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事例で学ぶ、顧客ロイヤルティ向上の3ステップ

2014年06月12日 11時00分更新

文●川畑隆幸/株式会社アイ・エム・ジェイ

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 「顧客ロイヤルティ」を活用したデジタルマーケティングの効果測定について解説する本連載。前回は顧客ロイヤルティがなぜ重要なのか? 顧客ロイヤルティをどのようにして計測するのか? について簡単に解説しました。今回は、実例をもとに、Webサイト構築におけるNPS導入の実際について紹介します。

NPSで「役に立つサイト」を目指す電化製品メーカーの事例

 「Webサイトを作っても売上には関係ない。役になんか立たない」。コーポレートサイトを運用している企業のWeb担当者なら、一度はこんなことを言われたことがあるでしょう。売上を決めるのは「営業力」であり、店舗における「商品陳列のスペース」である——コモディティ化した商品を扱う企業であれば、いまでも決して珍しくはない考え方ではないでしょうか。

 今回の事例として取り上げる電化製品メーカーのA社も、そんな企業の1つ。電化製品業界では、家電量販店やネットで安く購入できる状態が一般化しており、価格を比較してより安い製品を購入するのが当たり前になっています。各社とも商品開発にしのぎを削っており、差別化に成功している商品も存在しますが、基本的には「コモディティ化が進んでいる業界」との理解でよいでしょう。

 電化製品を買うならこの会社と、明確に意識して商品を買うよりは、価格の安さや店頭での露出、ネット上でのレビューで個々の商品を決定するケースが多いのではないでしょうか。掃除機はあの商品、電子レンジはあの商品……とは思うかもしれませんが、「このメーカーだから購入する」という“メーカー縛り”は減ってきていると言えるでしょう。

電化製品の購買特長

 つまり、電化製品業界は、「購買行動に対する企業名の関与が低くなってきている」のが大きな特徴です。

 こうした背景から、リニューアル以前のA社のコーポレートサイトは、製品情報や企業情報など、必要な人が必要なときにだけ見るコンテンツをいかに正確に提供するか? をゴールに運営されていました。そのため効果測定が難しく、会社認知度の向上や売上に貢献しているはずだ、との思いから、PVやUU をKPIに設定していたのです。

 しかし、「PVやUUを上げる」のは目標設定として歪んでいます。プレゼントキャンペーンの乱発を招くだけで、「Webサイトが役に立っているか?」という根本的な疑問には答えられません。そこで、今回のサイトリニューアルでは、KPIにNPS(Net Promoter Score)を採用し、顧客ロイヤルティの向上を目指すことになりました。

NPS導入のための7つのステップ

 Webサイトの効果測定にNPSを導入するには、大きく以下の7つのステップがあります。

  1. NPSの理解を促進し、啓蒙する
  2. 調査と分析によってNPS向上のヒントを探る
  3. ロイヤルティファクターからNPS向上につながりそうな行動を検討する
  4. Webでできることを仮説化する
  5. コンテンツを開発する
  6. コンテンツを実装する
  7. 効果を検証する

 このうち、今回は特にキモとなる2~4の3ステップを中心に、A社のサイトリニューアルでの取り組みを見てみましょう。

調査と分析によってNPS向上のヒントを探る

 NPSは、「(企業やブランド)を友人や同僚に薦める可能性は、どのくらいありますか?」と質問するだけで計測できますが、実際の調査では「なぜ薦めるのか?」の動機を探ることが重要です。他人に薦める動機、つまりNPS向上に寄与している要素を「ロイヤルティファクター」と呼び、このロイヤルティファクターからNPSの向上につながるコミュニケーションやコンテンツを考えていきます。

 ロイヤルティファクターを探るためには、NPSの調査を実施する際に、適切な質問項目を設計する必要があります。

  • 「A社の商品を友人に薦めますか?」
  • 「A社にどういうイメージを持ちますか?」
  • 「普段、コーポレートサイトサイトにどういう理由で訪れますか?」
  • 「この企業の商品でもっとも好きな商品はどれですか?」
  • 「あなたは直近1年間でこの企業の商品を購入しましたか? 購入したものを写真から選んでください」
  • 「あなたは以下のCMを見たことがありますか?」
  • 「普段家電を購入する時に参考にするのは次のうちどれですか?」

 これらの調査によって、NPSのスコアとそれ以外の質問での関係性が見えてきます。たとえば、「もっとも好きな商品は掃除機」と回答した人にNPSのスコアが高い人(推奨者や中立者)が多ければ、掃除機という商品の魅力にロイヤルティファクターがあるかもしれません。自社のイチオシ商品が電子レンジであったとしても、掃除機に関するコンテンツを増やして、推奨者を伸ばしていく……といったアプローチが考えられるでしょう。

推奨者を伸ばすためのコンテンツ強化にシフト

 一方で、NPSの調査では、「いつも行く家電量販店に山積みになっていた」「店員に勧められた」という理由だけで購入されており、企業に対するロイヤルティが特に存在していない商品もわかります。NPSのスコアが低い人(批判者)が多く、高い頻度で購入されている商品がそれです。このように、自社の商品が「どういう意図を持って購入されているか」を明確にすることで、力を入れるべきコンテンツやコミュニケーションの方向性も検討できます。

