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理系編集者が作った「科学的根拠にもとづく絵本」:

出版業界の常識ガン無視で大ヒット絵本が生まれた

2018年07月10日 17時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)

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■「最後のチャンス」に賭けた

── 企画はいつごろから動かしていたんでしょう。

 2014年6月に初めて打ち合わせをしました。先生は、「赤ちゃんのための絵本」「赤ちゃんの好きな絵本」と言われてきたものは、親が思うあかちゃんが好きそうな絵本であって、あかちゃん自身が本当にその絵本が好きかどうかをきちんと調べたものではないという持論をもっていました。赤ちゃんはそんなに単純じゃない、本当に赤ちゃんが好きな絵本を、科学的根拠にもとづいてつくりたいと。でもその企画を一緒に進めてくれる出版社がなかった。けんもほろろで断られてしまったこともあったそうです。そのとき、たまたま先生の研究室にわたしの後輩にあたる院生さんがいて、「先生がこういう本をつくりたがっているんだけど……」と話をもってきてくれたんです。

── ディスカヴァーというとビジネス書や自己啓発書のイメージがありました。

 2013年に初めて絵本を出したんです。いい作品でしたが売上はあまり伸びませんでした。絵本は50年前の本がいまだに読まれているジャンルで、親が読み、親の親が読んでいたものを赤ちゃんが今でも読んでいます。読み継がれることは悪いことではないですが、予想以上に新規参入の壁が高いのだと感じました。のちに絵本は撤退することに決まって、この絵本が最後のチャンスだということになりました。だからこそ「もう失うものは何もない」と思い、挑戦できたところがありました。

── なんとしてでも成功させてやろうと。

 売れ感、話題感をつくっていく必要があると感じました。本は6月にできていましたが、発売は7月に延期して、先に芸能人に献本したり、モニター調査をしたり、一部店舗で先行発売してイベントを開催しました。当社調べで「お母さんの88%がおすすめしたいと言っています」とリリースを打ったりもしていました。書店展開では、カバーの「赤ちゃんが選んだ絵」が見えることが大事なので、面陳列で売ってもらうための販促物(ケース状の什器)をつくったりもしていましたね。

── すぐにヒットしたんでしょうか。

 苦しい時期もありました。発売時は調子がよかったんです。毎日新聞さんの記事で紹介されたり、釈由美子さんのブログなどでとりあげていただいたりして、アマゾンで絵本ジャンル1位になったこともあります。「これはきたぞ」と思っていたら、その後なだらかに下がってしまった。「風を起こさないと」と悩んでいたところ、今年3月に日本テレビの情報番組「スッキリ!」でとりあげていただけて。20分間くらいの長い尺をとっていただき、大きな追い風になりました。

── テレビ効果で話題が一気に広がった。

 放映中にアマゾンの在庫が切れ、会社も注文の電話が鳴りやまない状態でした。当時すでにお母さんのあいだでは「赤ちゃんが泣きやむ」といった口コミがインスタグラムなどのSNSで広がっていました。「知っている人は知っている」という絵本が全国区になったような形でした。3月までは累計6万部だったのが、そこから約18万部増えたんです。

── 結果的には、失うものは何もないという背水の陣が成功につながりました。

 理系の編集担当がつくったこと自体、アートや感性でつくられてきたところがある絵本業界にとって新しかったのかもしれません。理系の先生と、美術的センスがあり、経験も豊富な作家の方と組めたことがとてもよかったなと。絵本を出せるのが最後のチャンスということもあり、「エッジの効いたコンセプトはとことん生かさねば」と、最後まで実験結果を信じて進められたのがよかったのかなと思っています。



書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、家事が趣味。赤ちゃんの父をやっています。育児コラム「男子育休に入る」連載。Facebookでおたより募集中

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