HPEチーフアーキテクト、メモリ主導型アーキテクチャが実現する次世代のデータ洞察を語る
HPE「The Machine」は、ムーアの法則終焉の危機感が生んだ
2017年06月20日 07時00分更新
メモリ主導型コンピューティングはビッグデータの多角的分析を可能にする
――The Machineプロジェクトでは「メモリ主導型コンピューティング」の実用化を目指しています。メモリ主導型コンピューティングは、どのようなユースケースで役立つのでしょうか。実例を教えてください。
たとえばドイツのゲノム研究所DZNEでは、The MachineのプロトタイプとSuperdome Xプラットフォーム(※既存製品をベースに大容量メモリとメモリ主導型コンピューティングに最適化したソフトウェアを実装)の両方を利用し、2週間で9倍の高速化に成功した。
またHPE社内では、少しのコード変更だけで「Apache Spark」を15倍高速化することができている。ほかにも、セキュリティログのグラフ(相関関係)を表示する大規模なデータ分析ワークロードを試すことができた。この事例はエレメントどうしの相関関係のランダム性が高く、旧来のコンピューターでは不可能に近かったものだ。
また、財務サービスのアプリケーションでは、大量のメモリリソースという特徴を生かし、メモリ上に計算結果を保持するようコードを変更した。再計算するのではなく、メモリ上に保持されたデータを読み取ればいいので無数の計算処理ができる。これにより1万倍も高速になったうえ、計算あたりの電力コストも削減できた。
HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)と呼ばれる高度な科学計算分野には、メモリ主導型アーキテクチャが自然にフィットするだろう。この分野は常に処理能力の向上を求めているし、ユーザーが自らアプリケーションを開発しており、プログラミングスタイルを新しい技術に適用させることにも長けているからだ。
――先ほど「160TBメモリを搭載するシステムは、まだ誰も経験したことがない」とおっしゃいました。メモリ主導型コンピューティングが実用化された際に、ユーザーはそのコンセプトを理解し、使いこなせるようになるでしょうか。
たしかにここでは新しいソフトウェアのアプローチが必要かもしれない。最終的に判断を下すのは人間だが、膨大なデータを扱うためには機械学習のテクノロジーも必須となる。
たとえば、先述のDZENはアルツハイマー病などを研究する機関だが、彼らが必要とするコンピューターは、患者のゲノム情報だけでなくMRI画像、健康や運動、食事や栄養などの状態、服用中あるいは過去に服用した薬など、ありとあらゆるデータを同時に、しかも全員ぶんを一度に参照できるというものだ。The Machineは、そうした“視野の広い”コンピューターを可能にする。
実は、これまで視野を狭めていたのは人間自身だった。たとえばMRI画像を参照するとき、同時にゲノム情報や栄養状態のデータは見ていなかった。ここでは人間が(医学の知見などに基づき)「見るべきデータ」を決めているわけだが、人間のバイアスがかかっているとも言える。すべてのデータを同時に見ることのできるシステムがあり、バイアスのかからない機械学習によって、データから新たな洞察が得られる可能性がある。同じように、多様かつ膨大なデータを一度に参照できるコンピューターは、サプライチェーンや製造、エネルギーといったほかの業界でも有用なはずだ。
このように、メモリ主導コンピューティングはデータ洞察における新たな可能性の素地を提供する。これまで実現不可能だったような、面白いアプリケーションが出てくるだろう。
メモリ主導型普及に向けた業界団体「Gen-Z Consortium」立ち上げ
――The Machineプロジェクトで開発されたソフトウェアは、オープンソースで公開されていますね。
ハードウェアが先行しているが、ソフトウェア側でも並行して研究開発を進めている。メモリ主導型コンピューティングへの挑戦は、HPE一社の取り組みを上回る大きなスケールのものだと考えている。そこでわれわれは、プロジェクトで開発したものほぼすべて、5000近いモジュールをオープンソースソフトウェアとして公開している。
一方、ハードウェア側では「Gen-Z Consortium」という業界団体が立ち上がった。ここではDell EMC、ファーウェイ、IBMなど競合するシステムベンダーをはじめ、AMD、カビウム、マイクロン、ウエスタンデジタル、レッドハット、サムスンと、さまざまな立場の企業が参加し、巨大メモリプールに高速アクセスできるオープンスタンダードな技術仕様を開発中だ。
――メモリ主導型コンピューティングというビジョン、The Machineプロジェクトに対する、顧客やパートナーの反応はどうですか。
HPE Discoverの会期中、The Machineのユーザーグループを立ち上げた。The Machineが実現するメモリ主導型コンピューティングに関心のある開発者、技術者、業界の専門家などに集まってもらい、可能性やユースケースについて話し合ったり、技術情報を共有していく場となる。
――プロジェクトの今後の計画は?
次のマイルストーンはGen-Z Consortiumにおける標準仕様の策定だ。現在、今年夏の仕様完成に向けて策定作業が進んでいる。標準仕様が決まれば、シリコン設計チームが本開発に取り組めるし、ソフトウェア開発も進む。
2019年には、初の最適化されたシリコン実装が登場するものと期待している。
今のところはデータセンター向けの方向性で開発が進んでいるが、第2世代、第3世代のシリコンを開発する段階になると、組み込み向けやIoTセンサー向けへも取り組みを拡大させる方針だ。