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理系編集者が作った「科学的根拠にもとづく絵本」:

出版業界の常識ガン無視で大ヒット絵本が生まれた

2018年07月10日 17時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)

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 「あかちゃんといっしょに作った あかちゃんのための絵本」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は昨年7月発売、累計24万部のヒット絵本シリーズだ。

●絵本シリーズ累計発行部数
『もいもい』 14万部
『モイモイとキーリー』4万部
『うるしー』 6万部

 絵本は、赤ちゃんの認知発達能力について研究している東京大学 開 一夫(ひらきかずお)教授の「科学的根拠にもとづいた絵本を作りたい」という案から生まれた。赤ちゃんが本当に好きな絵を実験で導き、絵本にできないかと考えたのだ。

 実験にもとづき絵本を作ったところ、『もいもい』のカバーは「売れない」と言われる黒色になり、『うるしー』のキャラクターは「赤ちゃん向けではない」と言われるくすんだ色合いになった。ある種業界の常識を無視する作りになったが、結果は大成功だったという。

 絵本を担当した、東京大学出身の理系編集者であり、同社書籍編集部リーダーの堀部直人さんに制作の裏側を聞いた。

■心理実験「選択注視法」で絵を選んだ

── 赤ちゃんが好きな絵を導くためにどんな実験をしたんでしょう。

 複数の絵を同時に示し、どれをより長く注視するか測る「選択注視法」という方法を選ぶことになりました。

── 『モイモイとキーリー』では具体的にはどんな実験をしたんでしょう。

 まず4枚の絵を1枚ずつランダムに提示して、次にまっ黒な画面に絵をすべて配置して赤ちゃんに見てもらいます。視線を検出するアイトラッカー(Eye Tracker)を使い、それぞれ赤ちゃんがどの絵を注視しているかをたしかめます。これで絵そのものに対する選考性のベースをつくり、今度は絵を提示するときに「モイモイだよ」という音声を同時に聞かせます。

 もともと「ブーバ/キキ効果(Bluba/Kiki Effect)」という心理学の実験があり、多くの人が「キキ」からはとげとげした形、「ブーバ」からまるっこい形を選ぶということがわかっていました。その実験をもとに、赤ちゃんに「これはモイモイ」だと感じる絵を選んでもらったんです。実験は8ヵ月から14ヵ月の赤ちゃん22人を対象に実施しました。この分野ではおよそ調査対象人数がn=10くらいから統計にもとづいた結果が出せると聞いています。

── 実験の結果『モイモイとキーリー』と『もいもい』の2冊ができました。

 もともとの実験で意図していた絵本が『モイモイとキーリー』なのですが、音を聞かせない状態での赤ちゃんの注視度がやたらと高い絵があり、これを使わないのもったいないという先生の発案で生まれたのが『もいもい』です。だからこれは、想定外の本だったんです。実験段階ですでに食いつきが非常によかったのですが、ゲラの段階で生まれたばっかりの赤ちゃんに絵を見せたら、まだ首がすわっていないくらいの子が首を動かして、めくられるページを追いかけたんです。科学的にはまだ説明できないんですが「絵に注目して泣きやむ」ことでウケているところもあります。読者の言葉に「グズっている子に見せると泣きやむのでおでかけのときはかならず持っていっています」というものがありました。

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