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高橋幸治のデジタルカルチャー斜め読み 第23回

「クラウドファンディング成立低くていい」運営語る地方創生

2016年05月19日 09時00分更新

文● 高橋幸治、編集●ASCII.jp

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FAAVOにおける3つのクラウドファンディング事例

 齋藤氏にFAAVOの理念が非常にうまく反映されたクラウドファンディングの代表的な事例をいくつか紹介していただいた。

 まず宮崎県日南市の「子ども達に豊かな自然を残す!林業再生への挑戦、国産杉の工芸品を世界へ!」というプロジェクト。日南市はもともと「飫肥杉(おびすぎ)」という杉の木の産地で、伐採された木材はかつて造船のために主に使用されていた。しかし、木造船の衰退とともに飫肥杉の需要も激減。しかも、生態系維持のためには間伐だけはしなければならないという事態が続いていた。

 そこで自治体は伐採した木材を用いた工芸品を開発してきたのだが、これが海外で評判となり、予算を捻出できない自治体に許諾だけを得て、民間有志でニューヨークのギフトショーに出展するためにクラウドファンディングがスタート。目標額は250万円だったが、200人を超える賛同者から325万円の資金が集まり、海外での販路開拓に成功したばかりか、日南市の林業再生に向けて新たな一歩がスタートした。

宮崎県日南市の飫肥杉おびすぎを使った工芸品をニューヨークのギフトショーで紹介するためのプロジェクト「子ども達に豊かな自然を残す!林業再生への挑戦、国産杉の工芸品を世界へ!」

 「蛍丸伝説をもう一度!大太刀復元奉納プロジェクト始動!」は、岐阜県関市に住む刀鍛冶職人がエントリーしたプロジェクトで、戦後の混乱の中で消失してしまった「大太刀蛍丸」を復元し阿蘇神社に奉納しようというもの。

 この蛍丸は阿蘇氏の十代当主・阿蘇惟澄の所有であったが、1336年の激しい合戦の結果、惟澄が命からがら自陣に帰り着いた頃には無数の刃こぼれが生じていた。そして、疲れ果てた惟澄が大太刀を傍らに置き眠りに落ちると、夢の中に無数の蛍が現れ大太刀の刃にとまった。翌日眠りから覚めた彼がふと大太刀を見ると、蛍がとまった大太刀の刃は見事に元の美しい姿に戻っていた……という伝説を持つ。

 このプロジェクトの目標額は550万円とかなり高額だったが、一時はサーバーがダウンしてしまうほど全国からアクセスが殺到。なんと、公開後1日で2000万円を超える支援が集まった。

 この背景には刀剣が擬人化されたゲームが人気を博していたという想定外の要因や「歴女」と呼ばれる歴史好きの女性たちの存在が大きな推進力になったという。また、大太刀に蛍が群れ集まり刃こぼれを修復したという伝説が、ソーシャルメディア経由で同プロジェクトに共鳴する人々の姿と重ね合わされ、「われわれも蛍になろう!」という呼び掛けがネット上のあちらこちらで取り交わされたとのこと。以降、関市では刀鍛冶という文化の継承に関心が高まってる。

戦後の混乱で消失してしまった大太刀蛍丸を復元し、阿蘇神社に奉納しようという岐阜県関市のプロジェクト「蛍丸伝説をもう一度!大太刀復元奉納プロジェクト始動!」

 最後にもう1つ、「宮崎のレンガ道をアートで彩る!第一回みやざきアートマーケット」を紹介しよう。これは東京の大学を卒業後、故郷の宮崎市にUターンした女性が発案したプロジェクトで、彼女と地元の若手アーティストたちが結成した「みやざきアートマーケット(MAM)」が、宮崎の商店街を自分たちの作品の発表の場としつつ、同時にたくさんの人々を商店街に呼び込もうという企画である。

 このプロジェクトの注目すべきところはアートマーケット開催のための資金の目標額が5万円だったという点だ。

 5万円程度であれば人によってはすぐに捻出できる金額かもしれない。しかし、若いアーティストにとってはなかなか供出できるものではなく、小規模な企画ながらも、クラウドファンディングを利用して共感者と共に資金を集めようとした点が意義深い。

 結果として13人から6万円を調達することができ、クラウドファンディングは成立。2012年のこの第一歩をきっかけに、いまでは約40回のアートマーケットがコンスタントに開催されている。

 たかが5万円と思われるかもしれないが、この第一回が実現できていなければ現在までの積み重ねもなかったわけで、地域活性に主眼を置いたクラウドファンディングの成否は、単純にプロジェクトの規模や金額の多寡だけでは計れないという好例だろう。

宮崎市内の商店街を舞台に2012年から現在まで約40回続くアートマーケットの最初の一歩となったプロジェクト「宮崎のレンガ道をアートで彩る!第一回みやざきアートマーケット」

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