【後編】鹿野司氏、堺三保氏、白土晴一氏「設定考証ブラザーズ」かく語りき
サイバー戦争よりも怖い「敵意を増幅させる装置」としてのインターネット
2016年01月17日 18時00分更新
翻訳家「メメってなんですか?」
インターネットで設定考証はどう変わったか?
鹿野 インターネットが普及してよくなったこと……調べ物はしやすくなったよ。あと一般人のリテラシーは上がった。
堺 文献調査だけじゃなくて人に直接聞けるようになったのも大きい。たとえば長編第一作を書いた著者の情報なんてどこにもないわけじゃない。そんなときも今は本人に聞けるもんね。
白土 SNSで聞けますからね。昔は疑問一覧を作って編集者に投げ、それを編集者が原作者に投げ、みたいなことをやってましたから。
鹿野 昔は翻訳の人からよく「この言葉ってどういう意味なの?」って聞かれたな。*ドーキンスなんか新しい言葉作るからさ、「ミーム」って言葉あるじゃないですか、あれ最初「メメってなんですか?」って翻訳家に聞かれてさ(笑) 今なら直接著者に聞ける。
*リチャード・ドーキンス。生物学者。著書に『利己的な遺伝子』など。
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利己的な遺伝子 <増補新装版>リチャード・ドーキンス(著)紀伊國屋書店
白土 いや、ほんとに楽になりましたよ。この前、何十年か昔のイギリスの病院の内部の設定が欲しかったんだけど、そんなもの手に入れようがない。でも検索したら、イギリスにおじいさんのアルバムをブログに載っけてる人がいて、お願いしたらそのデータを送ってくれたんです。
堺 すばらしい。
白土 前にやってた「純潔のマリア」のときには、僕のラテン語がかなり怪しかったので、専門家の人に原稿を送って「だいじょうぶ? わかる?」と聞けるのが楽でしたね。
堺 そういえば、すでに翻訳原稿が上がっているにもかかわらず、エージェントに連絡しても全然返事が返ってこなくてヤバいときがあったんだけど、著者本人がFacebookをやってたので、コンタクトして本人から確認とったことあるよ。
白土 なんのためにエージェントがいるんだって話ですよね(笑) 逆に、海外でも売れてる日本のゲームに関わったときには、向こうのゲームメディアからTwitter経由で取材依頼が結構来ましたね。アイスランドとか。
堺 北欧って結構アニメ系のコンベンションやってますしね。規模は日本の地方コンベンションくらいらしいけど。
白土 ゲームというフォームはグローバルコンテンツですよね。アニメは正直そうでもないかな。
堺 それはもしかしたら変わるかもしれないね。なぜかというと、海外だとアニメは基本的に子供向け扱いだったので、日本のアニメはセクシャルすぎたりバイオレントすぎたりして問題になったけど、アメリカでは去年くらいからあまり制約のないAmazonやiTunesのネット配信で扱うことが増えている。
子供は見れない代わりにいろんな人の目に触れるようになって、今までと全然違う受容のされ方になってきている。今後は「デアデビル」みたいに13話一挙放映みたいなこともあるかもしれない。
鹿野 それに耐えうるシナリオ、作品になってればね。今までのアニメは日本ローカルのものばかりだからさ。
堺 今までは日本で売れることに特化して作ってたけど、海外向け商売で儲かることがわかったら考え方を変える必要がある。(アメリカのドラマだって)今はとんがったものを作ってるんだから。
白土 脚本がチーム的になったことで、向こうの文化など細かい確認の仕事は増えてきましたね。たとえば、この建物はモスクだから外しときましょうみたいな。グローバルになる際にそういうのをやる人は必要でしょうね。
堺 グローバルかつマニアックなゲームも増えてきたよね。アメリカで販売した任天堂の子会社のゲームだけど、最初の企画作ったのがフランス人で、パラレルワールドのアメリカが舞台なんだけど、ラブクラフトのランドルフ・カーターとか出てくるんですよ。そんなのマニアックすぎるでしょ(笑)
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白土 「純潔のマリア」のときには、監督のオーダーで「中世神学の展開があるから、ちゃんと聖人の名前を出してセリフを作ってくれ」と依頼されて『言ってもわかるわけないじゃん』と思いながらもちゃんと作ったら、案の定わかってくれたのは海外の人だけ(笑)
鹿野 でもそういうことはやるべきなの。「宇宙戦艦ヤマト2199」が成功したのもやっぱりディテールに対してみんなしっかりやってたからなんですよ。「未来の存在しないドアノブにはこういうものが付いてるから動かしやすいんだ」みたいなこともイラストレーターは設定するわけですよ。
特に監督さんがそういうことに力を入れたいと思ってくれる作品というのは全体の熱量が上がるんです。
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(次ページでは、「ネット配信全盛時代が来たら、設定考証の仕事も増える!?」)
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