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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第282回

スーパーコンピューターの系譜 インテルの超並列マシンiPSC

2014年12月08日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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 ThinkingMachineの後はASCIに……と思ったが、その前にもう少し超並列マシンの系譜を解説したい。今回はその1つ目、インテルのiPSCだ。これはインテルのTouchstoneやParagonにつながるシステムである。

 Paragonの話は、連載116回で少しだけ触れた事があるが、まずは順を追って説明したい。

iPSC/1。画像はComputer History Museumより

インテル製の超並列マシンiPSC/1
売れ行きはそこそこ

 1984年、米Oregon州にあるBeavertonにインテルはScientific Computers Group(SCG)という部隊を作る。このBeavertonは、D1C/D1XといったインテルのMother FabがあるHillsboroに隣接しており、実際D1C/D1XがあるRonler Acres Canpasのすぐ隣りと思えばいい。

 このSCGのマネージャーはインテルの前CTO(現在はSenior Fellowのポジションで休職中)だったJustin Rattner氏であった。SCGはその後、Supercomputer Systems DivisionやScalable Systems Division(どちらもSSD)と名前を変えるが、それはあまり重要ではない。

 このSCGは、1985年に最初の製品としてiPSC(iPSC/1)と呼ばれるシステムを完成させる。iPSC/1はIntel System 310APと呼ばれるマイコンシステムをベースとしたものである。

インテルが1985年に発表したAnnual Reportからの抜粋。System 310APをベースにしていると明記されている

 PSCは“Personal SuperComputer”の略だ。上の画像にもあるように、この310APそのものは8MHzの80286をベースとした産業用PCに近い構成のものである。

 この310APを最大4台組み合わせたものがSystem 310 APEXと紹介されているが、どうもこれをさらに拡張したものがiPSC/1になるようだ。

 基本構成は310APに近いが、内部のボードを拡張して、ここに80287と512KBのメモリー、さらに最大8ポート分のイーサネットコントローラーをワンボードに搭載したものが1つのノードとなる。

 このノードをキャビネットに32台集積したのが、最小構成のiPSC/d5で、2キャビネット/64ノードのiPSC/d6と4キャビネット/128ノードのiPSC/d7があった。また後追いの形で、ノード数を16に減らしたiPSC/d4もあったらしい。

これも1985年のAnnual Reportより抜粋。本来は見開きページにまたがっての写真なので、スキャンの関係で真ん中が切れている部分が不連続なのはご容赦を。左下が1つのノードの基板で、奥に8つ並んでいるセラミックDIPのパッケージがLANコントローラーのIntel 82586と思われる

 もともとこのシステムはCaltech(カリフォルニア工科大学)が1981年頃から研究していたCosmic Cube(PDF)が元になっている。

 Cosmic Cubeそのものは64ノードの8086+8087のシステムを下の画像のような6次元のリンクで相互接続したシステムであるが、この各ノードの性能を引き上げるとともに最大128ノードに拡張したのがiPSC/1ということになる。

これは先のリンク先の論文Cosmic Cubeよりの抜粋。大きな黒丸がそれぞれのノードで、1つのノードから6本のリンクが出ているのがわかる

 ちなみにノード間接続はイーサネットとされるが、当時のことだからまだ100BASE-TXはおろか10BASE-Tすらない時代なので、おそらく10BASE2を利用した接続であろうと考えられる。

 基本的にはノード同士の直結なので、ほぼ理論値に近い速度で通信できただろう。128ノードの場合は7本のリンクでノード同士が接続される(1本はノードコントローラーに接続される、システム管理用リンク)ため、この7本のリンクが全部フルに転送を行なったら70Mbpsとなる。

 これは当時のISAバスの実効帯域をややオーバーするほどなので、イーサネットであってもこれがボトルネックにはならず、先にノード内のISAがボトルネックになるはずである。

 さて、このiPSC/1であるが、32ノード構成のiPSC/d5が1号機としてORNL(オークリッジ国立研究所)に納入されたことは間違いなさそうだが、性能などの評価に関する論文は見当たらない。ピーク性能は32ノード(1キャビネット)あたり2MFLOPSとされる。

 搭載されてる80287の場合、まだパイプライン化されていないこともあり、例えばFADD(浮動小数点の加算)に70~100サイクルかかるため、一番高速な70cサイクルとして8MHz駆動だと0.11MFLOPS相当。これを32個集積しているから、ピーク性能は約3.7MFLOPSという計算もできるが、そこまで性能は上がらなかったようだ。

 ORNL以外の販売先も不明であるが、何台かは販売できたらしい。ただ100台には達しなかったようだが、この性能では無理ないところだろう。

→次のページヘ続く (後継機のiPSC/2とiPSC/860

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