ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第436回
業界に痕跡を残して消えたメーカー Appleに不満を抱くメンバーが立ち上げたNeXT Computer
2017年12月04日 12時00分更新
ハードウェアの売上はまずまず
さて売上は? というと、1990年9月の時点で、月間あたりわずか500台程度であった。いかに使い勝手が良いからとはいえ、アプリケーションソフトも少ない。価格もNeXT stationだと5000ドル、NeXT cubeだと1万ドルでかなりのものだ。
この当時だとちょうどAppleはMacintosh IIを発表した頃だが、こちらは基本価格は5498ドルで、しかも山ほどアプリケーションソフトがあった。この差を考えると、単に「良さげ」だけで購入できる金額ではなかったということだろう。
売上をテコ入れすべく、1992年にはプロセッサーを33MHzの68040にするとともに、最大メモリー容量を128MBに増強したTurboシリーズも追加される。ただし価格は、NeXTcube Turboが18610ドル(NeXTdimensionカードも込み)、NeXTstation Turboが6500ドル、NeXTstation Turbo Colorが8995ドルとさらに跳ね上がっている。
画像の出典は、“Obsolete Technology Website”
1992年、同社は累計で2万台のマシンを販売したが、ここには既存のNeXT cube/stationのアップグレードや、NeXT computerのアップグレードなども含んだ数字であり、実数としてどの程度新規に販売されたのかは不明である。
とはいえ1992年の売上は1億4000万ドルで、Sun Microsystemsに比べると数分の一ではあるが、そう悪い数字ではない。これをうけてキヤノンはさらに3000万ドルほど投資を増やしているが、ここからNeXTは大きく方向転換する。
ハードウェア事業から撤退
NeXTSTEPの移植に注力する
既存の68Kシリーズは68050がキャンセルになったりしたこともあり、先行きがはっきりしなかった。そこで同社はNeXT RISC Workstation(NRW)という開発プロジェクトを立ち上げ、まずMotorolaの88100を検討したものの、これはMotorolaがその先の製品を保証しない(事実88100で打ち切りになった)こともあって頓挫。そこでPowerPC 601のデュアルCPU構成での開発を始めるものの、それが完成する前にそもそもハードウェア事業からの撤退が決まる。
先に述べたJobs氏のビデオにもあるが、かならずしも同社のビジネスは特定のハードウェアがなくてもソフトウェアだけでも成立しえる。実際1992年から、他のプラットフォームへのNeXTSTEPの移植が開始されており、まずインテルの486、ついでHPのPA-RISCやSunのSPARCへの移植もスタートしている。また、公式にリリースされたものではないが、PowerPCへの移植もスタートしていたはずだ。
1992年末のNeXTSTEP 3.0に続き、1993年5月にリリースされたNeXTSTEP 3.1では68030/40に加えてi386、PA-RISC、SPARCの各アーキテクチャーに対応したものがリリースされた。
さらにNeXTSTEP 3.2をベースにSunと共同でOPENSTEPの開発にも乗り出している。これはNeXTSTEPからカーネル依存部を切り離し、SolarisやHP-UX、Windows NTなどの上でも動作できるようにした。このOPENSTEPはその後、MacOSのGUIのベースとなっている。
こんな具合に会社が完全にソフトウェアのみに製品を絞ったことに対応して社名もNeXT Software Inc.に変更し、当時540名いた従業員のうち、ハードウェア関連に従事していた300名を解雇。フリーモントの工場もキヤノンに売却している。
こうした同社の方針転換は競合にはむしろ歓迎されており、SunのCEOだったScott G. McNealy氏はNeXT Softwareに1000万ドルの出資をし、将来のSunのOSとしてライセンスする計画があることを表明したりしている。
その後の歴史はご存知の通りだ。連載423回でも触れたとおり、1996年にAppleがCoplandの開発に失敗したとき、Gassee氏の次にやってきたのがJobs氏である。
最終的にAppleはOPENSTEPを買収し、これを次期OSに据えるいう決断を下し、同社を4億2900万ドルで買収する。Jobs氏はまずAppleの暫定CEO、次いで正式なCEOに復活し、そこからiPhoneやiTunesで新しいビジネスを生み出し、現在に至っている。
その意味では、早めにハードウェアビジネスに見切りを付けたのは正解だったということかもしれない。

この連載の記事
-
第813回
PC
Granite Rapid-DことXeon 6 SoCを12製品発表、HCCとXCCの2種類が存在する インテル CPUロードマップ -
第812回
PC
2倍の帯域をほぼ同等の電力で実現するTSMCのHPC向け次世代SoIC IEDM 2024レポート -
第811回
PC
Panther Lakeを2025年後半、Nova Lakeを2026年に投入 インテル CPUロードマップ -
第810回
PC
2nmプロセスのN2がTSMCで今年量産開始 IEDM 2024レポート -
第809回
PC
銅配線をルテニウム配線に変えると抵抗を25%削減できる IEDM 2024レポート -
第808回
PC
酸化ハフニウム(HfO2)でフィンをカバーすると性能が改善、TMD半導体の実現に近づく IEDM 2024レポート -
第807回
PC
Core Ultra 200H/U/Sをあえて組み込み向けに投入するのはあの強敵に対抗するため インテル CPUロードマップ -
第806回
PC
トランジスタ最先端! RibbonFETに最適なゲート長とフィン厚が判明 IEDM 2024レポート -
第805回
PC
1万5000以上のチップレットを数分で構築する新技法SLTは従来比で100倍以上早い! IEDM 2024レポート -
第804回
PC
AI向けシステムの課題は電力とメモリーの膨大な消費量 IEDM 2024レポート -
第803回
PC
トランジスタの当面の目標は電圧を0.3V未満に抑えつつ動作効率を5倍以上に引き上げること IEDM 2024レポート - この連載の一覧へ