空間系エフェクトはドラッグ
ちなみに空間系エフェクトをかけ、例のサラウンド機能「Acoustage」をオンにすると、左右への音の飛び出し方が、まあどえらいことになる。病み付き必至のドラッグ感覚だ。ところが、この効果はUSBには出力されず、録音には反映されない。残念。エフェクト単体で発売してくれるか、将来、ステレオ仕様のヘッドアンプに内蔵されることを期待したい。
ついでに一応は存在する残念なところを挙げると、ファズやコンプのようなプリ系のエフェクトがなく、キャビネットとアンプモデルが抱き合わせでしか選べない。でも、それでちゃんと使える音が出てくるので、文句はない。ファズやコンプは手持ちのストンプボックスを踏んでいこう。
もうひとつ、同じような値段で買える「MV50」と、8インチキャビネット「BC108」のセットと比べてどうなんだ、という話もあるだろう。家で使うだけならAdio Air GTの方がいい。MV50は、ある程度音量を必要とするリハスタやライブハウス向きだ。
MV50だってパワー段はデジタルだから、フルに歪ませても音量は自在。でも8インチキャビはローが出ない。練習用としてはストイックでいいのだが、音が小さいとイマイチ盛り上がれない。その点、Adio Air GTは、音量を絞ってもマーシャルのキャビにマイクを立てて録ったようなバランスで鳴る。シミュレーターだから当然と言えば当然だが、プロっぽい音で気分良く弾ける。
それにしても、これで3万円を切る価格は安い。一番安いアンプシミュレーターとオーディオインターフェースとパワードモニターをバラ買いしても、この値段にはならない。同様の製品はヤマハにもフェンダーにもあるが、VOXはインターフェース周りが強力。だから宅録や家弾きで盛り上がりたい人向きだ。
そこで最後に宅録。iPadとUSBでつないで、iOS版のガレージバンドで録ってみた。マーシャルのJCM800をシミュレートしたと思われる「BRIT 800」に、PGMのPTC-P90というギターの組み合わせ。ギターが変な仕様(マホガニーボディーにフェンダースケールのネック、そしてP90タイプのピックアップ)で参考にならないかもしれないが、特徴はしっかり出ている。
ところで先日、BOSSブランドから「KATANA-AIR」という、卓上ギターアンプが発表された。特徴は「完全ワイヤレス」。ギター用トランスミッター付属で、本体にレシーバーとトランスミッターのバッテリーチャージャーを内蔵している。
むむっ。家弾きでもワイヤレスの時代なのか。発売は4月、価格は4万円の予定とか。この卓上デジタルギターアンプというジャンル、特徴ある製品がどんどん出て来て、なんだかおもしろくなってきた。機会があったら、こちらもぜひ試してみたい。
著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