ロイヤルティファクターからNPS向上につながりそうな行動を検討する

 ロイヤルティファクターから顧客がどんな行動を取っており、同じような行動を取る顧客をどう増やすか? どの顧客層をどう維持するか? というのが次の大事なポイントです。

 前回の記事で、NPSのスコアが高い顧客には以下の5つの特徴があると説明しました。

  1. Repurchase (継続購入)
    継続的に何度も買ってくれる
  2. Buy additional lines (別商品の購入)
    この企業の商品であれば他の商品も素晴らしいはずと考えて、別の商品を購入してくれる
  3. Referrals (口コミによる推奨)
    企業や商品を他者に推薦してくれる
  4. Pay Premium(プレミアム支払い)
    より高い金額でも支払ってくれる
  5. Constructive feedback (建設的フィードバック)
    「もっとこうしてほしい」など製品の品質・機能向上に対しての助言をする

 このような顧客を増やし、NPSを向上させるにはどうすればいいか? 例えば、以下のような購買行動を取る顧客がいると仮定しましょう。

  • 電化製品は機能を満たしていればよく、特にメーカーへのこだわりはない(安いものを買う)
  • 購買頻度は製品によって異なるが基本的には故障した時

 この購買行動を

  • 電化製品の購入はメーカーを選択することから始まる
  • 購買頻度は製品によって異なるが基本的には故障した時

と変化させることを第一目的とします。電化製品はその性質上、頻繁に購入するものではないため、購買頻度を上げることは難しいです。そこで、購入の最初のステップを機能や価格ではなく、メーカーを選ぶことからスタートさせることを目的とします。従来は結びついていない購買と企業を、まずは結びつけるわけです。このアプローチをNPSのスコアが高い顧客に向けて実施できれば、付属する消耗品などの継続購入や、同じメーカーの異なる製品を購入するクロスセルなどの売上向上につながる購買行動を取ってくれる可能性が高まります。

 とはいえ、このアプローチをどう設計するかが難問です。「購買と企業が結びつかない」ということは、「企業が顧客とのコミュニケーションパスを持っていない」と言い換えられます。顧客との接点はあくまでも商品であり、スーパーマーケットの棚になる訳です。顧客ロイヤルティが高い顧客とコミュニケーションをとりたくても手段がなかったのです。

Webでできることを仮説化する

 ではWebを使ってどのようにロイヤルティの高い顧客とコミュニケーションをとり、ロイヤルティファクターをどう増やしていくか? 具体的に考えてみます。

(1)顧客と直接の接点を生むソーシャルメディアとキャラクターの活用

 従来もキャンペーンなどで顧客と接点を持てましたが、顧客の“質”はあまり重視されていませんでした。Facebookの「いいね!」のように、顧客自らがアクションを起こす必要があるソーシャルメディアであれば、一定の質を持つ顧客とのコミュニケーションが図れます。

 会員制のコミュニティサイトなども従来からありましたが、開発・運用には相当の費用がかかること、会員の母数を集めることが必要なことなどから、なかなか導入に踏み切れませんでした。運営のノウハウやリソースはソーシャルメディアでも必要ですが、開発やインフラ費用にコストがかからないため、顧客との接点を手軽に持てます。

 また、最近では多くの企業で、「キャラクター」を活用する動きが広がっています。キャラクターを通して、企業が顧客とコミュニケーションを取るのも昨今の大きな特徴です。

 コーポレートサイトのリニューアルに話を戻すと、ソーシャルメディアの活用や、キャラクターの開発は、もはや避けて通れない施策の一部となっています。これからのWeb担当者は、「情報を整理し、企業が持っている情報をサイトに掲載しておけば見てくれる」という発想から大きく抜け出す必要があります。

(2)顧客ロイヤルティの高い顧客の傾向をつかんだコンテンツを作る

 企業によって差はありますが、一般に「製品開発の過程」「企業としての環境や社会への貢献」などのコンテンツは、顧客ロイヤルティの高い顧客にはよく見られる傾向があります。そのため、工場見学コンテンツや、製品開発ストーリー、社会貢献活動(CSR)は、重要なコンテンツとなるケースが多いです。

 中でもCSRコンテンツは、従来のアクセス解析だけを頼りにすると、「あまり見られていないのでコンテンツをカットする」と判断してしまいがちです。顧客ロイヤルティに価値をおいて考えると、それを誰が見ているのか? を明らかにし、より効果が高まる見せ方を検討すべきなのです。

 大事なのは「どのくらい見られているか」ではなく「どんな人が見ているか」です。量でコンテンツを考えるのではなく、質で考える。当たり前に聞こえてしまいますが、意外と見落としがちな重要なポイントです。

 今回は、NPSをWebの施策に生かす方法を紹介しました。次回は、NPSの社内導入で壁となるさまざまな課題をクリアする方法を解説します。


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