自分のためにブライアン・メイの愛器「レッド・スペシャル」を作りたい一心で、ギター製作家になった伊集院 香崇尊(かずたか)氏。その腕の確かさはブライアン・メイ本人の知るところとなり、オフィシャル・シグネチャーの製作を依頼されるまでにいたった。
その伊集院氏が主宰するギター工房、ケイズギターワークスは、2016年1月のNAMMショーで初のオリジナルモデル「Kz One Standard」を発表。レッド・スペシャルを手掛けた次のステップとして、新しい時代へ向けてのスタンダードとなるべく、ゼロから設計されたギターだ。
完成度の高さからプロのバイヤーの評価も得て、一般の店舗販売もスタートした。しかし、同工房として初のオリジナルモデルということもあって、当初は考えもしなかった壁が立ちはだかっているという。
レッド・スペシャルを作るためにギター製作家になった伊集院氏は、どのような理由でどんなオリジナルの楽器を発想したのか。今回は、Kz One Standardの成り立ちとコンセプトについて。
フーチーズが公開している、メイプルトップfホール付きモデルのデモ |
工房をやめると言った途端に仕事が激増
―― 伊集院さんは、レッド・スペシャルのためにギター製作家になったわけですよね?
伊集院 17歳の頃の夢は、オフィシャル・シグネチャーの製作で叶ってしまったんですね。最初からそんなに長く続けるつもりもなかったし、だからいつか工房をたたもうとは、オフィシャル・シグネチャーを作りながら、ずっと思っていたんです。
―― 伊集院さんのブログを振り返ると、2011年末で工房をやめると宣言。その後、2012年末までの営業延長を宣言したものの、結局は工房を再開していまにいたっています。
伊集院 やめると発表した途端に、たくさんの励ましや応援をもらったんです。「レッド・スペシャルを修理してほしい」とか「その前にこれをやってくれ」とか。年齢的に新しいことをする最後のチャンスと思っただけで、特になにがしたかったわけでもなかったですから。お客さんに必要とされている限り仕事はしなければならないし、頼まれた仕事をこなすには、1年半はかかる状況になってしまったんですね。
―― それで執行猶予期間ができてしまった。
伊集院 言ってみれば、僕はレッド・スペシャルを追ってきただけ。でも、自分の中に蓄積した知識や技術、お客さんとのやり取りの中で得たものから、僕にしかできない新しいギターもいまなら作れるんじゃないか。僕がレッド・スペシャルに惚れ込んだ部分を取り入れた、新しいギターを作って世の中に広めたい。だったらこの仕事を選んだ意味もあるんじゃないかなと。
―― レッド・スペシャルではいけない理由は?
伊集院 いい楽器なんですが、一般に言われる扱いにくさ、弾きにくさもあるし、やはりブライアン・メイのアイコンなので、イメージとして強過ぎるんですよね。
―― 確かにあのギターは、トリビュートバンドでもなければ、持って上がれないですね。
伊集院 そうそう。あれを持っちゃうとクイーンを演らなきゃならない雰囲気になってしまう。でも、それではあまりにもったいない、いい部分がたくさんあるんですよ。そこがもどかしい。特に市販されているギターで、あんな音の出る楽器はないわけですから。
―― でも、弾きやすいように仕様を変えて、狙った音を出すのは大変なんじゃないですか?
伊集院 やってみないとわからないですからね。だから何種類か試作機を作って、ザグリの深さを変えてみたりとか、ザグリありとなしで2本作ってみたり、いろんなことをやって、比較はしました。
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