この連載でも、たまにお届けする知ったかぶりシリーズです。前回は「コンピューターの歴史」をざっくりと振り返りました。今週は、「インターネットの歴史」を2000字くらいで、ざっと知ったかぶってみましょう(笑)
「インターネットの歴史」でググると、よく登場するエピソードがあります。それは「電話局のテロ事件が原因で、核戦争に耐えられるような通信ネットワークをアメリカ軍が研究(ARPANET)を開始…」みたいな話。
このエピソード、僕はかなりウソくさいと思っていました。というのは、こうした障害に強いネットワークのアイディアは、ネットワークトポロジー(ネットワーク構成)と呼ばれ、データ通信より、はるか昔からありました。つまり、データ通信だけじゃなく、水道や電力、電話網などのネットワークも、事故やテロ、戦争などで一部が破壊されて全体が使えなくなると困るわけです。
だいたい、核戦争が起きたら爆心地付近は電力網が機能しなくなっちゃうし、ケーブルとかは溶けちゃうし…。普通に考えたら通信衛星などの回線を使うでしょ…。ちなみに、通信衛星の米国での実用は1962年からです。
やっぱり、調べたら米国のワシントンDCやスイスのジュネーブなど、世界中に90以上の支部がある、インターネットソサエティ(ISOC、アイソック)が「核戦争想定スタート説」を公式に否定していました。
ARPANETが核戦争に耐えられるネットワーク構築と何らかの関係があると主張する間違った噂が始まったのは、ランド研究所の研究からである。ランド研究所では核戦争を考慮した秘密音声通信を研究していたが、ARPANETはそれとは全く無関係である。 (ISOC/『A Brief History of the Internet』より。日本語訳出典/ウィキペディア https://ja.wikipedia.org/wiki/ARPANET)
ちなみにランド研究所は1946年にアメリカ陸軍航空軍が設立。つまり、核戦争を想定した(音声)通信の研究とインターネットの前身は別のものだったわけです。
ARPANETの責任者だったテイラーも、1994年に米国タイム誌に掲載された同様の誤解に「核攻撃や軍の指揮系統と、インターネットの前身だったARPANETは無関係」と正式に抗議しています。
インターネットのスタートは、マサチューセッツ工科大学(以下MIT)の准教授だった、リックライダーが1960年に発表した論文。その中で、リックライダーは「世界中のコンピューターがつながりデータを共有すること」を提唱しました。
初期のネットは「メールでデートの約束」はNG?!
インターネットの構想が画期的だったのは、データをパケット(パッケージやブロック)で取り扱ったこと。
これは、現在の宅配便を想像していただければわかりやすく、一台のトラックの荷台にいろんな配達先の荷物が載せられ利便性と同じです。
それまでのデータのやりとりは、電話のように、送り主と受け取り主が直接結ばれる必要がありました。それが、みんなでひとつのケーブルを共有できるようになりました。
このパケット交換システムの基礎は、イギリス国立物理研究所のデービスとMITのクラインロックが構築しました。
1969年の12月までに、カルフォルニア大学ロサンゼルス校、スタンフォード研究所、ユタ大学、カルフォルニア大学サンタバーバラ校がネットワーク(ARPANET)で結ばれます。1981年までの12年でホスト(接続されたコンピューター)は213台になりました。
1982年頃までは、個人的なメール(食事やデートの約束など)をネットで使うのは厳禁。個人的な挨拶ですらNGでした。その理由は、当時、公費で研究されていたネットワークは「政府関係の仕事や研究のためだけに使われるべき」という、頭が固いというか、真面目な考えから。もちろん、商用利用などもNGでした。
共通の規格で世界がつながる
1980年代の終わり頃までに、世界中にさまざまな独自技術でのネットワークやコンピューター通信が乱立していました。トムハンクス主演のヒット映画『天使と悪魔』のオープニングに登場したCERN(欧州原子力研究所)もその一つです。米国では民間のパソコン通信サービス、CompuServeなどが知られています。
日本では、1980年代中頃から後半かけ、アスキーネットやニフティサーブが多くのユーザーを獲得。1989年の終わりには日本で20万人がネットに接続されていました。1992年には、それぞれのネット間のメールの接続が可能になり、現在のインターネットの形に近くなります。
本来、インターネットとは「ネットとネットをつなげる」という意味の言葉。つまり、各国、各ネットワークどうしが共通の規格(ルール)で結ばれたことも画期的な部分です。
筆者は、1987年ごろから大学の研究室や自宅で各ネットワークに触れていたため、日本からアメリカの友人とメールのやりとりができたときの感動をとてもよく覚えています。
当時は、遠距離恋愛とか、転勤とか、長距離電話はすごい高額な通話代がかかったんですよね。千円のテレフォンカードの束を片手に深夜の電話ボックスに引きこもる…、なんて自分自身の若さの黒歴史もインターネットの歴史と合わせて思い出しました(笑)。
そんな余談よりも、本当はTCP/IPとか、HTMLなどの説明も含めるべきだったかもしれません。しかし、このコラム、ざっくりと歴史を振り返る「知ったかぶりシリーズ」。そんな理由で許してください(笑)。
核戦争なんかより、世界中のユーザーの煩悩というか…、そんなことで技術は発展し、普及していく。そんなふうに筆者は勝手に想像しているんですよね。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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