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スタートアップと変わるレガシーな業界 松源×リレーションズ

地方スーパーに人工知能まで導入 異色の1to1マーケティングは成功するか

2016年02月18日 07時00分更新

文● 北島幹雄/大江戸スタートアップ 撮影●曽根田 元

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スーパーで始まる人工知能を利用したマーケティング

 松源では、2015年12月に楽天ポイントカードを全国のスーパーでいち早く導入。従来のポイントカードからの乗り換えを発表している。合わせて、楽天でのネットスーパー機能を強化し、注力商品である宮崎牛の販売をスタートしている。ランキングにも入るほど好調で、従来のスーパーにはなかった取り組みを行っている。

 「基本的には全部つなげられるような仕組みにしたい。スーパーにはなかったもの。最終的には1to1のマーケティングと言われているものをスーパーで本気でやりたい。アプリから始まって、購入まで。スーパーでのここまでの導入はまだないのでは」(桑原専務)

 2月1日からアプリは全店舗でスタートし、1週間での結果は5,000ダウンロードとなり、全店舗累計で1万ダウンロードを超えた。

 さらに松源とリレーションズは、新たにスーパーの入口に”リテールアナリティクス“を導入して、来店での顧客の属性捕捉に加えて、レジ通過以外での来店確認を行う予定だ。

 リテールアナリティクスを提供するのは、人工知能による映像解析をマーケティングツールに生かすスタートアップのABEJAだ。アパレルを中心に受け入れられているが、一方で収益性の低いスーパー(業界の営業利益率の平均値が1%未満)などでは導入が難しいのではという見方があった。

ABEJA Platform

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 だが、アプリやポイントカードを含めた展開によって、その狙いが大きく変わってくる。

 アプリに加えて楽天ポイントカードでのターゲティングをはさむことで、利用者が本当に必要なものを松源は提供できるという。アナログ・デジタルにかかわらず、すべてのマーケティング施策において利用者への情報提供を最適化し、さらには従業員管理情報やPOSまでつなぎこめば、スーパー側が経営のPDCAを自ら回すためのデータという大きな武器を手に入れることになる。

 こうなってくると、ただのアプリマーケティングではなく、スーパーが持っていた経営課題への処方箋となるような取り組みに近い。全店という幅を持った実施となるのもそのためだ。

マーケティング施策の来店効果を統計分析により定量化する(リレーションズ提供)

 「お客様の属性と入店数がわかるようになるのが新しい仕組みかといえば、すでにあるもの。ただ、そういうものをスーパーにつけて、どういう買い物をしているのか、数値も含めてつなげていく、こういうことを(リレーションズが)やってくれるのは大きい。他社でやっているもので、これからスーパーに生かせるものはいくらでもある。そこには思いっきり投資していきたい。(ABEJAとの取り組みも)その場でOKを出した」と桑原専務はニヤリと笑った。

 アプリの利用者は、目標としていた30代~40代の想定したターゲットで狙い通り。数字で見ると現在の数では物足らないが、より定量的な分析ができる規模になれば、チラシをどこまで減らせるか算出でき、そうしてはじめて回数・部数減に着手できるという。

店の入り口にカメラが設置される見込み

手痛いアプリ取り組みでの失敗も

 アプリを中心とした取り組みは始まったばかりの松源だが、過去には手痛い失敗もある。2年前に全店で情報アプリの導入を行っていたが、活用もされず、運用にも載っていないデキだった。現場の担当から利用者にまで忘れられていたほどだ。現在との違いは、運用のレベルまで落とし込まれていなかった部分が大きい。

 「当時はシステム課主導のもので、経営レイヤーには届いていなかった施策。時期尚早だった。私も専務になっているが、もうじき2年で、なるかならないかの時期に知ったレベル。現在は社内の情報が全部集まるが、経営側の目線で入っていないとスーパーの場合は難しい。失敗の原因は、経営陣の中心的な人物がいなかったことに尽きる」(桑原専務)

 当時全37店舗で全体でのダウンロード数はわずか2,000に終わった。アプリ施策は運用そのものが重要となるため、1年以上メンテナンスされていないアプリはバージョンアップされず苦情も入っていたという。今回の取り組みにはその反省が生かされていると桑原専務は語る。「かつての目的は集客のみだったが、今回は従業員の巻き込み方が違う」

 告知もただ行うだけではなく、従業員が店舗で直接ダウンロードまでを丁寧にさせる人海戦術をとっている。アプリの取り組みについて直接ビラを配って来店者にアピールした。「壁にアプリ始めました、とあっても誰も落とさない。一方で、直接のコミュニケーションはスーパーの得意分野。お客様との積み重ねた実績には自身がある」

 アプリの継続利用の見込みについて尋ねると、「結局はお客様との信頼関係があるかないか」だと桑原専務。

 「(アプリの)中身もこれから詰めるところだが、実際に商品を買ってくれるようにならないといけない。コンテンツに合わせてその率がわかってくると面白い。(スーパーの)本部が店内で毎回数字を開くことはできないが、リレーションズはそのフォローもやってくれて、一緒に考えてくれて助かっている。いろんな業種の方との付き合いをスーパーに置き換えてくれるのは心強い」

 実際、アプリから商品が動いた実績も数多い。特定記事から来店・購買までのコンバージョン率は驚きの10%~20%程度、さらに来店者の平均購買単価は150%〜180%増と伸びている。「わかりやすいものは、その日に売る惣菜。松源メンチカツのバイヤーが紹介したところ、POSのデータで売り上げが明確に違っていた。人の顔が見えるとPVが違う。1週間で1,000PVを超えることもある」(桑原専務)

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