待望のPascalをベースにした初のGPU『GeForce GTX 1080』(以降GTX1080)は一体どういうGPUなのかを「最新パーツ性能チェック」でレビューした。GTX980どころかOC版980Tiも軽くヒネるパフォーマンスに圧倒された人も多いはず。しかし、GTX1080にはまだ語るべき機能が山のようにあるのだ。
今回の話は特にウンチク成分多めとなっている上に、すぐ試せない(ゲーム側の対応待ち必須)機能もある。だがいずれも今後のゲーム体験を楽しくできる要素ばかりだ。
今回の記事はGTX1080をベースに書いているが、同じGP104コアで製造されているGTX1070に置き換えても通用する。約9万円になりそうなGTX1080はスルーだが、ぐっと安いGTX1070(MSRP≒北米市場での想定価格が379ドルなので、日本市場だと5~6万円?)狙いの人も、予習として一読しておくべき話題だろう。
超高fpsにおけるティアリングを撲滅する「FastSync」
ゲームの表示クオリティーと液晶の関係では、GPUの出力する映像のフレームレートと、液晶側のリフレッシュレートのマッチングが重要になる。ティアリング(画面が中途半端に更新されることで水平に分断されるように見える現象)のない安定した出力を得るには液晶の垂直同期(Vsync)に合わせて映像を出力させるのが一番良い。しかし、画面のアップデート頻度は16.666……ミリ秒ごと(60Hz液晶の場合)に制限されるため、Vsyncを使うと画面表示の遅延(レイテンシー)が避けられないという問題がある。
逆にVsyncを無効にすれば、レイテンシーは最小化できるが、今度は画面にティアリングが発生する。GPUがレンダリングしたゲーム画面はフレームバッファー(VRAM)を経由し、HDMIなどの出力端子から送出されるが、送出の間にもGPUから次々と新しいデータが送り込まれるため、中途半端にフレームバッファーの内容が更新されるからだ。
そこでNVIDIAはVsync有効と無効の双方のメリットを享受できる「FastSync」を生み出した。GTX1080ではフレームバッファーは「フロントバッファー」、「レンダリング済バッファー」、「バックバッファー」の3つに分割される。GPUからの出力はまずバックバッファーに入り、レンダリング処理完了時点でレンダリング済バッファーとして扱われる。するとこれがフロントバッファーとなり、これがディスプレーへ出力される。
フロントバッファーの内容を出力している間は、GPUの出力はバックバッファーからレンダリング済バッファーで留め置かれる(出力終了時まで更新され続ける)……という仕掛けなのだ。このプロセスを制御するのはGTX1080(Pascal)に実装された“フリップロジック”という回路であるため、FastSyncは旧世代のGeForceでは利用できない。
FastSyncが有効なのはGTX1080では200~300fpsで動いてしまう軽めのゲーム、特にDirectX9世代のゲームだ。実際にGTX1080では280fps前後で出力されるFPSゲーム『Left 4 Dead』で試してみると、Vsync無効時は銃の発砲炎が見えるときにティアリングが感じられたのに対し、FastSync有効時はティアリングのない、安定した映像が得られた。見た目はV-Sync有効時と同じだが、レイテンシーがない分プレイヤーは素早く反応することができるのだ。
ここで疑問に思うのはNVIDIAが推進する「G-Sync」やライバルAMDの「FreeSync」、さらにNVIDIA独自の「Adaptive Sync」の立場だ。各技術の特徴を以下にまとめておこう。
・G-Syncはゲームのフレームレートが液晶のリフレッシュレートよりも高くても低くても安定した表示品質を得られる。
・FastSyncはゲームのフレームレートが非常に高く、液晶のリフレッシュレートを常に上回る状況で効果が見込める。
・Adaptive Syncはフレームレートが高い時はティアリングを抑えられるが、同時にレイテンシー問題が出る。
・V-Syncはティアリングはないが、レイテンシーやスタッタリング(突然フレームレートが半減する現象)の問題が残る。
という感じで、実はFastSyncはとG-Sync(FreeSync)は競合しないのである。