高橋幸治のデジタルカルチャー斜め読み 第13回
文化資産は企業や団体ではなく個人が持っている
YouTubeへ違法アップロードが気持ち的にダメと言い切れない理由
2016年02月24日 09時00分更新
YouTubeはユーザーが作り上げる巨大なアーカイブ
「YouTube」はいまや「Google」に次ぐ第二の検索エンジンとも称されている。そこには世界中のユーザーによる自作動画から企業のPR動画、たまたま撮影された事故や災害の衝撃映像、たあいもない動物のムービーまで、多岐に渡る膨大なコンテンツが日々アップロードされている。
もはやYouTubeは、単なるエンターテインメントサービスの域を超え、私たち自身が共同で構築し、補強し、拡充し、そして使用する必要不可欠な情報格納庫(アーカイブ)として機能し始めている。もちろんほかの動画投稿サイトも同様だ。
なかには放映されたばかりのテレビ番組や隠し撮りされた映画やコンサート、発売したてのCDの高音質データ、倫理的にいかがなものかと思われる動画なども含まれている。こうした著作権侵害や社会的問題を含むケースについては常に論争の的になっており、2010年に当時14歳の男子中学生が少年漫画誌のコンテンツをYouTubeに動画形式のファイルでアップロードし初の逮捕者となった。テレビに関しても、昨年、日本民間放送連盟が「それ、違法です。」のキャッチコピーのもと番組の違法アップロードに関する啓蒙CMを放送していたことは記憶に新しい。
法律的にグレーな領域や状況がデジタルカルチャーを育てる
さすがにDVD化が予定されているテレビドラマや映画などが無断ですぐさま配信されてしまうのは関係各位にとっては死活問題であり、抗議や訴訟といった手段に訴えるのはやむなしだろう。
しかし著作権がまだ有効な20年前や30年前の映像コンテンツや音楽コンテンツ、および、それらの一部分だけを切り出した断片的なデータなどについては、著作権の保有者もかなり黙認しているような状況がある。この、なんともグレーな領域や状況というのがデジタルカルチャーに関しては非常に重要なのだ。
私たちは幸いなことに、そこそこマイナーで、ほどよく昔の代物で、しかし特定の人々にとっては極めて貴重な過去のさまざまなコンテンツをYouTubeなどで自由に閲覧することができる。そして、“個人の記録”にすぎなかった文化の痕跡を忘却の彼方から救出し、“集団の記憶”として保存/共有/継承できるようになったのだ。
無論、権利者が著作権を放棄しない限り20年や30年で創作物がパブリックドメイン(公有財産)になることはない。日本国内においては実名作品が著作者の死亡後50年まで、団体名義の著作物が公表後50年まで、映画作品に関しては公表後70年まで著作権が認定されている。従ってまだ著作権が生きてるコンテンツは、しかるべき人物なり企業なり組織なり団体なりが削除依頼を出せば、どんな動画投稿サイトといえども申請を受諾せざるを得ない(削除のルールに関しては各国ごとに微妙な差異がある)。
決して「著作権なんて無視してみんなで自分の持ってるお宝をアップロードしようぜ!」と呼び掛けたいわけではない。YouTubeなどの動画共有サイトが持つ公共的な資料性などを鑑みると、公開=犯罪/共有=違法といった頑迷かつ旧弊な発想だけですべてを断罪することはもはやできないだろうということを言いたいのである。
では、前述した“特定の人々にとっては極めて貴重な過去のさまざまなコンテンツ”はなぜ削除されないのか? もちろん当時の担当者がすでに会社に在籍していないとか、権利者が多すぎて誰がクレームを入れればいいのかわからないといった場合もあるだろう。ひょっとするとキリがないから諦めているということなのかもしれない。
しかし実際の理由としては、おそらく、躍起になって古いコンテンツの権利を死守しようとしたところでコスト的に見合わないという事情があるように思う。
書籍を例にとっても、作者の死亡後50年を超えて出版され続けるものは全体のわずか1.3%※にすぎないと言われている。つまり、著作権者が自らの権利を長らく主張する経済的な理由は実は極めて少ないのである。
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