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理系編集者が作った「科学的根拠にもとづく絵本」:

出版業界の常識ガン無視で大ヒット絵本が生まれた

2018年07月10日 17時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)

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■赤ちゃんが大人っぽい色合いを選んだ

── 『うるしー』では、実験の結果、赤ちゃんが選ぶキャラクターはお母さんが選んだものとまったく逆の結果になったと本の説明にありました。

 「うるしー」は油絵のイラストなんですが、塗り重ねるごとににごりが出てくる。きれいな色ですが、くすんでいるように見える。でも、赤ちゃんはその色を選んだのです。先生も「これが選ばれるとは思わなかった」と驚いていました。

── 赤ちゃんが選んだのは大人っぽい色合いだったと。

 海外の絵本はシックな色合いで、大人でも楽しめるものが多かった。日本にもそういう絵本はあるんですが、赤ちゃん向けというと、キャラクター化されすぎていたり、ポップな色合いになっていたりする。「大人が赤ちゃんに幼児性を押しつけすぎているんじゃないか」「全然おしゃれじゃないのにな」とモヤモヤしていたところがあったので、赤ちゃんにきれいな色合いが受け入れられたのはうれしかったです。

── ベビー用品専門店のアカチャンホンポなどに行くと、赤ちゃん向けおもちゃや雑貨には赤・黄・青・白といった原色が目立ちます。

 たしかに赤や青のような原色が赤ちゃんに注目されることはあると思いますが、好きなものとは別かもしれませんよね。赤ちゃんの視覚はまだはっきりしていないので、目立つところに目が行っただけかもしれません。実験で何をもって先生が「赤ちゃんが好む」と言っているかというと「長く見ている」ということなんです。驚くような色や絵は、最初は見るかもしれませんが、そのうち目をそらしてしまうのではないかと。実際アカチャンホンポでも『もいもい』は売れている玩具や文具などに匹敵するほどの売れ行きを見せていて、バイヤーさんもびっくりされていたと聞いています。

── 売り場でパッと赤ちゃんが目を向ける色や絵があると、親としては「やっぱりこういう色合いが好きなのかな」と思ってしまうところがあります。

 あざやかな色のモノが売れてきたことで「売れてきたモノ=支持されているモノ」と考えられてきたところもあるのかもしれないですね。

── 業界の慣習にしたがっていたらつくれなかった内容ですね。

 あとから知ったのですが、一般的には「黒い装丁の絵本は売れない」と言われているそうですよ。作家さんはそれを知っていたのか、装丁を白い絵、扉絵を黒い絵にしてラフを描いてきてくれました。ところが、わたしはそれを知らなかったので「実験環境どおり黒い装丁にしたい」と主張しました。わたしにはどのような色のバランスがいいのかを判断するセンスがないので、実験を判断の軸にするしかないと思って「逆にしたいです」と伝えたんです。もし絵本の常識にしたがって白い装丁にしていたら、この結果になっていたかはわかりません。

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