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高橋幸治のデジタルカルチャー斜め読み 第23回

「クラウドファンディング成立低くていい」運営語る地方創生

2016年05月19日 09時00分更新

文● 高橋幸治、編集●ASCII.jp

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商品の所有ではなく物語の共有こそが新たな幸福感/価値観を生む

 アメリカの心理学者であるアブラハム・マズローは人間の欲求を最低次の「生理的欲求」から「安全の欲求」「社会欲求と愛の欲求」「承認(尊重)の欲求」、そして最高次の「自己実現の欲求」まで五段階に分類した「欲求5段階説」で有名だが、彼は晩年、自己実現の欲求の上にもうひとつの欲求として「自己超越の欲求」を措定した。

 自己超越の欲求とは奉仕や献身などを含む利他的な心情であり、自分という存在よりも大きな集団や組織に対する貢献の希求である。

 以前、本連載で菅付 雅信氏と「物欲なき世界」をめぐる対談を行なったが、物質主義的な20世紀の幸福感/価値観からのシフトはまさに自己実現の欲求が自己超越の欲求と渾然一体となっていくプロセスであり、商品の所有よりも物語の共有に人々の関心が移行しつつあることを意味している。

 クラウドファンディングはまさにそうした時代の気分の変化が生んだ新たな創造経済であり、スパイキーな世界において、特に「FAAVO」のようなサービスは今後ますます重要性を増していくだろう。

 最後に取材に快く応じてくださった齋藤氏の印象深い言葉で本稿を締め括りたいと思う。

 これまでの考え方では数千人、数万人に支持されないプロジェクトはとかく成立しないと見はなされてきましたが、数十人に熱烈に支持されればやりたいことが実現できるという世の中じゃないとやはりおもしろくないと思うんですよね。だからFAAVOもひとつひとつのプロジェクトの規模ではなく、たとえ小さな案件でも、いろいろな事例をたくさん生み出せるようにしたいと思っています。そういう意味ではクラウドファンディング成立のパーセンテージがもう少し落ちてもいいと思っているんです。いまFAAVOでの案件成立の割合は約70%ですが、海外ではだいたい50%程度なんですね。その代わりプロジェクトの数が多い。成立のパーセンテージが高いのはそれはそれでいいことなんですけれども、同時に「失敗したら恥ずかしい……」というバイアスもかかります。もちろんFAAVOとしてはすべての案件を成功させられるように頑張りますが、エントリーするハードルをもっと下げて気軽に企画を立ち上げる環境作りも重要だと考えています。


著者紹介――高橋 幸治(たかはし こうじ)

 編集者。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、1992年、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、1995年、アスキー入社。2001年から2007年まで「MacPower」編集長。2008年、独立。以降、「編集=情報デザイン」をコンセプトに編集長/クリエイティブディレクター/メディアプロデューサーとして企業のメディア戦略などを数多く手がける。「エディターシップの可能性」を探求するミーティングメディア「Editors’ Lounge」主宰。本業のかたわら日本大学芸術学部文芸学科、横浜美術大学美術学部にて非常勤講師もつとめる。

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