日本オラクルは1月14日、医療業界への取り組みについて説明会を開催。日本オラクル 常務執行役員 クラウド・テクノロジー事業統括 公共営業統括本部長の白石昌樹氏が登壇し、公益財団法人ときわ会 常磐病院の情報系システムをグループ共通のプライベートクラウドとして構築した事例も交え、医療業界で進むクラウド化の状況などを説明した。
少子高齢化や医師・看護師不足、東日本大震災によるBCPのニーズ拡大などを背景に、医療業界では、ICTのクラウド化が鮮明である。従来は電子カルテ、オーダリングなどのパッケージ製品に対して、データベースを中心としたオンプレミス製品を提供してきたオラクルでも、医療機関の意識が“作るICT”から“使うICT”に変わりつつある傾向を受け、同業界へのクラウド提案を強めている。
白石氏によれば、医療業界の課題は「IT予算確保が難しい」「IT担当者の不足」「データ分析まで手が回らない」「医師・看護師不足も深刻」なこと。「そこでクラウド型のOracle DatabaseやBI、ドキュメント共有などを医療機関に向けて提案し、クラウドで小さく始められ、将来的なシステム連携も容易なソリューションを提供している」という。
「価格はユーザーあたり月額数万円。今までのオラクル製品からするとリーズナブルなのが特徴の1つ」と白石氏。さらに医療業界では様々な課題を解消するため、地域の医療・介護事業者が広域に連携する地域包括ケアシステムの構築が進められており、例えば、クラウド上で様々な情報を保存し、医師同士が患者の情報を共有することで診療をスムーズにしたり、在宅医療・介護で担当者がモバイル端末から必用な情報にアクセスしたり、あるいはセンサーデータを活用して患者の日々の生活状況を活用するようなニーズがあるが、それについても「包括的なインテグレーションサービスを提供している」と述べた。
グループ共通基盤を構築した常磐病院
説明会にはユーザー企業として常磐病院も出席。院長の新村浩明氏らが登壇し、オラクル製品を導入した経緯などを説明した。
同院は、福島県いわき市で人工透析、泌尿器疾患を中心に診療を行うときわ会グループの中核施設。全自動透析システムなどを採用し、いわき市の人工透析患者1200名のうち740名(62%)を受け入れるなど、地域医療を支える総合病院で、2012年からはダヴィンチシステムによるロボット支援前立腺がん手術や、ホールボディカウンタ(WBC)による内部被ばく検査を始めるなど、先進的な医療を行っている。
今回構築したのは、「Oracle Database 12c」とハードウェアを一体にしたエンジニアド・システム「Oracle Database Appliance」による、経営分析のための情報系システム。「医療システムのデータ共有による経営や診療の効率化」が目的で、そのためには「複数の医療システムを導入したことによるデータの散在」が課題となっていた。
情報システム課長の木村智紀氏によれば「詳細なデータを抽出するには都度、医療ベンダーに依頼し、かき集めたデータを表計算ソフトで集計・分析するため、膨大な工数がかかっていた」という。
そこで、ときわ会グループ共通のプライベートクラウドとしてDWH基盤を構築。電子カルテ、医事会計システム、物流システム、および透析管理システムのデータを統合し、一元的なデータ検索や統計・分析を可能にした。これにより、病棟別・医師別の患者数統計、患者待ち時間など、様々な切り口で診療指標が算出できるようになり、病院経営や研究用データ作成が効率化されたという。
今後はクラウド型ドキュメント共有の「Oracle Documents Cloud Service」も採用し、病院内事務・管理業務の文書を計画的にクラウドに移していく考えだ。
「これは東日本大震災の教訓。震災時、透析に必要な水や物資が途絶え、患者が危険な状況となった。結局、3月17日に近隣の県へバスで移送したのだが、その際に非常に困ったのが患者の情報。当時はまだ紙カルテで持ち出せなかったため、どういう条件で透析しているか把握できず、電話やFAXでなんとか伝達した。その時、電子カルテでクラウド化されていれば、と痛感した」(新村院長)。
これを踏まえ、2013年に電子カルテを導入。最近ではグループ連携による「健康増進~治療~介護~在宅」の地域包括ケア実現に注力している。今回のクラウド環境がその土台となる見込みだ。