【後編】『KING OF PRISM by PrettyRhythm』西浩子プロデューサーインタビュー
10回観たい劇場アニメを作るには――こうして『キンプリ』はアトラクションになった
2016年03月22日 15時00分更新
声援OK!コスプレOK!アフレコOK!劇場版「KING OF PRISM」プリズムスタァ応援上映PV
劇場で声援を送る「応援上映会」
―― 『キンプリ』は「応援上映会」も話題に上りましたね。劇場でキャラクターに向かってサイリウムを振ったり声援を送ったりできる……こうした「応援上映会」を企画された理由は?
西 「応援上映会」は今回が初めてではなく、『プリティーリズム』の最初の劇場版『劇場版プリティーリズム・オールスターセレクション プリズムショー☆ベストテン』からずっと続けてきた催しです。
最初に始めた作品は諸説あるのですが*、私が知ったのは『劇場版 戦国BASARA -The Last Party-』の「絶叫ナイト」です。キャラクターが出てきたらその名前を叫ぶのがすごく楽しくて。
そこで『プリティーリズム』の劇場版でも、「ライヴシーンが多いから、劇場をライヴに見立てて楽しめるね」という話にまとまりました。
*最初の応援上映は2010年前後に有志が企画した『劇場版 魔法少女リリカルなのは』の絶叫上映会とされる。
―― 『キンプリ』の冒頭のシーンも「Over The Rainbow」の3人がライヴ会場でファンが声援を送るところから始まって、ちょうど劇場の客席と重なるように作られています。
西 そうですね。劇場版の映像も、だんだん「応援上映」を意識したものになってきました。『キンプリ』はお客さんの応援が入る前提で映像を作っています。
―― アニメが“お客さんの声援”込みで作られている……?
西 そうなんです。そこは『キンプリ』の特徴だと思います。
女の子キャラクターのセリフを字幕にして、お客さんにアフレコしてもらうところもそうですし、主人公のシンが屋上で叫ぶシーンもそうですね。そんな客席からのアクションを促すようなシーンを菱田監督が各所に入れています。
これらも、上映するごとに精度が上がっていった感があります。アフレコのシーンは、コンテの下に文字が書いてあるのに気付いて「これ何ですか?」と訊いたら監督が「これ、プリズム☆アフレコです。流行りますよ。」とニヤリ顔で言ってきたのを今でも忘れません。
イベント上映を続けていると、お客さんが自分たちで楽しみ方を見つけてくださるんです。キャラクターが「セロリ、入ってるよ」と喋ったら、客席から「ええーっ」と応えたり。
作り手も、客席の反応を見て、『こういうネタをやったらこんな反応が来るだろうな』と考えたり、お客さんがツッコミを入れる“間”をあえて作っておいたりされています。
―― 客席と制作側のキャッチボールで映像が作られるのですか。
西 はい。お客さんの熱が強いので、声援のかけ声もみんなで考えてくれて、その場でどんどん作られていく感じです。『キンプリ』でも、「苦手な食べ物は何だい?」の後に「セロリ」ではなくて、客席がめいめい“自分の苦手な食べ物を言う”シーンになるところまでは、さすがに読めませんでした(笑)
最初の頃の応援上映で、誰か一人がバッと「ピーマン!」と言って、客席からドッと笑いが出て、次の回からみんなが言うようになったんです。上映する場所や来ている人によって異なるリアクションが出ますが、“自分の嫌いな食べ物を思い思いに言う”という認識は全員一致するんです。そこは一体感がありますね。
“劇場”のあり方が変わっていく
―― 『ガールズ&パンツァー 劇場版』が4DXという装置を得て人気がさらに増したしたように、最近の劇場には体感型の楽しみが加わりつつあります。『キンプリ』は、同じ映像を観るためにお客さんが何度も映画館に通ったり、「応援上映会」が盛り上がったりと、劇場という“ハコ”ならではのメリットがあるように見えます。
西 劇場の場合は密室なので、ライヴ会場のように盛り上がれるところがメリットですね。『キンプリ』の場合は、キャラクターによる歌やダンスのシーンが豊富なので“上映会”にもかかわらず、ライヴ的にも盛り上がれるんだろうなと思います。
しかも、キャラクターが歌っているとはちみつが飛び出すような映像演出を大勢が同じ空間で一緒に楽しむことで、感動を共有できる。「応援上映会」で皆さんがコスプレしたり、セロリの食品サンプルを持参したりというネタを仕込んでくれるのは“一緒に楽しんでくれる人が周りにいる”からだと思います。
ただ、「応援上映が面白い」と話題になっていても、劇場内を覗くことはできないのでいまいちピンと来ない方も多くて。そうしたら、キンプリ宣伝プロデューサーがカメラを持って全国の応援上映の様子を撮影し、それをまとめた応援上映PVを作ってくれたんです。
それを見た人たちが「なんだこれ、面白そうだな」と話題になって、勇気を出して劇場に足を運ぶ後押しになったことがかなり大きかったと感じています。
―― 各劇場に「応援上映会」の開催をお願いしたときは、どのような反応でしたか?
西 最初は、『ほかのお客さんに迷惑がかからないかな、大丈夫かな』と思っていらっしゃる劇場さんもありました。けれどもそれは最初だけで、今は各劇場さんが主体となって応援上映を開催して盛り上げてくださっているので、本当に感謝しています。
先日、配給の担当から聞いたのですが、ある劇場のスタッフの方が『キンプリ』の応援上映を見て、「こんなにお客さんと映画が会話している作品は初めてです」と仰ってくださったそうで……とてもうれしかったですね。
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