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NPSのマーケティング活用 7つのハードルと解決策

2014年06月25日 13時00分更新

文●川畑隆幸/株式会社アイ・エム・ジェイ

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 「顧客ロイヤルティ」を活用したデジタルマーケティングの効果測定について解説する本連載。前回はある電化製品メーカーの事例を通じて、WebサイトにおけるNPSの導入方法を紹介しました。この記事を読んで、顧客ロイヤルティを計測したい、NPSを導入したいと考えたWeb担当者もいるでしょう。今回は、NPSを実際に導入するときに直面する「7つのハードル」と、それに対してどのようなアプローチで解決するか? を私の経験をもとに解説します。

NPS導入の7つのハードル

  • ハードル1:まだまだ低いNPSの認知度
  • ハードル2:Webだけの指標として成立しない
  • ハードル3:他社のNPSと比較できない
  • ハードル4:組織が大きくNPS導入の決断ができない
  • ハードル5:「ロイヤルティ」になじみがない
  • ハードル6:調査分析の能力が足りない
  • ハードル7:Webサイトへの適用が難しい

ハードル1:まだまだ低い国内でのNPSの認知度

 NPSは、アップルやP&G、ナイキ、インテルなどグローバル企業を中心に導入が進んでいることで注目を集めていますが、国内ではまだ導入事例が少なく、一般的に認知されているとは言えません。したがって、Web担当者がNPSを導入するには、指標の有用性や顧客ロイヤルティの考え方を社内で説明し、関連部署の理解を得る必要があります。実際、私もいくつかの企業への導入を支援しましたが、もっとも時間がかかったのが社内教育でした。

 いきなり大がかりな調査を実施するのが困難な場合は、すでに実施している顧客向けのアンケート調査に質問項目として「友人や職場の人に薦めたいと思いますか?」を0〜10の選択肢で追加してもらう方法もあります。その他のアンケート項目からNPS向上の施策を見つけだして、社内に広めるのもよいでしょう。

 いずれにせよ、社内の理解を得るには、勉強会を多く実施するなど、理解促進のための努力が不可欠です。

  • ハードル:NPSの認知度が低い
  • 解決方法:勉強会を実施するなど理解促進を図る。アンケート調査に盛り込み、ミニマムな調査を実施する

ハードル2:Webの効果測定に使いにくい

 顧客ロイヤルティはWebだけでなく、商品や売り場のディスプレイ、販売員の接客やコールセンターの応対など、顧客とのさまざまな接点によって決まります。Web担当者のミッションはWebの効果を向上することですが、NPSが高いからといってWebの施策がうまくいったとは限らないので、Web担当者からすると、「Webの効果測定には使えないのではないか?」「Web担当者のミッションと異なるのではないか」との疑問があるかもしれません。

 そこで、実際の導入では、NPSと相関関係のあるWebの指標をセットで考えるとよいでしょう。例えば、前回の事例でも紹介したように、NPSが高い顧客はCSRコンテンツをより多く見ている傾向があります。この場合、CSRコンテンツをより充実させることや、CSRコンテンツを見てもらうための施策がNPSの向上につながるとの仮説が立てられます。

 従来のアクセス解析では、どんなユーザーにコンテンツが見られていたかまではわかりませんでした。NPSはWebの施策を直接的に評価するための指標ではありませんが、Webサイトを評価する指標の1つとして使えます。企業戦略の中でWebにどんな役割を与えるか、NPSの導入が考えなおすきっかけになるでしょう。

  • ハードル:Webだけの指標ではないためWebの効果が計れない
  • 解決方法:NPS向上のためのWebの指標を設計する

ハードル3:他社のNPSと比較できない

 NPSの本来の目的である「顧客ロイヤルティの向上」を考えればあまり意味がないのですが、「同業他社のNPSはどうなのか?」「基準を知りたい」といった質問を受けることが多くあります。

 現状では、まだまだ導入事例が少ないことや、導入していてもスコアは社外に公開されないことから、他社のNPSとの比較はできません。ただし、IMJでは、過去の調査結果から得た16業界のNPS平均値をWebサイトで公開しています。

  • 酒造メーカー:業界平均NPS 26
  • ファーストフード店:業界平均NPS 4
  • 生命保険:業界平均NPS -26

 その他の業界など詳しくはこちらを参照ください。
(参考:業界別NPSを徹底調査 16業界別 NPSベンチマーク調査 総集編 -1年間16業界のNPSまとめ

 社内での説得材料として必要であればこうした情報を活用しつつ、実務では平均値に縛られることなく、NPSの向上を目指しましょう。

  • ハードル:他社と比較できない、基準値が分からない
  • 解決方法:ネット上の情報を参考にする

ハードル4:組織が大きくNPS導入の決断ができない

 NPSは企業ブランド、製品ブランドなどさまざまなレベルで測定できます。たとえば、メーカーであれば、企業ブランドに加えて、複数の製品ブランドやサブブランドを抱えているでしょう。

