そもそもfreeeはどうして生まれたか?
同社の設立のきっかけとなったのは、日本の小規模企業におけるテクノロジー浸透度が低いという課題に挑戦するということでもあった。freee代表の佐々木大輔氏はGoogleでSMB向けマーケティングでアジアパシフィックを担当していた人物だ。在職中に、日本は各国と比較しても日本の小規模企業におけるITリテラシーが低いということがわかった。通信インフラは世界1位の日本ではあるが、ITの利活用では世界16位という事実。このままでは、日本に新しいテクノロジーが入ってこなくなってしまう。日本にクラウドサービスで上場を果たした企業もない。こうしたことに問題意識を持ったのが起業のきっかけだ。
佐々木氏は以前の経験から、日本の会計ソフトが企業の業務に合っていないことを思い出した。調べ直すと、状況は昔と変わらなかったという。現在販売されている会計ソフトは、紙での会計ができる人専用であり、経験のない人には難しい。そこで、業務にあったシステムをクラウドで提供することを考えた。その結果、わかりやすいソフトウェアとしてのfreeeが生まれたわけだ。
ちなみに佐々木氏は、実家で経営している美容院が150万円の高額なPOSシステムを借りていることに疑問を感じていた。そのシステムを提案したベンダーは直接営業マンが売りにくるスタイルなので、単なる専用POSレジに150万円の価格にしなければ儲からないビジネスモデルだったからだ。同社が目指すものは中小企業が買える価格にすること、そのために営業コストをかけない方法。クラウドという選択は必然的であったわけだ。
ライバルの税理士や会計事務所もパートナーに展開開始
販売は、自社のWebでの販売のほか、商社系のSIやMFPベンダーが販売してくれている。いずれにしてもオンラインによる販売になるので、無理なチャネル展開はしない。一方で、高齢化への対応は考える必要があるだろう。特に地方の経営者では高齢化が懸念される。このようなITに詳しくない地方の高齢経営者などに対するクラウドサービスの認知や提供は今後の課題でもある。
同社の製品は実際のところは他のベンダーや製品と競合することは少ないという。そもそもの主たるユーザーのペルソナを2・3名の小規模企業と設定している。この市場は、多くの販売チャネルが足を向けない領域だから競合することはほぼない。あえて言うなら、中小企業に強い弥生だ。税理士や会計事務所などの推薦や知り合いが利用しているということでの幅広い後押しが弥生のシェアを高めているのは弊社の調査結果からも分かる。ただこの固いと思われた弥生ユーザーから同社への移行が結構多いそうだ。
freeeのパートナー企業は税理士や会計事務所となる。つまり、競合となる弥生などともパートナー企業の多くが重なることになるが、違いはその展開の仕方だ。パッケージの場合とは異なり、パートナーはいかにして直接ユーザー企業にfreeeを使わせるかがポイントになる。無料の試用期間を経験すれば、確実にその後も使い続け、有料会員になると踏んでいる。freeeはクラウドサービスなのでパッケージソフトと違いバージョンアップやサポート面で税理士などを煩わせることはないメリットもある。最終的には安くて便利なfreeeを勧めることによって、顧客企業との関係強化に役立つとアピールできる。
そのためのパートナーセミナーは同社の五反田本社の施設を利用して、毎月無料で実施している。多くの企業を対象とすることから、パートナーでの展開は必須の戦略となっている。今後は、会計士、税理士向けの説明会、セミナーを積極化することも検討している。また、現在は同社のオフィスに来てもらっての説明が中心であるが、今後市場を広げるためにはより多くの会計士、税理士にfreeeのよさを理解してもらう必要があると考えている。
「意思のあるモノづくり」が目指す、クラウドによる社会貢献
同社は「いまだかつて日本ではクラウドサービス専業ベンダーで上場した企業はない」ということを理解し、その最初の企業になるという思いのもとで、ベンチャーキャピタルを説得して資金を調達した。同時に短期間での上場実現はクラウドサービスの性格上、難しいことから、一定期間の猶予をもらったうえでの資金運用となっている。システム開発とマーケティングに思い切って打ちこめる環境を得ていることは同社にとって有利に働いている。裏を返せば、同社の目指すサービスには先行投資とその資金調達という2つの克服しなければならない命題がある。
中小企業のユーザーと同社にとって共存しやすいエコシステムを構築することが、同社の目指す中小企業への意味のあるサービスを提供、社会に貢献する企業になるための基本施策となっている。freeeが目指す「本質的な価値を追求する、テクノロジーを信じて創造する、そしてSNSにフォーカスしてマーケティングを展開する」そして社会に役立つ仕事をしたい、一見ナイーブだが本質的な意義をそこに置いているのが逆に新鮮だ。
freeeは零細企業などの小規模な企業に限定しているため、機能面、保守などを含めた運用面で他のベンダー製品と比較して十分ではないという指摘はある。しかし、幾多のベンダーがトライしているが、実際に大きな効果を得ているクラウドサービスは見当たらない。逆に今まで会計システムの導入すら考えていなかった中小、零細企業にシステムの導入を検討させ、導入させる結果を見せている功績は大きい。難攻不落の巨大市場の突破口を見出せば、クラウドサービスの利活用を一気に促進させる可能性を秘めている。大いに期待したいところだ。
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