高橋幸治のデジタルカルチャー斜め読み 第13回
文化資産は企業や団体ではなく個人が持っている
YouTubeへ違法アップロードが気持ち的にダメと言い切れない理由
2016年02月24日 09時00分更新
本当に価値ある記録はオーディエンスが持っている
2015年の末から今年の初めにかけて、興味深いニュースを立て続けに見た。
1つ目は東京・新宿の老舗ライブハウス「新宿ロフト」がオープン40周年を迎え、記念出版物などの刊行を予定しているとのことで、1976年の開店から歌舞伎町に店舗を移転した1999年までの写真(新宿ロフトの外観、店内、ライブ風景、打ち上げの模様)、フライヤー、ポスター、チケットの半券、ライブ映像、ライブ音源を広く募集するというもの。2つ目はイギリスのロックバンド「Oasis」が、1994年と1995年に来日した際の写真や動画をドキュメンタリー映像制作のために提供してほしいという旨を公式のTwitterで呼び掛けているというもの。
前者に関しては「いずれもネットや出版物に掲載された写真、メディアで紹介された映像・音源ではなく、あくまで投稿者ご自身が著作権をお持ちの写真に限らせていただきます」とただし書きがあり、後者に関しては「いずれもライブ以外のオフショット」とやんわり“不法に録音/録画したライブの音源や映像はNG”というニュアンスを付帯させている。
単純にこの2つの事案から浮き彫りになるのは、“自身の記録といえども当事者側がすべてを保有しているわけではない”ということ。そして、“本当に価値ある記録は実はオーディエンスの側に蓄積されている”ということである。
特に後者の事実は、記録と記憶、占有と共有、文化的資産とアーカイブ、さらにはそれらのデジタル化を考える上で重要な示唆を含んでいるように思う。
たまたま引き合いに出した2つの事例以外にも、NHKは数年前から「番組発掘プロジェクト」と題し、自社に保存されていない1981年以前の各種番組の録画映像を視聴者から募集している。その成果として、全52話のうち第19話と総集編しかNHKに保管されていなかった1979年放映の大河ドラマ「草燃える」が、一般の人々の協力によって全編発掘されたなどの例がある。
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