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情報の取り扱い説明書 2015年版 第3回

発信だけでなく、受信の技術を学ばないといけない

それって勘違い? SNSの正しい認識と上手な付き合い方とは

2015年06月16日 10時00分更新

文● 高橋幸治、編集●ASCII.jp

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増えすぎた情報に対して必要なのは「受信の創造性」

 この連載の初回にも述べたが、われわれはスマホから顔を上げたい「Look Up」の衝動と、そうは言いつつ、スマホなしではいられない「Look Down」の現実の、まさに狭間を生きているわけで、この二律背反に少なからぬストレスを感じている。

 しかし、インターネットは誰かが管理したり制御したりする類のものではないから、メディアが乱立すれば(もちろん「個人」もメディアだ)必然的に情報量は増加の一途をたどる。

 さらに、一人一人に明確な意図や悪意がなかったとしても、小さな声がネガティブに響き合えば、思いもよらない排他性や攻撃性を帯びることもある。これらを阻止することは誰にもできない。

図は米IDCのレポート「The Digital Universe Decade-Are You Ready?」より。グーテンベルクによる活版印刷の発明など、人類史の中で「情報爆発」は幾度となく起こっているが、インターネット以降の情報量の劇的な増加は過去の比ではない。2009年までに蓄積された情報量の総計が0.8ZB(ゼッタバイト=10の21乗バイト)であるのに対し、2020年には35ZBにまで膨れ上がると言われている


※ 情報爆発の図については電子情報通信学会誌も参照いただきたい。

 では、こうした「情報オーバーロード」(情報の過剰摂取)の危機からわれわれはいかにして身を守ればいいのか……? それはひとえに、「受信の創造性」をいま一度取り戻すことではないか。

 「発信」が声高に叫ばれる時代だからこそ、逆に受信の技術を磨かなければならない。まさに私の専門である「編集」の出番である。「編集」は情報の送信側に固有のプロセスではない。新聞も雑誌も情報の流れにおける最後の編集者は読者であり、「受信」とはその字面から受ける印象とは裏腹に、実はかなり難易度の高いスキルなのである。「聞き上手」が「話し上手」に劣らぬ美点として賞賛される理由はそこにある。

受信による解読や解釈は極めて創造的な行為

 情報は発信される際、言語なり音楽なり映像なり、使用されるメディアに特化した形式にエンコードされる。エンコードされた情報はメディアを媒介してオーディエンスに伝送されるが、今度は受信者がエンコードされた情報を自分なりの方法でデコードしなかればならない。

 エンコードも編集ならばデコードも編集である。とかく創造性は発信側だけに宿ると思われがちだが、受信側が行なう「解読」や「解釈」といった作業も、実は極めて創造的な行為なのである。

米国の数学者であるクロード・シャノンとウォーレン・ウィーバーによる情報伝達の概念モデル。情報は送受信の段階でかならずノイズが混入するため、原型が過不足なくやり取りされることはない。この場合のノイズは、考えようによっては送信側と受信側がそれぞれ発動する「編集力」と考えてもいいだろう

 無自覚な情報の受容でもなく、短絡的な情報の遮断でもない第三の選択肢……。それは、各人が情報の入力を微細に設定できる高機能な調整弁を持つことである。

 あるときは情報を無際限に入れ、あるときは徹底的に入れない。その中間も時宜に応じて調節する。情報を取りに行かなくても入ってきてしまう時代、その調整弁のコントロール基準は各自の「編集方針」以外にない。

 最後に少し来週の予告をしておこう。前段で述べた「あるときは無際限に入れ、あるときは徹底的に入れない」ということで言えば、「徹底的に入れない」のはわりと簡単である。

 しかし、人間と情報との関係が一筋縄ではいかないのは、「無駄」や「不要」をあえて取り込むことが、人間の知性を活性化することがあるという点だ。次回はそのあたりのことを考えてみたい。



著者紹介――高橋 幸治(たかはし こうじ)

 編集者。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、1992年、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、1995年、アスキー入社。2001年から2007年まで「MacPower」編集長。2008年、独立。以降、「編集=情報デザイン」をコンセプトに編集長/クリエイティブディレクター/メディアプロデューサーとして企業のメディア戦略などを数多く手がける。現在、「エディターシップの可能性」をテーマにしたリアルメディアの立ち上げを画策中。本業のかたわら日本大学芸術学部文芸学科、横浜美術大学美術学部にて非常勤講師もつとめる。

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