初代のクアトロンではできなかった技術
こうした表現については、ノウハウの部分も大きい。ボケとピントの山、あるいは平坦とエッジ、テクスチャーの太さといった部分は一朝一夕ではなく、長く地道なチューニングが必要になる部分だ。実際、バックライトのエリア制御を含めて過去の苦労が生かされている。8Kへの超解像処理については、独自開発したLSI自身が持つ盛りだくさんの機能を使いこなし、細かな調整を加えている最中だという。
同時に色についても初期のクアトロンから5年間かけて培ってきたさまざまな経験が生きている。LC-80XU30ではカラートラッキング回路を独自LSIの中に仕込んでいるが、カラーマネージメントは初期のクアトロンの6軸から大幅に増えており、同時にRGBをクアトロンのRGB+Yに変換する際のアルゴリズムも、単純な3色→4色への変換からカラートラッキングとカラーマネージメントを組み合わせることでより自然にストレスがない再現が可能になるといった蓄積が反映されたものだ。また同じ黄色を再現するにも、黄色のサブピクセルと赤と緑のサブピクセルを組み合わせるという2種類の方法が選択できるクアトロンの特徴を生かして、黄色単体では再現しにくい階調性を赤と緑の組み合わせで作るなど、過去の経験が生きている。
これらの映像を体験した後に、折原氏から出た感想は「8Kらしい雰囲気があり、非常にできがいい」というものだった。
「ハイレゾ音源で音に空間や奥行きが増すのと同じように、4Kから8Kへと情報量が増えると、奥行き感に差が出る。LC-80XU30の映像を見ると、音でも映像でも空間がよりいっそう緻密に広がる実感があるのではないでしょうか」(折原氏)
8年前に初めて薄型テレビを手に入れたときの感動を
テレビの買い替え期間は通常8年。そう考えると、2015年は2006年前後に薄型テレビを手に入れたユーザーが対象となる。さらにさかのぼれば、2006年に液晶テレビを手に入れた人々の多くは1990年代末に手にしたブラウン管テレビからの買い替えになるはずだ、と指出氏は話す。
28型あるいは32型のブラウン管テレビから液晶テレビへの乗り換えは、当時大きな魅力にあふれていたはずだ。本体が劇的に薄くなり、省電力になり、大画面になった。そして、2015年にテレビを買い換える人々にもそのときと同じような魅力を提供したいとする。
それはさらなる大画面だったり、省電力だったり、高画質の4Kだったりという要素はもちろんだが、インターネットの動画配信やVODといった放送以外の新たなコンテンツだったりもする。
8Kという新たなクオリティーへの挑戦を秘めたLC-80XU30は、同時にシャープが膨大な時間をかけて蓄積してきたノウハウなしには完成しなかった製品だ。そこにクアトロン、クアトロン・プロなど直線的に進化してきた道筋も垣間見えて面白い。