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高橋幸治のデジタルカルチャー斜め読み 第24回

シリコンバレーに個人情報を渡した結果、検索時代が終わった

2016年05月25日 09時00分更新

文● 高橋幸治、編集●ASCII.jp

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Photo by GotCredit

FacebookやAmazonにデータを渡す代わりに得る利便性

 情報社会学などの領域でよく使われる用語に「ネットワーク外部性」(Network externality)という言葉がある。

 たとえば電話は一台だけではまったく意味をなさないが、所有者が2人になれば、その人たち同士で通話が可能になるという利便性が生じる。これがさらに3人、4人、さらには数百人、数千人と増えていけばいくほど、電話網のネットワーク効果が次第に拡張され、ユーザーの有益性は加速的に高まっていく。

 こうした現象を指してネットワーク外部性と呼ぶのだが、経済学の分野で言われる「バンドワゴン効果」というのも似たような法則である。

 バンドワゴンとはパレードなどにおいて先頭を行く楽隊車のことで、後続する行列が長くなればなるほどあとに付き従う人々が増えていくというもの。要するに“人気がある”とか“話題である”とか“流行している”という事態がさらなる追従者を発生させ、結果として当該の製品の価値も高まっていくというわけである。こうした状態を経て、あるプロダクトやサービスなどに対する需要や支持が徐々に増加し、ある一定の閾値を超えると、一挙にその利用率や普及率が顕在化して世の中の主流と認定される。その閾値のことを「クリティカルマス」と言う。

 前振りが少々長くなったが、私たちを取り巻くさまざまなデジタルデバイスはすべからくインターネットに接続されているわけだから、まさに上述したネットワーク外部性を持っている。

 自分がインターネットにログインしているという意識すらほぼないままに、企業によって取得された個人情報、位置情報、購入履歴、検索履歴は新たなプロダクトやサービスを生み出し、ソーシャルメディア経由でバンドワゴン効果を派生させながらやすやすとクリティカルマスを突破していく。そして私たちのデジタルライフはさらなる実用性を獲得する……。

 確かに便利である。もう後戻りはできない。かく言う筆者も日々その恩恵を存分に受けているわけで、自分が意識するしないに関わらず供出した個人データの極めて心許ない秘匿性と、その対価として多くのIT関連企業から享受している利便性とを天秤にかけたとき、「もうプライバシー云々とか言ってる時代じゃないからね……」などと呟きながら後者の優位性をあっさり認めてしまいかねないほどである。

 実際これまでFacebookによっていかに多くの人間関係が維持され、または旧縁が復活し、Amazonによっていかに多くの関連書籍を知り知識に幅と奥行きがもたらされたか……。これは否定したくてもしようがない事実である。

電話をはじめとする通信機器の多くは加入者が増えれば増えるほどデバイスを所有する人々の便益性は増加していく。しかし新規加入者は既存加入者の利便性を考慮しているわけではないため、これを「ネットワーク外部性」と呼ぶ

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