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美容業界を変革する老舗企業のデジタルトランスフォーメーション

社名変更を機に戦略、IT、働き方まで変えたビューティーエクスペリエンス

2019年06月26日 09時00分更新

文● 萩原愛梨 写真●永山亘

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 美容室向け商品を主力とするヘアケアメーカーのビューティーエクスペリエンス。美容業界の中でいち早くデジタル化による生産性の向上を推し進める同社の戦略について、代表取締役CEOの福井 敏浩氏と業務システム部 部長の石川亮氏に伺った。

ビューティーエクスペリエンス 代表取締役CEO

生産性向上のきっかけとなった大きな戦略転換

 働き方改善のため多くの企業が手を尽くしているが、手法ありきの打ち手になり抜本的な解決に至らないケースは多い。ビューティーエクスペリエンスでは、大きな戦略転換の中で生産性の向上をはかり、少数精鋭でありながら美容業界で大きな存在感を示している。

 同社は1975年に美容室向けのウェーブ剤やヘアケア、ヘアカラー剤を製造するメーカーとして創業した。この美容室向け事業は、現在もコア事業として約80のディーラーを通し、全国各地の美容室へ商品を卸している。異なるブランドを立ち上げ、ドラッグストアやバラエティショップで消費者に向けた小売事業も展開している。

 ビューティーエクスペリエンスが身を置く美容室を中心とした美容業界には、主に3つのプレイヤーが存在する。商品を製造するメーカー、それを販売するディーラー、そしてディーラーから商品を購入し、エンドユーザーへ提供する美容室だ。最近では早期に店舗から独立しフリーランスとして活躍する美容師も増え、美容室の数は増え続けている。しかし、小規模な経営を行なう店舗が多いためか、美容室ではデジタル化が進まず、ディーラーと美容室のコミュニケーションは受発注システムを使わず電話やFAXなどを利用することも多いという。

 そんな中、デジタル化を推し進めることによって成長を遂げているのが、ビューティーエクスペリエンスだ。その背景には2015年の社名変更に伴う大きな戦略変更がある。それまでの同社は、髪を傷めず効果を発揮する高品質を強みとしたフォロワー戦略だった。他社で成功実績のある商品をより高クオリティで売り出していたのだ。しかし、社名と共にミッションを「人生に、新しい美の体験を。」と変更。同時に顧客ニーズを汲み取った既存市場にない商品を開発していこうと、マーケットリーダー戦略に切り替えた。

社内・社外に向けたデジタルの活用とパートナー戦略の実行

 この大きな転換期に、同社が取り組んだことが3つある。

 1つ目に、社内のクラウド化・デジタル化だ。いつでもどこでも働ける環境のために、業務アプリをOffice 365、顧客管理をセールスフォース、書類などのデータ管理をBOX、経費精算をマネーフォワード クラウド経費など、あらゆるクラウドサービスを導入。「社内システムのデジタルトランスフォーメーションに取り組み、クラウド化もかなりやりつくした感があります。いつでもどこでも業務ができるようにiPhone、iPadを配布しているので、ほとんどの業務が外出先で完結します」(石川氏)。ペーパーレス化が進み、書類のやりとりのためだけの無駄な移動なども不要になった。これにより業務のスピードアップはもちろん、データがクラウド上にまとまっていることから分析もしやすくなり、生産性向上に繋がった。

ビューティーエクスペリエンス 業務システム部 部長 石川亮氏

 2つ目が、パートナー戦略だ。現在のビューティーエクスペリエンスの大きな強みは、美容室と共同開発する商品力の高さだ。これらは、パートナーとなる美容室とコンセプト設計の段階から取り組んでいるという。このパートナー戦略について福井氏は、「現在約25万店以上ある日本の美容室の中で、われわれの商品を扱っている店舗は一部なので、そう考えると市場的にはまだまだ可能性があります。しかし、私たちは“選択と集中”に重きを置き、共感でき、勢いのある美容室の皆さんとWIN-WINの関係を築きたいと思っています」と語る。

 パートナー戦略のもう1つの観点として、よりデジタル化に積極的なディーラーや美容室とパートナーシップを結んでいる。美容業界もデジタルを推進するプレイヤーも現れ、変化を迎えている。その中で、同じ方向性で生産性を上げていけるパートナーと協業しているのだ。

 最後に、リアルとデジタルを組み合わせたマーケティング戦略がある。象徴となるのがリーダーシップ戦略に切り替えた中で誕生したヘアカラー剤「THROW (スロウ)」だ。日本人特有の髪の赤みを消し、外国人のような寒色系カラーを実現する商品で、近年のヘアカラーブームを牽引してきたブランドと言える。このTHROWは現在全国約1万の店舗で取り扱われているが、これに貢献したのが「THROW journal(スロウジャーナル)」というヘアカラーに特化したオウンドメディアだ。

ヘアカラーに特化した「THROW Journal」

 この成果について福井氏は、次のように語った。「THROWではTHROW journalをみた美容師の方が、サンプルを要請して販売に至るケースも多くありました。これまではディーラーを通してしか商品を美容室へ提案しないプッシュ型一本の営業でしたが、このオウンドメディアによってプル/プッシュを組み合わせた強固な体制を作ることができたんです」

 THROW journalでは美容師自身も情報発信しており、現在THROW journalを起点としたコミュニティができつつある。また、コミュニティ活動はオンラインに留まらない。ビューティーエクスペリエンスが所有するスタジオや、各美容室の店舗でオフラインでもイベントを実施している。

少数精鋭で高い生産性を実現していく

 これらの3つの取り組みの成果もあり、現在ビューティーエクスペリエンスでは正規・非正規を含めた社員213名で、11種以上のブランド展開、美容室との取引という、高い生産性を誇っている。人材戦略について福井氏は、「闇雲に人員を増やすのではなく、全体の生産性をあげることで収益をあげ、社員にも還元していきたい」と語る。

 福井氏は、多くの決断において“選択と集中”を重要視しているという。すべてをデジタル化するのでなく、システム導入が進みやすい社内には力強く推進するものの、社外においてはパートナーを選択しながら緩やかにデジタル化を進めている。今後の展開としては、強みである処方開発をデータベース化することでさらに強固にし、ディーラーだけでなく美容室を対象としたCRMを強化していくという。

 美容業界に限らず、全体としてデジタル化が進まない業界は存在する。人材難や従事者の過剰労働など働き方の問題が顕在化しても、業界構造自体が原因の場合、なかなかイノベーションは起きづらい。しかし、そんな業界もいよいよ変化に迫られているのが現在だろう。ビューティーエクスペリエンスの戦略転換の事例は、この過渡期に決断を迫られる企業への警鐘なのかもしれない。

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