業務を変えるkintoneユーザー事例 第28回
理念を共有し、裏方仕事を効率化してスタッフに笑顔が増えた
奈良の美容室がkintone導入で得たのは「思いやり」だった
2018年06月13日 09時00分更新
kintone hive osakaの3番手は、奈良県香芝市に2つの店舗を展開する「Hair & Make GARO」の藪賀郎氏。美容室のオーナーから見えた業界の課題、現場の課題、そしてkintone導入で取り戻したモノはなんだったのか? 圧倒的な共感を得たセッションの模様をレポートする。
2年前はスタッフと楽しくランチなんてなかった
「先ほどスタッフ全員とランチに行ってきました。どこに行こうか、なにを食べようか、みんなと話しながら、和気あいあいと楽しいランチライムを過ごすことができたんですが、2年前はほぼこんなことなかったんです」
登壇したHair & Make GARO 藪 賀郎氏のそんな第一声に、会場は静まりかえる。しかし、2年前にkintoneを導入してから、GAROは大きく変わった。「2年前までは売り上げも横ばいだったのですが、kintone導入後、前年対比120%を2年続けており、今年の上半期も絶好調です」と力強くアピールした藪氏。GAROの事業とkintoneに至るまでのストーリーを話し始める。
GAROオーナーである藪氏は、美容師20年のベテラン。専門学校卒業後、大阪市内の美容室を経て、全日本理美容技術選手権の関西大会(カット部門)で初出場・初優勝し、2008年にGAROを立ち上げた。現在、五位堂店、真美ヶ丘店の2つの店舗を運営しており、今年設立10年目を迎えている。
なぜクーポンサイトの集客に依存しなければならないのか?
GAROが歩んできたこの10年間も、全国の美容室は増え続けている。現在、日本には24万3360店舗の美容室があるというが、明らかに店舗過剰。1店舗あたりの客数減少は業界内で深刻な問題となっているという。こうした中、一気に認知されるようになってきたのが、値引きを前提としたクーポンサイトだ。「僕らも集客をどうしようかと考えたら、必ずこのクーポンサイトに行き着きます」(藪氏)ということで導入することに決めたという。
しかし、クーポンサイトを導入する際、営業マンからアドバイスされるのは、「掲載順位のアップ」「多くのクチコミ」「カット料金の値引き」の3点セット。当然、掲載順位を上げるには、掲載料金もアップするし、カット料金はクーポン向けに大きく値下げしなければならない。「アドバイス通りにやってみると、確かに翌月には客数が増え、売り上げもアップします。でも、スタッフの負担も増えるし、利益がダウンします」と藪氏は指摘する。
藪氏はクーポンサイトを否定しているわけではない。現にクーポンサイトによるネット予約は今も続けている。しかし、クーポンサイトの導入をきっかけに、自らの存在意義を考え直した。藪氏は、「カット、カラー、パーマしか売れる物がないと美容師は決めつけている。新しい価値あるサービスを創造することをしないから、値引き戦略に集客を頼りっぱなしになってしまう」と指摘する。単にサービスの値引きより、本当にお客様が喜んでくれ、美容師側もやりがいがあるメニューとはなんなのか? まずは「理念」をベースに考え直すことから、GAROの再生が始まった。
思いやりを理念として掲げてきた「つもり」だった
GAROが掲げていた理念は「思いやり」。この理念を元に、GAROは事業を進めてきたが、あくまで「つもり」だったという。藪氏も、「人として、美容師として、人を思いやる心が重要」だと言い続けてきた「はず」だった。「でも、この理念がスタッフに共有されてなかったことが、このとき初めてわかった」と藪氏は振り返る。
同時にすべてのスタッフがなにかしらの裏方の仕事を持っていたことも理解した。「教えたこともないのに、在庫の発注や道具の整理までスタッフがやっていた。職人美容師の『見て学べ』という古い考え方があったからです。でも、誰が悪いって、僕が悪かったんです」と藪氏は語る。
そして、「これを導入したら、なにかが変わる気がした」という理由でkintoneを導入。業務システムより前に始めたのは、まずは理念の共有だった。「スタッフにタブレットを持たせ、金曜日の朝の1時間を理念共有のためだけに使った」とのことで、「フロントのマナー」、「今日しかできないサービスはしない」「常連さんにこそ、新鮮さを」などのテーマをkintoneに登録し、思いやりをベースにスタッフと話し合った。「お客様がお店を出るときに、髪が顔についているのをとってあげるとか。そういう行動は理念が共有されているからできるはずなんです」(藪氏)。
kintoneで作った業務システムもスタッフへの「思いやり」を盛り込んだ。たとえば、ヘアケア商品の在庫管理。今まではFAXで受発注していたが、kintoneとバーコードを組み合わせ、受発注と在庫を管理した。「単純な作業なんだけど、僕ら美容師はこういう作業が面倒くさい。だから、バーコードリーダーをつないで、kintoneで全部処理している」(藪氏)。
また、カットスキルを上げるためのレッスンもkintone化した。「レッスンも100項目くらいあって、どこまで到達したのか、どれくらいの練習をやっているのか、管理するのが面倒くさかった」(藪氏)とのことで、紙からkintoneに移行。また、顧客管理アプリも作り、お客様が五位堂店と真美ヶ丘店のどちらに来ても、一貫した対応がとれるようになったという。その他、ウイッグの購入、シャンプーの販売、レッスン後のテスト、今月の目標やToDoまで、美容室のさまざまな業務を徹底的にkintone化するようにしたという。
裏方仕事が効率化すると笑顔が増え、コミュニケーションが生まれる
こうしたkintoneによるシステム化は、スタッフがすべて本来の接客に専念するため。「裏方仕事をすきま時間に効率よくこなせるようになると、スタッフ同士にコミュニケーションをとる余裕が生まれます。サロンワークに集中できるので、おのずとみんな笑顔になります。笑顔が増えると、お客様もリピートしてくれるようになります」ということで、スタッフ、お客様を巻き込んだ好循環が生まれた。
最後、藪氏は「バラバラで、思いやりのあるつもりだった美容室」という2年前のGAROを振り返る。「(美容師は)職人なので、他人のことが気にならない。人が困っていても、担当じゃないお客様が困っていても、気にならなかった。でも、思いやりの理念を共有してから、そういうことはなくなった。ロジカルで、思いやりのある店に生まれかわった。kintoneで、思いやりのある店に生まれかわったんです」と聴衆に訴える。
スモールビジネスの課題とkintoneによる業務改善を1人の経営者の立場で生々しく語った藪氏のセッション。「これからもkintoneとともに、進歩・発展できるよう、今年も絶好調でがんばっていきます」とまとめた藪氏は、応援にかけつけたスタッフはじめとした聴衆から多くの拍手を受け取っていた。
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