最新ユーザー事例探求 第49回
「何かおもろいことをやれ!(ただし低予算で)」の企業文化が育てるイノベーション
おもろい航空会社、Peachが挑む“片手間でのAI活用”とは
2017年10月16日 07時00分更新
ごく身近な業務改善にもAI/機械学習の能力を生かす
コンタクトセンターのような対外的なサービスだけでなく、前野氏らは社内業務においてもAIの業務活用に挑戦している。そのひとつの例として、前野氏は自社で開発した“AIテレホンオペレーター”(AI電話番)を、デモを交えながら紹介した。
これはイノベーション統括部に電話がかかってきた際、まず自動応答で「誰宛の電話」なのか、スタッフの姓を音声で答えてもらい、それをSpeech to Textを介して理解したうえで、スタッフ個人に転送するというものだ。PeachではIP電話とクラウドPBXを採用しており、たとえスタッフが出張などで社外にいても直接転送できる。
そもそもこれは、同社のオフィスで電話の取り次ぎに問題が生じていたために開発したものだという。同社ではフリーアドレスを採用しているが、スタッフ数が増えるにつれ、電話がかかってきてもそのスタッフがどこにいるのかわからない、外出しているのかどうかもわからないという事態も増え、社内での不満のタネになっていた。
「もっとも、これには弱点もあって、『鈴木さんが2人いる』など同姓のスタッフがいる場合には判別できない(笑)。なので、これで全社を一気に解決するところまでには至っておらず、現状ではわれわれの部門のみで利用している。ただし、目標としていた90%の認識精度はクリアできており、たとえばよく電話のかかってくるセールス部門などで活用すれば、電話取り次ぎにまつわる社内の不満も減らせるのでは」
ちなみに、ここでは前出のCloud Speech APIではなく、GCP上のTensorFlow基盤を使ってSpeech to Text機能を独自に実装したという。Peachとしては、APIやサービスが提供されているものはそれを利用し、なるべく独自実装をしないことを基本方針としているが、Cloud Speech APIを使うと発話内容が「漢字で」返ってきてしまい、単に登録済みの人名とマッチングさせるうえでは「かしこすぎた。もうちょっとアホなAIがほしかった」(前野氏)。そこで今回は、自ら学習データを用意して独自に実装した。
もうひとつデモが披露されたのは、PCのマイクで聞き取った音声をWebブラウザ上にテキスト表示し、同時に英訳文も表示するというシンプルなツールだ。こちらでは、バックエンドにGCPのCloud Speech APIとCloud Translation API(翻訳API)を利用している。
単純な技術デモのようにも見えるツールだが、最近、イノベーション統括部に外国人のメンバーや聴覚障害のあるメンバーが加わったため、チームミーティングなどの場面でこのツールが活躍していると、前野氏は説明した。誰もが働きやすい環境を実現するツールとして、これからも社内での活用を進めていきたいという。
AI活用は「あえて言えば『片手間』でやる」、その理由は
今後の取り組みについて、前野氏は「片手間でできるAI活用」をキーワードに挙げた。上述したコンタクトセンターの自動応答システムや、音声のテキスト化/翻訳ツールは、いずれも本格的な開発に入ってから1、2カ月でできた。またAI電話番のツールは、1人のスタッフが業務時間の10~20%程度を使って、わずか数カ月間で開発したものだ。
「余った時間で……と言うとツールを作ってくれたスタッフに申し訳ないが、あえて言えば『片手間』でやっている。大企業ならばともかく、われわれの場合は大規模な研究開発投資は難しい。これでは大きな会社に勝てない。なので現段階では、最先端の技術開発は(グーグルなど)外部におまかせして、その技術を使わせてもらう。その代わり、それを活用するためのデータはわれわれの中でがっちり保持する。今後、AI(の学習やビジネスアナリティクスなど)では、データが一番重要になってくるので」
前述のとおり、Peachでは業務システムの90%をSaaSやパブリッククラウドで構築している。そのためいろいろなクラウドに業務データが分散しているが、これをGCPのデータ解析基盤である「BigQuery」に集約する取り組みも進めている。このデータを、また今後のAIツール開発や業務改善に生かしていく方針だ。将来的には、飛行機の運航オペレーションに役立つAIツールも開発できればと語った。
「目新しいものではなくても、あると役立つ、小さなソリューションをどんどん出していく。それによって業務改善を進め、少ない人数でもたくさんの仕事ができる、そういう会社にしていきたい」
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