三原社長に聞く「時空を超えたチーム農業」
「農業未経験」から「巨大レタス工場」へ、NKアグリの挑戦
2016年03月18日 06時00分更新
全国の農家とつくるリコピン人参
既存の流通規格に縛られず品質を追求しよう――そんな狙いで、2013年に「こいくれない」のプロジェクトはスタート。5大学・1企業との共同研究で、全国どの地域でも安定して栽培できるノウハウと収穫日を予測できるKPIを確立し、青森から鹿児島まで10都道府県・60人の農家と提携して生産を開始した。
通常の人参は、出荷可能な季節が1カ月程度と短いのが課題だ。流通期間が短ければ、魅力的な商品であっても流通企業にとっては扱いづらい。そこで縦に長い日本列島の特性を活かし、各地の圃場で時期をずらして生産。長期間出荷できるブランドとして「こいくれない」は生まれた。
「リコピンを多く含ませるためには収穫時期が重要で、早くても遅くてもダメ。そこで全国5カ所の環境センサーで温度データを取得し、各地の収穫時期を予測。各農家と情報共有することで、収穫をずらした栽培を実現している」(三原氏)
言うなれば「時空を超えたチーム農業」である。
さらに生産された「こいくれない」はNKアグリが一括して買い上げ、「AQUA LEAF」で構築した独自のサプライチェーンを通じて販売。実績として、通常の人参の2倍の単価で店頭に卸しており、農家にとっては安定収入が得られる仕組みとなっている。
三原氏は「一般的に野菜は規格化されていて形を揃えることが重視されるが、こいくれないは色・味・リコピン含有量を重視している。その分、形は悪くなりやすいが、野菜の価値は“中身”という思いで生産している」と語る。
「kintone」でコラボレーションを加速
この取り組みに欠かせないのが、地域を超えたコラボを実現するコミュニケーション手段。そこで選んだのが、サイボウズの業務アプリプラットフォーム「kintone」だった。
三原氏によれば「これまでと違う管理方法。仕様が固定化されたパッケージではニーズに合わず、ICTは『変なルールに縛られるもの』と懐疑的ですらあった。kintoneはたまたまデモを見る機会があって、これなら柔軟に使えるかもと思い」、2014年5月に導入した。
提携農家の栽培実績、NKアグリのデータ分析結果をクラウド上に蓄積し、両者で収穫時期などをすり合わせることで、商品の価格を最大化する仕組みとして利用されている。
レタス工場では、生産管理・追肥記録・環境記録・商品開発・トラブル把握などの情報共有に活用。日々の業務でも、出張報告・売上管理・在庫管理などの営業関連から、経費精算・規程管理などの管理関連まで、導入後3カ月で約40個もの業務アプリが作成された。
NKアグリでは多数の研究機関や農家と連携し、営業先も全国の小売・飲食店。必然的に出張が増える。「以前は申請のために無理やり帰社してくるような状況だった。kintoneを使うようになって、スマホから承認したり、どこからでも生産実績が把握できるようになったり、業務改善につながっている」と三原氏。
また、部門間でデータ共有できるようになったのもメリット。「部門間でお互いのデータを見る機会も増え、情報の透明性が高まった。そこから新たな気付きも生まれている」。具体的には「生産量と販売量から『2週間先の余剰分』も情報共有され、営業部門はこの2週間でどう余剰分を販売していくか、出張先からでも情報を取得して機動的な営業が可能になった」という。
今後の予定・要望については「コミュニケーションが円滑になったので、外部の人とも使いたい。来年からは提携農家と共用する予定。今後は企業・大学とも一緒に使えるようにしたい。ほしいのは、アプリ内の『いいね!』機能。申請にも『いいね!』ができれば『取り急ぎ確認したよ』と伝えられるし、リアクションができればさらにコミュニケーションは活発になるはず」(三原氏)としている。
「こいくれない」収益化に向けて
農家との地域連携やそのためのICT有効活用が評価され、「地域情報化大賞 2015」での受賞となった。「地域サービス創世部門賞」。3月9日には都内で表彰式が開催され、三原氏も登壇。そこで次なる展望にも触れている。
「レタスは収益化が完了したが、リコピン人参はまだ投資段階。現在10都道府県の生産者と提携し、青森と千葉の選果場で商品化の作業を進めており、30都道府県の約40店舗で流通する計画。国内需要としては現在の生産量の約10倍程度を見込み、消費者への認知を進めるとともに、引き続き生産者を募集していく」(三原氏)
農業経験ゼロから創業し、データ分析と試行錯誤を経て、全国へ。NKアグリの挑戦はいま大きく飛躍しようとしている。
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