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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第43回

【後編】『KING OF PRISM by PrettyRhythm』西浩子プロデューサーインタビュー

10回観たい劇場アニメを作るには――こうして『キンプリ』はアトラクションになった

2016年03月22日 15時00分更新

文● 渡辺由美子 編集●村山剛史/ASCII.jp

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(c) T-ARTS / syn Sophia / キングオブプリズム製作委員会

地方の上映館に波及する“アットホーム”な力

―― 2月後半には4大都市での上映が始まりましたが、3月に入ってからは、地方都市での上映も増え、現在は60館以上。まさに全国津々浦々にブームが波及していった感があります。地方上映はどのように決まっていったのでしょうか?

西 最初の予定は都心のみだったのですが、ネットの盛り上がりで知った地方の方々が「こちらでも観たい!」と声を上げてくださって、それを受けて各劇場さんが……という流れです。

 2月後半に入ってからは、劇場さんのほうから「うちでも『キンプリ』をかけたいです」と連絡をくださることも多くなったと聞いています。

―― 地方と都心で何か違いはありましたか?

西 集客としては、都心ほど席は埋まってはいません。ただ、各地方にポツポツと熱心なプリズムエリートがいらっしゃって、劇場の埋まり具合を撮ってTwitterにアップして、「席が埋まってないから、エリートがんばろう」と言ってくれたり、東京から静岡に観に行ってくださった方もいたりします。それも申し訳ない限りなんですけど、そういったツイートを見るたびに感謝の気持ちで電車の中で泣いたりしていました。

 地方は地方で、お客さんみんなで撮った写真を劇場さんが送ってくださったりします。盛り上がり方にも独自色を出してくださっていて。たとえば北海道のある劇場では『キンプリ』の半券提示でソフトクリームが割引になったり、静岡の某劇場では食品サンプルのセロリを貸し出しているというお話も聞きました(笑)

―― アットホームですね。

西 アットホームなんです。作品自体もスタッフもお客さんも。

 『キンプリ』は配給もうち(エイベックス・ピクチャーズ)でやらせていただいていますが、上映館やイベント上映をこれだけ増やせたのは、お客さんからの声はもちろん、手前味噌で恐縮ですが、配給担当の営業のおかげだと思っています。

 その配給担当の方はいい歳のおじさんなんですけど(笑)、『プリズムツアーズ』の頃から菱田監督作品の魅力をわかってくださっていて、各劇場さんに「必ず席が埋まるのでシアターは大きいところを空けてください」という感じで熱心に売り込んでくれていました。情熱的な営業力のおかげです。

 バレンタイン上映やホワイトデー上映もその担当の発案ですし、会社にいるとその営業の電話の声が聞こえてきて、遠くの席から「がんばれ……!」とこっそり応援しています(笑)

 その方は今、ファンの間で「グンナイおじさん」と呼ばれていて、舞台挨拶の前説でステージに立つと客席からワーッと歓声が上がります。お客さんとの距離が制作陣だけでなく裏方の方まで近いんです。

 『プリティーリズム』シリーズから『キンプリ』まで長く続けてきたからこそ、お客さんとの関係を密に築けたのではないかと思います。

(c) T-ARTS / syn Sophia / キングオブプリズム製作委員会

『おそ松さん』で気づいた女性の消費
画質ではなく「キャラが何をしてくれたか?」で決まる

―― 気になっているのは、“女性のアニメ消費”が変わりつつあるという点です。かつてアニメ業界では“女性は円盤を買わない”ということで、ユーザーとしては男性よりも弱いと言われていました。ところが近年では、女性の購買力がかなり高まっている印象があります。

 西さんは、女性人気も高い『おそ松さん』の音楽プロデューサーでもあるそうですが、その『おそ松さん』はBD&DVDが10万枚に届くような勢いで売れていると聞きます。女性ならではの消費傾向についてお気づきになった点はありますか?

西 男性のほうは詳しくわからないのですが、女性はグッズが強い印象ですね。缶バッチをたくさん集めたり、「痛バッグ」を作ったりするのは女性が多いと思います。

―― 女性ユーザーには、BDよりもDVDのほうが売れる、という説も聞いたことがありますが、いかがでしょうか?

西 『おそ松さん』では、BDとDVDの購買比率がほぼ半々でした。一概には言えないのですが……女性がアニメを楽しむポイントは、少なくとも画質が最優先ではないのかなと思いました。男性はアニメを鑑賞する際に、CGがどう使われているか、作画がどうかなど、技術を鑑賞する面もあって、BDもそこを楽しみに購入してくださる方もいらっしゃるのではないかと思います。

 でも女性の場合は、“このキャラがこうしてくれた”ということが大事なのかなと。

―― 「このキャラがこうしてくれた」?

西 ピクセルの細やかさよりも、ヒロ様がキスしてくれたことが大事、という感覚です。“お気に入りのキャラクターがしてくれたこと”が大事なのかなと。どちらも人それぞれだと思うので、一概には言えませんが……。

 一方で、これは私の想像なのですが、男女問わず『キンプリ』を好きになってくださる理由がひとつあると思っていまして。

 じつは『プリティーリズム』の頃から、菱田監督をはじめスタッフのもとに届くファンレターやTwitterでの感想は、深い内容のお手紙も多かったんです。「このキャラクターのこのセリフのおかげで生きようと思いました」「なりたい職業が見つかりました」「毎日がつまらなかったんですけど、『プリティーリズム』を見てから毎日がすごく楽しくなりました」……観た人の人生に影響を及ぼしたような言葉をたくさん書いてくださっていました。

(c) T-ARTS / syn Sophia / キングオブプリズム製作委員会

―― それは、なぜだと思いますか?

西 『プリティーリズム』は、登場人物たちがそれぞれ挫折や苦しみを経験して必死に向き合いながら成長する物語として菱田監督が丁寧に作っているからだと思います。シリーズを通して“プリズムのきらめき”というフレーズを用いているのですが、登場人物が挫折を乗り越えたときに見せるプリズムショーは、以前よりもずっとキラキラ輝いて見えて、心に響きます。

 『キンプリ』に、主人公シンの動機を示すセリフがあります。「毎日がつまらなかったけれど、プリズムショーに出会ってから世界が輝いて見えるようになった」と。

 菱田監督は、ファンの方が書いてくださった人生の実体験を、シンのセリフに反映したのだと思っています。私も、プリティーリズムで人生が変わってしまった一人なんですよね。

 ネタのような要素が目立つかもしれませんが、観て下さった方に“世界は輝いている”というメッセージが伝わるとうれしいです。

前編はこちら

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