中小企業の会計管理というきわめて重要な業務システム、おそらく日本のコンピュータ産業の企業で利用する際のもっとも基本的なシステムが、会計だろう。今回とりあげる「クラウド会計 freee」は、中小企業という範疇よりもさらに小さな数名規模の企業を対象とした会計システムをクラウドで展開。わずか1年余りで10万事業所を獲得している。freee 代表取締役 佐々木大輔氏の話を元に成長の経緯と戦略を解説する。
銀行で記帳するように、仕分けを自動化する仕組み
日本の企業の大半をしめる小規模企業、その数は350万社とも言われる。圧倒的な数を占める小規模企業においても、毎月の経費計算などの経費処理は必ず発生する。そして決算処理なども不可避の業務として企業の担当者を煩わせている。古くはオフコンでの業務システムで基幹業務として動いており、さらには中小企業では税理士や会計事務所から勧められたパソコン向けのパッケージが利用されている。
幾多の公的な仕組みや制度があっても、なかなか企業自ら会計処理を行なうという「自計化」が進んでいない。また、システム化をしたいと考えても、何を採用したらいいのか、誰に相談したらいいのかわからない。そんな壁すらあるのが中小・零細企業だ。freeeは手付かずで残されているこうした企業の会計処理の自動化を、クラウドサービスとして提供することで注目を集めている。
freeeの最大の特徴は、銀行で通帳記帳するように、経費の明細を取り込むことで、自動で分類し記帳するというものである。オンラインバンクのログイン情報を同社がユーザーから預かり、API経由でデータを吸い上げる。あくまで、仕分けのための作業であり、振り込みなどの作業は請け負わない。従って、銀行の許可は不要であり、同社とエンドユーザーとの契約で行なえるというわけだ。
また、freeeはノンカスタマイズを前提としている。一般的な企業となれば、業務システムにはカスタマイズが必要となってくることが多いが、本来は業務をソフトウェアに合わせたほうが安価にシステムを導入できる。基本のクラウドサービスをノンカスタマイズで行なう意味が明確になっている。freeeを利用している企業の評価としては、今まで行なってきた会計処理が圧倒的に短時間で済ませることができたとの声が多いという。いわゆる自動会計処理の効果が評価されているということだ。
ターゲットの主体となるのが「従業員が2・3名の零細、小規模企業」で、最大でも20人くらいの企業。企業の90%以上が従業員20人以下の企業であるために、同社の対象顧客はほぼ手つかずに残っているともいえる。
料金が安いだけで伸びているのではない
クラウド会計ソフト freeeのサービスインは2013年4月だが、無料プランを含めての獲得ユーザー数がサービス開始後1年で10万事業所を突破した。これは注目すべき事実だ。2014年9月末では13万事業所に達しており、当初の期待よりも速いペースで増えているという。
お試しの利用が無料で、有料化しても980円/月という格安の料金がユーザーには受け入れられている。とはいえ、無料のお試し期間があり、月額料金が安いのは他のクラウドでも見受けられるので、価格だけではない。その点、急増の背景は、Facebookやtwitterが中心とするSNSによる効果であるようだ。個人事業主は、発言力もあり、自由に発言している。また、SNS上で同業者がつながっている人が多く、拡散が早い。SNSによってイノベーター、アーリーアダプターの獲得を狙ったが、思った以上の効果があったということだ。SNSを経由したマーケティングはクラウド展開するサービスには親和性が高い実証例となった。
個人事業主の顧客としての食いつきは早かったが、一般企業の開拓は当初は苦戦した。というのも企業には、会計事務所や税理士が絡んでいることが多く、障害となっていたのだ。税理士は、自身の慣れているソフトウェアを使いたがり、新しいもの、わからないものは勧めたがらない傾向がある。しかし、2014年4月以降は税理士向けのセミナーを行ない、積極的にfreeeのよさを説明してきたという。経費精算などの面倒な作業を自動でfreeeがやってくれるので分業化ができ、作業が楽になる点などが認められ、人気が出てきた。これについてfreeeは、税理士向けの対策は必要かつ重要であるが、あくまでもエンドユーザーにいいものを提供することに主眼を置いている。そうすれば結果として税理士と目線をあわせられるはずだからだ。
実際のfreeeのユーザーは、初めて会計ソフトを導入するユーザー、会計士に委託していたというユーザー、他のソフトウェアからの乗り換えがそれぞれ1/3ずつ程度だという。特に他のソフトウェアからの乗り換えが増えてきている。データの移行などは、同社がサポートする。
取材時時点では、来年(2015年)の確定申告にむけてサポート人員を中心に社員教育を強化している最中だった。この背景には、2014年の確定申告でサポート面での対応が不十分だったという反省がある。2014年の元旦から顧客が急増し始めたために、サポート陣営のトレーニングが不足し、ユーザーからの苦情につながったり、ネガティブな意見がネット上で投稿されたからだ。その対応として現在サポート体制の強化を行なっている。2014年の初めはメールのみで対応していたが、現在はWeb上でチャットサポートも提供する。サポートの時間は10~18時で、時間外はメール対応にしているという。
(次ページ、そもそもfreeeはどうして生まれたか?)
この連載の記事
-
第9回
ビジネス
スマイルワークス「ClearWorks」が描く中小企業のクラウドの世界 -
第7回
ビジネス
情シス仕事を肩代わり!NTT東日本の「オフィスまるごとサポート」 -
第6回
ビジネス
ソフトバンクテレコムの「かんたんオフィス」はなにがかんたん? -
第5回
ビジネス
アナログな中小企業攻略が新鮮なKDDIまとめてオフィス -
第4回
ビジネス
サポートやPBXの実績を元に中小企業を攻めるNTT Com -
第3回
ビジネス
「たよれーる」で狙う実質的なクラウドでの勝負、大塚商会 -
第2回
ビジネス
中堅・中小企業需要を狙う富士通マーケティング「AZSERVICE」 -
第1回
ビジネス
NECが満を持して投入したSMB向けクラウド「N-town」 -
ビジネス
ノーク伊嶋のIT商材品評会 - この連載の一覧へ