10月25日、26日に中野サンプラザで開催した「秋のヘッドフォン祭 2014」。数々のオーディオメーカーが軒を並べ自慢の製品を展示する中で、行列の絶えなかったブースがある。
ソニーエンジニアリングが新規に立ち上げたテーラーメイドヘッドフォンブランド「Just ear」ブースだ。ソニーエンジニアリングは、ソニー製品の機構設計などを主な業務とするソニーの100%出資子会社だが、大規模コンサート用ペンライトシステム「FreFlow(フリフ)」やダンス練習用のDVDプレーヤー「Dance Station」などの自社オリジナルの製品も開発・製品化している。
Just earも同社のオリジナル製品のブランドとして立ち上がったもので、現在まさに製品第1段の開発をすすめている最中。中心となって動いている人物は、ソニーエンジニアリングに所属し、ソニーの5代目耳型職人を務めた松尾伴大氏だ。
Jsut earのことは、今年の4月から松尾氏が個人のTwitterアカウントでティザー的に予告していた(もっとも、「松尾氏がカスタムIEMを始めるらしい」という以外にはほとんど明かされていなかったが)。今回展示されたのは開発中のプロトタイプとなるが、すでに耳の早いオーディオ好きからの注目度も抜群に高く、初お披露目にもかかわらず長蛇の列ができたというわけだ。
展示されていたのは「MONITOR」「LISTENING」「CLUB」の3種類。いずれもBA型ドライバーとダイナミック型ドライバーを1基ずつ搭載。デザインはクリアーシェルのシンプルなものに統一していた。また多くのカスタムIEMよりも若干硬度が低く、弾性を持った素材で作成されているため、長時間のリスニングでも疲れにくいという。
発売日や詳細な仕様は今のところ未定ながら、オーディオ好きならどうしても興味をひかれてしまいそうなこのイヤフォン。会場で、こっそり松尾氏に話をうかがってみた。
販路は? 価格は? 会場でこっそりインタビュー
—— 製品のポイントを教えてください。
「カスタムIEMって、取った耳型をもとにした型を作って、そこに流し込んだ樹脂を紫外線で硬化させる作り方が一般的だと思うんですが、Just earでは取った耳型を基に、モデラーさんが1点1点フィギュアを作るように手作業で作っていきます」
—— え!? どんなところにお願いするんですか?
「詳しくは言えないんですけど、●●●を作っている工房さんにお願いしていて。別の案件で以前からお取引のあるところにダメもとでお願いしてみたら、『それやりたい!』『俺がやる!』って言ってくださった方がいて(笑)。その方にお願いする予定なんです」
—— 最近、そういう誇りを持ったモノ作りの現場が少なくなってきていると思うんです。そんな中で、一風目立つプロジェクトになりそうですね。
「もう、かなりですよ(笑)。『1日1個頑張って作る』みたいな、そんな感じになりそうなので(笑)」
—— 販路はどうする予定ですか?
「そこはまだ検討中なんですよね。やっぱり、ソニーエンジニアリングとソニーだと企業としての規模感も違いますので、『ソニーさんとはお取引してるけど……』という企業さんも多いんです」
—— Twitterを拝見していて、松尾さんがお一人で立ち上げるのかと思っていました。
「最初の1年間は『ものが作れるかどうか』というところから本当に私1人でやっていましたけど、4月にツイートした以降は『これはビジネスとしてやって行きましょう』ということになって。資材を調達する部隊も立ち上がりました。
でも、『どういう販路でやるの?』『どういう販売戦略でやるの?』というのも主に僕が考えているので。やれることといったら、僕のキャラクター(を前面に出して)でやるしかないかな、みたいに考えています(笑)」
—— 個人でブランドを立ち上げる考えもありましたか?
「もちろん個人でやって、それで生計を立てるっていうのもできなくはなかったと思うんですけど、僕はやはりソニーエンジニアリングに長年いるので、ソニーエンジニアリングという組織の中でやっていきたいという気持ちがあって。
あとはこういう(オーダーメイド形式の)製品って、ソニーではやりにくいところがあるんですけど、『ソニーエンジニアリングのJust earをきっかけに、ソニーでも面白い製品を出しやすくなっていったらな』っていう。そういう熱い気持ちも実はあるんですよね(笑)」
—— ちなみに、販売価格は決まっていますか?
「未定ですが、20万円から30万円くらいで考えています。その分、まだ調整中ですけど、耳のプロフェッショナルと、音作りのプロフェッショナルと、モノ作りのプロッフェッショナル。すごいところを抑えています。特に型取りするところは、リラックスできて、試聴もできる、いいところを抑えています。いい時計を買うのと同じですよ(笑)。
なかなか、イヤフォンって難しいですよ。スペックとか材料とか、価格ということではないと思うんです。なので、僕が直接(注文者から)お話をうかがって、『こういう音にしましょう』って作っていくということもやっていこうと思って。僕自身も、オーディオが大好きですし。11月くらいからは、プロモーションもしていけると思います」
松尾伴大(まつおともひろ)
ソニーエンジニアリング所属。ソニーのイヤフォン、ヘッドフォンの音響設計のほか、5代目耳型職人としても知られる。「MDR-1R」や「MDR-EX800ST」など音響設計を担当したヘッドフォンの中には評価の高いモデルが多く、ファンも多い。
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