最新ユーザー事例探求 第39回
コニカミノルタのクラウドプリントソリューション導入、背景を黒田知宏教授に聞く
「高度なセキュリティを守りつつ便利に」京大病院の取り組み
2015年09月15日 06時00分更新
京都大学医学部附属病院(京大病院)では昨年4月、コニカミノルタとシスコシステムズが共同開発したクラウドプリントソリューションの運用を開始した。京大病院の情報システム全般を企画し、ITを通じた医療ワークフロー改革を推進する医療情報企画部の黒田知宏氏に、導入の背景や今後の展開について伺った。
電子カルテや患者情報保護を第一に考えたシステム構築
京大病院がこのクラウドプリントソリューションを導入したのは、電子カルテなどの院内システムのセキュリティを維持しながら、外来診察室のWebブラウザで閲覧しているページを自由に印刷できるようにするためだという。
だがそもそも、なぜブラウザからのプリントアウトができなかったのか。それを理解するためにはまず、高度なセキュリティを担保しながら構築されてきた京大病院の院内システムの構成について説明しなければならない。
京大病院では、2011年1月の新電子カルテシステムの導入に合わせて、外来診察室のクライアントPCを全面的にVDI化(仮想デスクトップ化)した。このPCは患者の電子カルテを閲覧するためのものであり、電子カルテシステムや患者情報を保護するために、インターネットからは隔離されている。
黒田氏は、VDI化にはセキュアかつ端末管理コストも下がるという一般的なメリットのほかに、電子カルテを快適に利用できるというメリットもあったと振り返る。「それ以前の電子カルテシステムはクライアント/サーバー型でしたが、クライアント側の起動時には大量の更新データをダウンロードしなければならず、立ち上がるのに時間がかかっていたのです」。システム更改に合わせ、電子カルテサーバーの直近にVDI用サーバーを設置することで、この悩みは解消した。
また同時に、京大病院のDMZ内にインターネット閲覧専用の外部サーバー(仮想化サーバー)も立ち上げた。これを利用することで、インターネットに直接アクセスできない外来診察室の電子カルテ用PCからもWebブラウジングができる。
近年では、厚生労働省や医薬品メーカーなどがWebサイトで公開する情報が充実しており、患者に対する説明時の補助資料として使いやすくなっている。また、患者自身のインターネット利用率も高まり、自分で調べた情報について医師に相談するケースも増えた。そのため、院内システムのセキュリティを維持しつつ、Web閲覧もできる環境を整えたわけだ。
「Webのプリントアウト」が難しいシステム的な理由
こうしてクライアントPC環境は改善されたが、そうすると現場ではまた新たなニーズが生まれる。今度は「ブラウジングしているWebページをプリントアウトしたい」というニーズである。
前述のとおり、外来診察室では患者への情報提供や説明のためにWebを利用する。説明に使ったドキュメントを、そのまま印刷して患者に手渡すことができればより効率的だろう。「実際のところ、ニーズとしては1日あたり10~20枚程度。だけど『ないと困る』ものなんです」。
しかし、インターネット閲覧用のサーバーはDMZ内に設置されている。このサーバーから院内プリンタに印刷指示(プリントジョブ)を送信できるようにするには、DMZと院内ネットワークを隔てるファイアウォールで、インバウンド方向(外→内)のポートを開放しなければならない。そうすると、院内システム全体のセキュリティレベルを下げてしまうことになる。
Webブラウジングはできるが、印刷はできない。この環境に不満を持つ医師もおり、「わざわざインターネット接続できる回線を引っ張ってきて、印刷のできるWeb用端末を独自に用意する診察室も出てきました」。これは、セキュリティ面からもネットワーク管理面からも好ましいことではない。
「僕ら管理者がいくら『禁止』だと言っても、ニーズがあるかぎりは無駄なのです。皆さん知識がありますからね。だから、やりたいことがあれば何でも相談してほしい、セキュアな形で何とかしますから、と。そういう運用でやってきました」
Webのプリントというユーザーニーズの高まりと、セキュリティ維持という義務。管理者として、黒田氏はその狭間で悩んでいた。
(→次ページ、セキュリティ維持と新たなニーズとの板挟み、解決策を探る)
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