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スタートアップと変わるレガシーな業界 松源×リレーションズ

地方スーパーに人工知能まで導入 異色の1to1マーケティングは成功するか

2016年02月18日 07時00分更新

文● 北島幹雄/大江戸スタートアップ 撮影●曽根田 元

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全国のスーパーで唯一楽天ポイントカードを導入した理由

楽天市場内の松源店舗トップページ

 ここまで見ると、リレーションズ側での強い主導があるように見えるが、松源側もただ黙っているわけでは当然ない。リレーションズから提案をもらったのは2015年7月だが、ちょうどそのとき平行して、松源側では楽天でのポイント導入の取り組みが進んでいた。昨年12月には共同でのリリースを出している。実際の開始時期は、2016年春予定だ。

 だが、なぜ松源は楽天を選んだのか。

 チェーンストアに近い業種という点で、コンビニエンスストアでのポイントカードを見れば、実は楽天は劣勢の状態にある。楽天ポイントを使っていたサークルKサンクスがファミリーマートに一本化される流れがあるため、結果的に、CCCのTポイントカードを使うファミリーマート、ローソンのポンタ、そしてセブンイレブンのnanacoが主流を占める形だ。

 選択のきっかけを作ったのは、桑原専務の片腕として動く松源経営企画室係長の宮崎英寿氏だ。

 ポンタやnanaco、CCCのTポイントカード、さらには関西CGCによるコジカなどの電子マネーやポイントカードを、宮崎氏は機能面や運用レベルを全社横並びに比較した資料を作成した。そのなかで、最終的に条件面からポンタと楽天の2社だけが残ることになった。

 決定的な違いとなったのは、顧客の紐づけデータを持っているかいないかだった。

 個人情報にEメールアドレスが入っているのは楽天のみ。ポンタの総発行数は多いものの、松源が目指す1to1のマーケティング、きめの細かい利用者への提案は難しいのではと敬遠となった。「社内では圧倒的にポンタ派だった。かわいいキャラクターでの親しみやすさもあったが、何のためにカードを使うのか、という部分が決定的だった」と宮崎氏は語る。

 松源側は合わせて、楽天ポイントカード導入をきっかけに、楽天側にトータルでの強みを提案してほしいというリクエストを行った。松源側では全店で楽天Edyのチャージができるようになった一方で、楽天市場の松源ネットストアは様変わりを果たした。

 これまでも楽天市場への形式的な出品自体は過去10年ほど続けていたが、はっきりとマーケティングの面で協力関係を結んだことで、楽天市場内でも売り方が一気に変わり、名物の宮崎牛は牛の専門バイヤーショップなどと並んでランキング入りを果たすほどになっている。

 多くのスーパーが自社でポイントカードをやっているが、ただの値引きにしかならないという点で悩みの種にもなりがちだ。「松源でしか使えないポイントに価値があるのか結局わからないままだった。1社でただやっていても意味がないため、どこでも使えるメリットが出せるようにしたいのと、分析できるようにというところで(楽天を)選んだ」(桑原専務)

安いものではなく、ほしいものが今のお客さんには絶対条件

 「楽天ポイントの導入を一番最初に導入したスーパーが松源。楽天側が和歌山で始めようというわけではなく、たまたまこちらの要望と意図が一致した。当時は松源がどのようなスーパーかわかっていなかったのではないか」(宮崎氏)

 ポイントカードの全社横並び比較を行った宮崎氏は、じつはもともと情報システム系の出身。日立のSIerを経て、ソニーの人事と渡り歩いてきた人物で、ソニーではEラーニングやマネジメントゲームなどの社員研修プログラムを担当、また個人としてはJリーグのJFAマネージャーズカレッジという教育研修の仕組みを手掛けた経歴を持っていた。

 家族の面倒を見るため実家である和歌山に戻り、落ち着いたところで始めた就業が松源とかかわるきっかけとなった。「どうしてこんな変なアプリが入っているのか」と店頭で語っていたところを桑原専務に見つかったという間柄だ。

 松源が抱えるキーワードは「脱スーパー」。レガシーなものという見方から常に新しい方向を具体的に指針していることで、楽天側に対しても、トータルでの提案を持ち掛けたのは桑原専務と宮崎氏だった。それに応えたのが楽天だが、宮崎氏によれば、松源以降、大手企業のポイントカードがスーパーに導入された例は現状ではないという。それほどスーパーへのITの導入は容易ではなく、難しいという。

 「安いものではなく、ほしいものが今のお客さんには絶対条件。だが、我々にはPOSからの売れているものしかわからない。明らかにみそ汁の具を買っているが、みそ自体を買っていない事実がわかるだけ。そのような”何が売れているか”という軸を”お客様がこれを買っている”という軸に変えたい。自社だけで難しいので、そういう部分はプロに任せたほうがいいのでは、ということで松源ポイントは廃止した」と桑原専務は語るが、そのようなスーパー経営者はまだまだ少ないらしい。

 リレーションズと松源で、アプリをはじめとした条件がつなぎ込めたときがようやくのスタート地点になるという。準備が整うのはこれからで、先々が楽しみだと二人は語った。

松源がスーパーだとわからなくていい

 かつて、田舎のスーパーは嘘の塊だったと桑原専務はつぶやいた。裏側であるバックヤードはべちゃべちゃという環境のなか、パッケージも含めて、提供する環境・品質の違いを変えたことで、「肉の松源」と評価され、成長する姿を自身見てきたのだという。

 「今後は、純粋に松源を選んでもらえるようにならないといけない。今までは全部こちらからの押し付けで、不満を解消するにしても、万単位のお客様の不満を解決するのは難しかった。今回のような取り組みで一人ひとりについて解消できる部分が増えるならうれしい。お客様に選んでもらえるスーパーになるというのはそういうこと」(桑原専務)

 和歌山県も含め、地方は人口減少傾向にあるが、そのようなことは言い訳でしかないと桑原専務は明言する。どこにあるかはまったく関係なく、今は北海道から沖縄までネットでのお客様が見えている。松源がスーパーだとわからなくていいという。

 当然の話だが、スーパーがIT化を進めていないわけではない。アプリやウェブに合わせた販売方法、ネットスーパー、ポイントカードなどの取り組みは多くのスーパーですでに行われている。広島のエブリイもそうだったように、リレーションズと組んだ理由は東京の真似をするためではない。共有する経営課題をいかに解決し、現代の顧客に最適化させるかだ。全店舗、全顧客、全従業員がつながった先に見える世界がどうなるのか、楽しみと語った部分も十分に理解できる。

 「スーパーはすぐに、人口減少や大震災の影響といったことを言うが、確かにその影響はないとは言えない。だが、ビジネスチャンスはどこかにある、間口は狭くなっているかもしれないが、僕からしたらスーパーはそこにチャレンジしていないだけ」と桑原専務は力強く語った。

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