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高橋幸治のデジタルカルチャー斜め読み第20回

人工知能が多くの職業を奪う中で重要になっていく考え方

2016年04月19日 09時00分更新

文● 高橋幸治、編集●ASCII.jp

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この記事は『自慢消費は終わる、テクノロジーがもたらす「物欲なき世界」』の続編です。前回と合わせてご覧ください。

 パーソナルコンピューターとインターネットが私たちの生活に本格的に浸透し始めてから20有余年。もはやデジタルテクノロジー台頭以前のライフスタイルを思い出すことすらできないほど、私たちの行動様式、思考方法、さらには価値観、幸福感は大きな変容を遂げた。

 同時に人々の感覚と感性の変化にともなって、社会構造や経済基盤も20世紀型の旧モデルから21世紀型の新モデルへと移行を迫られている。

 そんな中、現在進行しつつある時代の地殻変動をさまざまな事例の検証やキーパーソンへのインタビューとともに描き出した編集者の菅付 雅信氏による書籍『物欲なき世界』が話題となっている。今週も先週に引き続き、著者の菅付氏に“物欲なき世界”がもたらすであろう社会と経済の未来像について話をうかがった。

「ほしいものが、ほしいわ。」というコピーが象徴する逆説

高橋 日本で多くの人たちがモノに自分のステイタスを反映させていた時代、つまり、“誇示的な消費”がなんの疑いもなく幅を利かせていた時代のピークというのはやはり1980年代だったと思うんです。まさに“物欲なき世界”とは真逆の“物欲にまみれた世界”ですけれども、あの時期、モノに対する欲望の増幅装置として広告が果たした役割は非常に大きかったと思います。

 広告があたかも芸術のようにもてはやされて、コピーライター、CMプランナー、アートディレクターといった仕事が花形職業になりました。そんな時代を象徴するスターといえばコピーライターの糸井 重里さんですが、菅付さんは著書『物欲なき世界』の中で糸井さんの「ほしいものが、ほしいわ。」という西武百貨店のコピーに注目されていますね。

Image from Amazon.co.jp
菅付 雅信氏の新刊『物欲なき世界』(平凡社刊)。資本主義の爛熟の果てに先進諸国が行き着いた“誇示的な消費”の終焉をさまざまな事例をもとに検証しながら、ポスト資本主義/ポスト消費社会へのポジティブな移行を模索する

菅付 あのコピーは“物欲にまみれた世界”の「終わりの始まり」を告げる象徴的なコピーだったと思うんです。時代的には1988年で、バブル景気の真っ只中ですよね。「ほしいものが、ほしいわ。」というのは完全なトートロジー(同語反復)で、裏を返せば、“欲しいモノがもうなくなってしまった”ということです。欲望の対象としての具体的なモノを提示していないわけですから、少なくとも消費の殿堂である百貨店が言うようなことじゃない。

 “誇示的な消費”が飽和に近づきつつある時代の気分を見事に表現したコピーだったと思いますね。西武百貨店がそのへんを意識していたかどうかはわからないですし、たぶんしていなかったのでしょうが、実際、その数年後にバブルがはじけて現在へとつながる低成長の時代に突入していくわけです。

高橋 モノ自体ではなく広告が付与するイメージを購入する、つまり、情報を消費する時代が終焉を迎える予兆だったのかもしれませんね。

菅付 糸井さんはその後パーソナルコンピューターやインターネットの普及とともに1998年に「ほぼ日」(ほぼ日刊イトイ新聞)を創刊しますが、以降、広告業界からすぱっと身を引きますよね。本当に時代の変化を的確にとらえていたと思います。しかもウェブの世界で広告モデルを展開したわけでもなく、会員制の課金モデルでもなく、あたかも糸井教に対するお布施のような物販モデルを作った。欲しいモノを自分で作って読者に提示するビジネスを始めたということですね。そこも驚くべき先見の明ですね。

1998年に糸井 重里氏が創刊した「ほぼ日刊イトイ新聞」。読み物としてのテキストコンテンツの配信だけでなく、オリジナルグッズの販売にも力を入れており、2002年から毎年販売されている「ほぼ日手帳」は約50万部の売り上げを誇る

高橋 当時の西武セゾングループの総帥は作家でもあり詩人でもあった堤 清二(ペンネームは辻井 喬)さんで、堤さんは西武百貨店やパルコの広告戦略の中で“誇示的な消費”を牽引していたわけですけれども、一方で無印良品のようなシンプル志向の時代の到来を見据えていたとも思えるビジネスを並行して展開していました。どこかに「こんなが時代はいつまでも続くわけはない」という冷めた感覚があったんでしょうかね?

菅付 堤さんは実業家であると同時に文化人でもありましたからね、そういう嗅覚は働いていたかもしれません。無印良品は一時期低迷した時期もありましたが、いまではシンプル志向を代表する世界的なブランドのひとつになっていますからね。

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