 そのため、大きな企業ほど「どの部署でNPSを導入するか」が定まらず、導入が進まないことがあります。グローバル企業ではCMO(Chief Marketing Officer:マーケティング最高責任者)が部署横断で導入をリードするケースがありますが、国内の大企業は「広告宣伝」「広報」「マーケ」「デジタル」などの“縦割り”組織がほとんど。導入までの合意形成に時間がかかるのが普通です。

 そこで、まずは小さな単位でNPSを導入してみるのがよいでしょう。部署ごとに予算を持っている企業の現状を考えると、1つのブランドや事業部でスモールスタートして実績を作ってから、全社的な取り組みへ発展させていくのがおすすめです。

  • ハードル:縦割り組織で導入が決まらない
  • 解決方法:導入に積極的な担当部門と合意形成しスモールスタートで実績を作る

ハードル5:「ロイヤルティ」になじみがない

 「PVが前年比120%です。UUが110%です」は無駄とは言いませんが、経営者にとってはそれほど意味のある数字ではありませんし、「PVを120%にしろ!」という経営者は多くないでしょう。PVやUUはWeb担当者のKPIであり、経営者の関心事ではありません。

 NPS導入の1つの効果は、経営者とWeb担当者が共通の指標である「顧客ロイヤルティ」を通じて話せるようになることです。Web担当者が使っていた今までの指標とは違い、Webの効果を経営者にわかりやすく示せるチャンスだととらえましょう。

  • ハードル:顧客ロイヤルティはWeb担当者のなじみのない指標で理解しにくく、メリットが感じられない
  • 解決方法:Web担当者と経営者が共通の指標をもつメリットを理解し、前向きに活用する

ハードル6:調査分析の能力が足りない

 NPSの導入は、一般的に、要件定義からデータ収集、解決策立案、報告といったフローで進みます。

NPSの導入フロー

 NPSの本格的な導入には、ロイヤルティファクターを導くための調査設計や、適切なパネルを集めるためのノウハウなど、自社でリサーチ部門を持つくらいの調査能力が必要です。たとえば要件定義のフェーズであれば、調査の質問項目を考える前に、内部の業務フローや業務上の問題点などを各担当者にインタビューしてまとめていきます。

 導入対象の事業規模が大きく、社内での調査が難しい場合は、インタビューとリサーチ能力を持った外部の専門家に依頼することも検討しましょう。

  • ハードル:業種・業態の理解と調査分析能力が必要
  • 解決方法:インタビューとリサーチ能力を持った専門家への依頼も検討する

ハードル7:Webサイトへの適用が難しい

 NPSはWebに限らずさまざまなタッチポイントによって変化するため、WebサイトだけでNPSを向上させるのは難しいとも言えます。大切なのは、NPSが高い顧客がどんなWebコンテンツを見て、ソーシャルでどんなつぶやきをしているか? Web上でどんな行動を取る人がNPSの高い顧客なのか? を見極めることです。NPSの向上に役立つコンテンツを仮説として洗い出し、調査に反映する能力が高く問われます。

 また、NPSによい影響を与えるロイヤルティファクターは、本来はアンケートやインタビュー調査でしかわかりませんが、Webサイトでは直接測定する仕組みも考えられます。例えば、Webでアンケートを取る際にクッキーを利用し、アクセス解析ツールと連動して推奨者がどのページを閲覧しているかを分析できます。

  • ハードル:NPS向上に寄与するコンテンツの企画開発力、NPSの直接的、定量的な効果測定が必要
  • 解決方法:仮説設定能力の向上、NPSとアクセス解析の連動を実現する技術を磨く

まとめ:ハードルを乗り越えた後に

 紹介したさまざまなハードルを乗り越え、ようやく導入に至っても、NPSは1回測定して終わりではありません。アクセス解析と同じように、PDCAのサイクルを回すことが大切です。ある一定期間空けて定期的に調査したり、商品購入時にNPSを測定したりして、どのようにスコアが改善されていくかをチェックします。

 NPSは「X社(企業やブランド)を友人や同僚に薦める可能性は、どのくらいありますか?」という単純な質問で測定できますが、本当に大事なのはNPSを高めている(もしくは低くしている)要因=ファクターを探し当てることです。ロイヤルティファクターを特定し、それを永続的に向上させていくためにどんな施策が有効なのかを常に探っていく。導入のハードルを乗り越えた先には、そうしたサイクルを運用していくことが必要なのです。

 今回は、顧客ロイヤルティとNPSを企業に導入するときの課題と対応策を紹介しました。「経営者と同じ視点を持てる」ことは、Webサイトに限らず、これからのデジタルマーケティングによりいっそう求められる考え方でしょう。


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