安定した定位と少ない信号のドロップ
さて、イヤフォン本体に戻ろう。2つともまったく同じものなので、物理的に左右の区別はつかない。しかし、ペアリングした後に区別できる。イヤフォン側面のLEDが赤青に点滅するのがスマートフォンと接続するプライマリー側で、左チャンネルになる。装着したままペアリング操作する場合は、音声で「レフトチャンネル」「ライトチャンネル」とそれぞれのユニットが自己申告するので、それで確認もできる。
音質に関しては、まずトゥルーワイヤレスに特有の、左右チャンネルの位相差から音像が左右に揺れ動く現象は、ほとんど感じられなかった。Bluetoothゆえ、たまに音が途切れる現象は避けようがないものの、これも頻発してイライラさせられるようなことはなかった。より価格の高い製品でも不満に感じるものが多いので、優秀と言える。
ただし、音声遅延はあるのでゲームには向かない。動画再生時の音声のズレも、最近の機種としては少々大きい。映画なら俳優の口元がアップにならない限り違和感はないが、ミュージックビデオは奏者のアクションと音のズレがはっきりわかる。それでも動画を観て演奏をコピーしようというのでなければ耐えられる程度ではある。もちろん音楽だけの再生ならなんの支障もない。
音質はよく言えば、おかしな強調のない自然なバランス。具体的に言うなら、普及価格帯のオープンエア型イヤフォンをイメージしてもらうと、おそらくそのバランスに近い。レンジは広くないし、装着した瞬間、ほかとの違いに耳を奪われるようなものでもない。
しかし、小さいサイズのカナル型というと、大した情報量もないのに低域の音圧ばかり高くて疲れてしまうものが多いなか、妙な色付けでアピールしようとしていないので、割り切って付き合えるタイプの音ではある。本体の軽さも相まって、カジュアルな用途には十分応えてくれるはず。
問題はStickかPower Bankか
トゥルーワイヤレスイヤフォンも価格競争のフェーズに入ってきて、コストパフォーマンスが問われるようになってきたが、チャンネル間の位相差が解決できていない製品で、帯域特性のようなものを云々しても虚しい。そんな中、ステレオの定位が安定しているという点で、この製品には価格なりの価値が十分にある。
悩みどころはStickかPower Bankか。Stickはデザインと携帯性で優れるが、バッテリーに気を使わなければならない。Power Bankはバッテリーに余裕がある代わりに価格がちょっと高い。
そして低価格化が進んだおかげで、1万円台後半は激戦区になりつつあり、ほかのトゥルーワイヤレスイヤフォンがいくつも視野に入ってくる。しかし、この価格帯の他機種は、どれもBeat-inに比べてエンクロージャーが大きく、少々野暮ったい。エンクロージャーが小さく目立たないこと。これはBeat-inにしかない良さだ。
レビューした両機種はe☆イヤホン各店舗で試聴できるので、興味がある人は試してほしい。
著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