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業務改善に効く最新ビジネスクラウド活用術 第12回

Sansanの担当者に運用のコツを聞いてみた

Sansanで名刺情報を蓄積して活用すると商談が増えて売上が上がる?

2018年03月14日 11時00分更新

文● 柳谷智宣

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 ここまで連続3回で「Sansan」の活用を紹介したが、今回はSansanのSansan事業部 営業部 エンタープライズ統括マネジャーである和田圭介氏にいろいろとお話を伺ってみた。

Sansan Sansan事業部 営業部 エンタープライズ統括マネジャー 和田圭介氏

10年以上名刺管理クラウドサービスを練り上げてきたSansan

 Sansan株式会社は2007年に創業し、以来10年以上に渡って、名刺をデータ化しクラウドで運用することに注力してきた。当時から、OCRソフトなどで名刺をデータ化する製品は発売されていたが、精度が低く、どうしても手動入力が必要だった。

 名刺は多い人だと年間数千枚、少なくても100枚以上は交換する。ただでさえ忙しいビジネスパーソンが、単純作業の名刺入力に何時間も取られるのはなかなかの苦行だ。そこを代行してくれるSansanが頼られるのも当然と言える。現在、6000社以上の企業が利用しており、個人向けの名刺管理アプリ「Eight」を含めると、数百万人ものユーザーがSansanの名刺管理クラウドサービスを利用しているのだ。名刺クラウド管理サービスはほかにもいくつかあるが、もちろん先駆けであるSansanがトップを独走中。大手企業が名刺管理クラウドサービスを導入する場合は、ほぼほぼSansanがチョイスされる状況だ。

 当たり前だが、同社もSansanを利用しており、溜まった名刺は10年間で40万枚以上。顧客の中には、さらに多くの名刺を交換している企業も多い。

 「名刺でつながる情報をデータベースしたことで、もっと何かできることがあるのではないか、ということを突き詰めてきました」(和田氏)

 法人向けサービスであるSansanは、企業として顧客データベースを構築できるのがウリ。膨大なつながり情報からビジネスチャンスを見つけたり、新しい気づきを得られるのが価値なのだ。

 単に、自分が交換した名刺情報を管理しているわけではないという。ある企業の本部長を務めるAさんに会いに行く場合、Sansanにデータが入っていれば、Aさんが過去にどんな役職を経験し、自社の誰に会ってきたのかもわかる。新しい人に会うときにはとても貴重な情報になることは想像に難くない。以前Aさんと接点のあった自社の人間の話を会話のフックにして、相手の記憶を呼び起こせればビジネスが盛り上がること間違いなしだ。

 逆にリスクマネジメントになるケースもあるという。取引先のCさんに会いに行く場合、これまではわかっても自社の前任者くらいしかわからない。本当はそのCさんと、自社の社長は古くからの知り合いで、トップ営業で見知らぬプロジェクトが動いている可能性もある。そのまま、突撃してCさんの地雷を踏んでしまったら、単に失注するだけでなく、自社内でも大トラブルになることは目に見えている。Sansanであれば、いつ誰が名刺を交換したのかがすぐにわかり、事前に社長や上司に確認を取ることができるようになる。

たとえば、浅葉建設の田中徳兵衛さんと満島君がいつ名刺を交換し、今はどんな肩書きになっているのかがわかる

 さらに、名刺情報が大量に溜まると、社員が外部の人とどういう風に付き合っているのかがわかるようになるという。たとえば、2016年と2017年の名刺交換枚数を見れば、人脈の構築度は一目瞭然だ。もし、大幅に減っているのならケアする必要があるだろう。ほかには、うまく契約をまとめられない部下に「取締役には会ったのか?」と聞いた時に「えぇまぁ」と返ってきても、名刺が登録されていなければ会ってないことがわかってしまう。企業としても、どのエリアの名刺が少ないのかがわかれば、開拓市場として検討できる。逆に、名刺の交換枚数が急増しているエリアにはリソースを回そう、といった経営判断ができるようになる。

 大企業では、働いている人数が多すぎて、同僚がどんな人なのかも把握できていないことが多い。交換している名刺を見れば、その人のバックグラウンドがわかるようになるそう。たとえば、IT企業の人とたくさん会っているなとか、中でもスタートアップ業界に強いといったことが、出会いからわかるのだ。社内にタレンテッドな人がいても、知らなければ協力を仰ぐこともできない。顧客情報データベースが、実は社内の人事情報に転用できるというのには驚いた。

自社スタッフのプロフィール画面で、どんな業種とどれくらい名刺を交換しているのかがわかる

風が吹けば桶屋が儲かると同じで名刺管理できれば売上が上がる

 これからのAI時代にはデジタル領域の拡張が必須で、名刺というアナログ資産をデータ化するのも避けられないと和田氏。

 「最近、仕事のやり方が変わってきています。AIが登場し、活用するためにはデジタル領域を広げる必要が出てきました。ディールやアカウントをCRMやSFAで管理するのが従来型の世界で、キーマンなど、人の情報も一応扱えます。しかし、出会った人すべてを入れるCRM(顧客関係管理)システムはありません。もし作ったとしても全従業員に手入力を強いることは不可能です。企業データの数はたかが知れてますが、人の数は膨大だからです。アナログの名刺をデジタル化するのにも手間がかかり、企業情報と違って、人の情報は更新の頻度がずっと高いのもネックです」(和田氏)

 以前のSansanは名刺の電子化ツールのような感じで、営業職が利用することが多かったが、今では全社導入が増えてきているという。営業だけだと、企業全体の顧客情報の20~30%しか登録できないそうだ。

