和する基準として妥当だと思いますか?」https://qr.ae/pNsPoM)、アメリカでは、濃厚接触者を追跡インタビューし、特定していく「探偵」のような仕事を行うコンタクト・トレーサーという仕事がすでに大ブームになっており、ニューヨークでは完全リモート勤務でも年収$57,000(約600万円)稼げる仕事になっています。

 専門家たちは、今後18カ月にわたって1.2兆円を費やしてさらに18万人を雇うべし、と推奨しています。CDCや専門家は、第2の波を防ぐためにはコンタクト・トレーサーが鍵を握るだろうと考えているのです。日本では伝統的に保健所や衛生研究所の職員がいい仕事をしてきたので、なかなかこういう民間部門への移譲という発想が出てこないのですが、少し先まで見通せる目利きの事業家は、もう準備を始めているかもしれません。

 また、コロナ禍によって、各企業がどのような考えをもっているかが明らかになりました。SDGs(持続可能な開発目標)が盛り上がっているように、株主の利益を高めるだけではなく、企業のすべてのステークホルダーを重視する新しい資本主義(ステークホルダー資本主義)が以前からトレンドとなっています。

 その代表的なものが、「B Lab」という非営利団体が認証している「B Corp(Bコーポレーション)」です。環境や社会にとって「良い」会社を公式に認証する仕組みで、Bコーポレーションの認証を得るには、社員、コミュニティ、環境を考慮しないといけません。

 これは業界を問わず取得可能で、例えばゲームなどを制作するクリエイティブ・スタジオのustwoなんかもB Corp認証を取得しています。パタゴニアなどはサイトでB Corp認証について説明しています(https://www.patagonia.jp/b-lab.html)。

 認定基準が厳しいこともあり、日本ではまだまだ認知度が低いですが、近江商人の「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の「三方良し」という言葉があるように、良い社会を目指す考え方は、日本に昔からあるものです。本連載の第1回目で、価値のある仕事を価値があると伝えることの大事さを説明しましたが、「三方良し」を目指してやれることを実行し、アピールしていくべきだと思います。

人は他者からの視線によって磨かれる

 そうはいっても今の時代、絶対的な正解はありません。この不安な感覚こそが「自分の頭で考える」ということの本当の意味です。絶対的に頼れるものがない中でも暫定的な方角を示してくれるコンパスを自分の中に持っていなければいけない、もしかしたら正反対の方法に向かって歩いているのかもしれない、この不安な感覚とうまく付き合っていく必要があるのです。

 もしコンパスが壊れていて遠回りしていても、歩きながら学び、軌道修正を繰り返していけば、次第に目的地に近づいていけます。しかし歩き出していなければ、永遠に目的地に着くことはありません。

 スポーツ、ゲーム、芸事、勉強なども、そうした反復とトレーニングなくして上達・成長はなく、大会や発表会、ランキングなどを通じて人目に晒され、評価を受けることで磨かれていきます。

 ライティングのスキルも同じです。仕事で書くメールやレポートのTOやCCに入る人数が増え、送信先のランクが課長、部長、役員、社長と上がれば上がるほど、緊張感は高まり、文章を練る必要を感じるでしょう。その先には、顧客、ベンダー、関係会社、業界全体、そして最終的には一般消費者という、無限の広がりがあります。

 人間は、社会的な動物です。「見られているからキレイでいようとする」のは女性だけではありません。人はだれでも、他者からの視線によって磨かれるのです。

 Quoraでは、質問形式でお題が向こうからやってくるので、読者を意識しながら伝わるようにライティングをするというトレーニングを積むことができます。そしてそのスキルは職業人生においても、きっとプラスになるでしょう。そんなプラットフォームを活かさない手はないと思いませんか。

 Quora上で皆様とお会いできるのを楽しみにしています。

Quoraユーザー登録の方法。氏名、メールアドレス、パスワードを登録し、興味のあるトピックスを選ぶ(『Quora 世界最大級の知識共有プラットフォーム-ビジネスと人生の課題をすべて解決する-』より)

Kenn Ejima

ソフトウェアエンジニア。香川県生まれ。小学生時代よりBASICおよびアセンブラでパソコンゲームを開発。京都大学工学部卒業。シリコンバレーやニューヨークで起業したのち帰国。現在、Quoraエバンジェリストとして日本進出を担当。

Quora: Kenn Ejima / Twitter:@kenn / GitHub:@kenn

『Quora 世界最大級の知識共有プラットホーム-ビジネスと人生の課題をすべて解決する-』

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・発行: 株式会社角川アスキー総合研究所
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・発売日:2020年5月21日/電子版2020年5月28日
・判型:A4変形判
・商品形態:ムック/電子版
・総ページ数:144ページ
・ご購入はこちらまで

〈主な内容〉
・野口悠紀雄氏インタビュー「“いい質問”の重要性」 
・Quoraの高品質を支える4つの要素  
・アダム・ディアンジェロQuora CEOインタビュー「知の共有と、テクノロジーの進化」 
・「まつもとゆきひろさん、Quoraをどんなふうに使っていますか?」
・Quoraの教科書:ユーザー登録の方法、回答の評価、質問のフォロー、スペースの使い方、統計のチェックなど
・Quoraからピックアップ 111のQ&A:ビジネス/起業、デザイン、エンタメ/旅行、グローバル/日本、マーケティング、世界はどう変わるか、環境/科学、人間関係/人生、テクノロジー、経済/働き方、人材/教育

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