ACSSの後継機を自社開発
Tabulating Machineからコンピューターへビジネスを移行
一方のIBMは、ACSSの後継として自身でSSEC(Selective Sequence Electronic Calculator)と呼ばれる電気機械式コンピューターを開発する。こちらはコロンビア大のWallace John Eckert教授が仕様を提示、IBMが当時の費用で100万ドル(現在だと1200万ドル相当)を自身で負担するという、なかなか大胆な決断であった。
開発は1944年からスタートし、Frank E. Hamilton氏が開発の指揮を、Robert Rex Seeber Jr.氏が設計主任を務めた。このSSECの開発の途中である1946年2月に、アメリカ陸軍が開発したENIAC完成のニュースが発表された。こちらはご存知の通り、世界最初の電子計算機(=歯車やリレーを使わない)である。
ENIACは加減算が毎秒4000回、乗算が385回、除算が40回可能という性能で、Harvard Mark Iに比べると桁違いに高速な性能を誇っていたが、SSECは電気機械式(さすがに歯車は使っておらず、電気式リレー+真空管のハイブリッド構成)ながら加算が毎秒3500回あまり、乗算で50回とそれなりに高性能で、少なくともHarvard Mark Iに比べると比べ物にならない高性能ぶりだった。
このSSECは1948年に完成し、ニューヨークにある本社そばのビルの1階に設置され、1952年まで稼働した。この設置された部屋の一方はガラス張りで、通行人がACSSの動いている様子を見ることができたそうだ)。
画像の出典は、Columbia University Computing History
使われ方としては、今でいうところのデータセンターに近い。最初に行なわれたのは天文暦の計算で、これだけでSSECの計算時間にして半年を要したとする。ほかにもさまざまな科学技術計算のリクエストがあり、1952年に撤去されるまでの間ほとんどフル稼働していたそうだ。
やや話を戻すと、SSECそのものがビジネスになったか? というと否であるが、それにも関わらずSSECはIBMにとって重要なビジネスのマイルストーンになった。つまりTabulating Machineからコンピューターへのビジネスの移行の契機である。
ご存知の通りENIACはアメリカ陸軍で弾道計算のために設置されたが、実際にはマンハッタン計画でフルに利用され、原子爆弾の開発に貢献することになった。一度こうした例が出ると、「ならばこういう用途にも使えるのではないか?」という新しいニーズがどんどん生まれてくることになる。
コンピュータはTabulating Machineの代替が可能だが、Tabulating Machineにコンピューターの代替はできない。となると、IBMがどちらに進むべきなのかは明白である。
これに先駆け、IBMは1933年にはElectromatic Typewriter Co.を買収して電動タイプライターをラインナップしたり、1934年にはIBM 801(のちに出てくるIBM801 RISCプロセッサーとは別)というBank Proof Machineを発表したりと、オフィスに向けたさまざまな製品を幅広くそろえた。
Tabulating Machineを導入した顧客にこれらの製品を販売することで売上を伸ばすべくラインナップを充実させていたが、1940年代からはTabulating Machineをコンピューターで代替する方向に走り始めることになる。(次回に続く)
画像の出典は、IBM100年の軌跡
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