音を聴くというよりその環境に入りこむ感覚を味わえる
それでは音を聴いてみよう。届いた製品の梱包を開き、同軸入力でまずは普通のCDを再生するところから試してみた。HD-DAC1は「ハイレゾ対応のUSB DAC」なので、PCとの組み合わせが中心になるとは思うのだが、接続や設定に頭を悩ませるよりも、まず先に音を確かめたいという気持ちが強かった。
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Ryu Goto |
ディスクはバイオリンソロを中心とした楽曲集、五嶋龍の『RYU GOTO』(UCCG-1252)。手近にあったCDを適当に……と書くと怒られそうだが、ピアノ伴奏、オーケストラ伴奏と組み合わせたトラックも含まれており、いろいろと聴き比べるのに手っ取り早い。ここではトラック3(ヴィターリ:シャコンヌ ト短調)を聴く。オルガン伴奏の上でバイオリンの切ない旋律が奏でられる。表現力や速いパッセージのキレのチェックに加え、低域から高域まで広いレンジを含んだオルガンの音の再現性も知りたい。
再生してまず最初に飛び込んできたのは、アナログのFM放送のように滑らかな響きだ。硬質でまじめな音を想像していた筆者には、少々意外だった。派手な演出やギスギスとした粗さがない。CD再生でこういう表現ができる点が新鮮である。穏やかだが旋律には適度な温度感もあり、ロマンチックな主題を魅力的に聴かせる。FM放送と書いたが、ナローレンジということではなく、実際にはごく小さな音や豊かな倍音が高域に向けてすっと抜けていくような自然さがある。
聴き進んでいくと、空気感というか、楽器の音を近くで直接聴くというよりは、離れた客席でホール全体の響きを聴く感覚に近いと感じる。バイオリンとオルガンの音がよく混じり、調和して聴こえる。ディティールは細かいのだが、音の際はそれほど強調されない。たとえば4:30ごろから始まる、細かなバイオリンのパッセージでは輪郭がそれほど立たないので、きれいだがちょっとパンチ不足かもしれないと最初は思えた。しかし聴き込むとディティールが明瞭に分離するし、低域も見通しがいいし量感があり、意外にパワフルだ。
このところ聴いていたハイレゾ対応プレーヤーは、音の際が明確で、少々あからさまにメリハリ感やワイドレンジ感を出すものが多かった。しかしHD-DAC1はそれとは逆の方向感で、聴き流すとレンジの広さや情報量の豊富さをあまり意識させない。しかし聴き込めばソースが含んだ情報を細い筆で描ききったような緻密さがあるし、デジタル再生でありながら、優しさ、滑らかさ、爽快さを感じさせる。