 「名刺情報のインとアウトを考える必要があります。営業が使うから入力も営業だけでいいというのはSFA(営業支援システム)と同じ考え方です。営業が使う(=アウト)としても、名刺の登録(=イン)をどうするか考えはじめると難しくなります。全社導入としてしまえばすべて取り込むことができます」(和田氏)

 また、Sansanを使う場合、ビジネスに重要そうな名刺だけを登録すれば済みそうに感じるが、こちらも実際は逆だという。

 「重要性が低い名刺は入れなくてもいいのでは、と言われることがありますが、むしろそっちが重要ですと答えます。自社と一番取引が大きい会社の役員やキーマンは、名刺を管理しなくても、その人の連絡先を誰もわからなくなることは、まずありえません。逆に、重要出ないと判断した人が5年後10年後に何をしているのかは誰にもわかりません。それが自社の名刺管理データベースにあるということが宝物になります」(和田氏)

 人事情報は、ほかの人が名刺交換すれば更新されるし、日経新聞やダイヤモンドといったメディアの情報を取り込むこともできる。また、Sansanの個人向け名刺管理アプリ「Eight」と連携しており、そちらで名刺が更新されれば、人事情報として取り込むことも可能だ。

 名刺交換した人が、5年後10年後にどこかの会社のキーマンになった時、以前どこどこでお世話になった、と連絡できるメリットは、営業マンであれば身にしみていることだろう。

 同時に、導入を検討している企業としては、名刺管理をすれば売上が本当に上がるのか? という点が気になるところ。

 「売上につながる成約数と案件数は比例します。案件数と商談数も比例します。営業担当のスキルで成約率は変わるものの、そこは数には勝てません。そして、名刺を管理することで営業がリーチできる人が増え、商談数を増やすことができます。商談数が増えれば、売上増にもつながるというわけです」(和田氏)

 まさに、風が吹けば桶屋が儲かるケースの風を起こせるというわけだ。Sansan自身も顧客へのアプローチに活用している。もちろん、営業先を探すのにも使っているのだが、イベントを開催する際も活躍しているそうだ。「第11回 Sansanで人物や見込み案件の管理などをしてみる」で紹介したように、Sansanには登録した名刺宛てにダイレクトメールを打てる機能が搭載されている。同社が大阪でセミナーを開催しようとしたときに、東京で交換した名刺から「大阪」で検索した相手に案内を送付した。すると、6時間後には定員の60名をオーバーするほどの反響が来たという。大量の名刺が蓄積されている必要はあるものの、大阪にある会社ではないのに、大阪での集客をコストを掛けずに短時間でできるメリットは大きい。

蓄積した人脈にメールを一括配信して、需要の掘り起こしができる

連携サービスや新機能を日々強化して進化を続けるSansan

 Sansanは名刺のデータベース化を軸に、さまざまなシナジーを生み出すべく、日々新機能の開発を行なっている。2017年12月には、帝国データバンクの企業情報サービスや企業間取引データと連携した、新機能をリリース。従来は、取り込んだ名刺の会社しか表示されなかったが、ターゲットとする企業と取引のある会社を表示できるようになった。つまり、自社と取引している会社からターゲット企業につながる人脈情報がわかるというわけだ。

名刺から登録した会社の「取引先」タブで、つながりのない企業の情報を確認できる

 「BtoCのサービスでは、レコメンド機能などの自動化が進んでいますが、BtoBでは遅れています。法人向けサービスなので、企業に営業する際、この人に会った方がいいですよと提案してくれると、利便性が高まります。人物情報が会社のインフラとして整備されていれば、営業効率もアップできます。近いうちにこの機能もリリースする予定です」(和田氏)

 そのほかにも、Sansanは2015年からAPIを公開しており、セールスフォースやMarketo、kintoneなどさまざまなサービスとデータを連係している。zapierにも対応しており、さらに幅広いデータの活用が可能。Sansanの名刺情報をあらゆるビジネスシーンで利用できるので、人物入力の手間を総合的に削減できるようになる。

 BtoBサービスであるSansanの価格はケースバイケースだ。おおよそ名刺を交換する枚数を基準に金額が決まるとのこと。初期の頃はアカウント数による課金だったのだが、顧客から「全社員に入力はさせたいが、アウトプットを利用するのは営業だけなので、事務の人も同じ単価というのは嫌だ」という声が寄せられたという。

 「ボリュームディスカウントも考えたのですが、やはり人数課金に無理があるなと考えました。そこで、2年前からコーポレートモデルという価格プランを一般化させました。全社員にアカウントを付与していただき、すべての拠点にSansanスキャナーも置いて下さいと。その上で、1年間でデータ化する名刺の枚数を予測し、価格を決めています」(和田氏)

 業界や企業によってひとり当たりの名刺交換枚数はまちまちなのに、どうやって年間の交換枚数を算出するのかと思ったら、その企業が前年に発注した名刺の枚数に一定の係数を掛けているという。なるほど、と膝を叩いた。

 たとえば、500人規模の企業で月間5000枚くらいを交換すると見込んだ場合、約50万円/月の見積をするイメージだ。ミニマム契約では、主に社長ひとりが入力し月額6万円程度で導入している事例もあるそう。もちろん、数千人数万人が働く大企業になると、利用料が年間で数千万円から1億円を超えることもある。

 それでも、名刺の入力と管理業務から開放され、蓄積した弱いつながりから生まれるビジネスチャンスにより、十分ペイするからこそ、6000社を超える導入が実現されているのだ。Sansanは、今後もどんどんデータベースを活用するための機能を開発していくとのことで、どのように進化するのか目を離せないところだ。

Sansanは年の瀬に「名刺納め祭」を開催している。写真は2017年12月13~15日の様子(Sansan提供)

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