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「アクセス解析依存」をやめるべきたった1つの理由

2013年10月09日 11時00分更新

文●川畑隆幸/株式会社アイ・エム・ジェイ

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 スマートフォンやタブレットの普及でインターネットが身近なものになるにつれ、Webに求められることも変わっています。これまでの「売り上げを伸ばす」「認知をあげる」以外に、「ユーザーに好まれる」「ビジネスへの貢献度の高いユーザーを増やす」というコミュニケーションが求められています。
 本連載では、NPS認定資格者の川畑隆幸さんが、ロイヤルティを計測する指標「NPS」を事例を交えて分かりやすく解説します。(編集部)

 PV、UU、Visit、CVなどのアクセス解析の「指標」に依存するデジタルマーケティングを見直す動きが、グローバル企業を中心に加速しています。アクセス解析だけでは、顧客のデジタルマーケティングにおけるビジネスへの貢献度が測りにくいことに気づいた先進企業が、ビジネスへの貢献度が高い顧客、「ロイヤルティが高い真の顧客」に気づくための指標を模索し始めたのです。

 この連載では、新しい指標である「顧客ロイヤルティ」を活用したデジタルマーケティングの効果測定について、筆者の経験を踏まえて解説します。

アクセス解析の罠

 企業サイトは、アクセスログを利用した指標をWebサイトの目標に設定しているケースが多いでしょう。例えば、

  • PVやUUをクリアすることが部署・Webマスターの目標になっている
  • PVやUUをクリアするためにキャンペーンをとにかくたくさん実施した

といったことはよくあります。中には「今期○○PVを達成する」という目標が担当者の評価に影響を及ぼすケースもあるようです。

 テレビや雑誌などのメディアと異なり、誰が・いつ・どのくらいアクセスしたかを計測して把握できるのがWebの大きな特徴です。ECサイトや資料請求サイトはコンバージョン数という明確な定量数値でビジネスへの貢献を測定できます。しかしコンバージョン数は表面的な指標であり、継続的にビジネス貢献にしてくれる顧客、つまりロイヤルティが高い顧客がどのようにコンバージョンをもたらしているのか、詳細がわかりません。アクセス解析の指標と企業の儲けの仕組みが結びついていなければ、たとえビジネス上の目的に達成しても、Webサイトを訪れた人たちはビジネスへの貢献度が継続的に高いお客様かどうかわからないのです。

顧客ロイヤルティとは

 「顧客ロイヤルティ」とは、「顧客が自分たちの商品、会社、活動を好きになってくれること」を捉えるための概念です。たとえば、キャンペーンでプレゼントだけを貰いたい1万人より、継続的に自分たちの商品を買ってくれる10人を「顧客ロイヤルティの高い人」と考えるのです。

 顧客ロイヤルティが高い顧客には、5つの特徴があります。

  1. Repurchase (継続購入)
    継続的に何度も買ってくれる
  2. Buy additional lines (別商品の購入)
    この企業の商品であれば他の商品も素晴らしいはずと考えて、別の商品を購入してくれる
  3. Referrals (口コミによる推奨)
    企業や商品を他者に推薦してくれる
  4. Pay Premium(プレミアム支払い)
    より高い金額でも支払ってくれる
  5. Constructive feedback (建設的フィードバック)
    「もっとこうしてほしい」など製品の品質・機能向上に対しての助言をする
参考:顧客ロイヤリティを知る「究極の質問」、フレッド・ライクヘルド(著)、堀 新太郎(監訳)/鈴木 泰雄(訳)、ランダムハウス講談社 (2006/9/27)

 よく似た考え方として、顧客満足度(CS)がありますが、「顧客満足度が高い人」と、継続購入、別商品購入、口コミやフィードバックなどに結びつく「顧客ロイヤルティが高い人」とは同じではありません。顧客満足度は「満足した」という一定の水準に達したかどうかを測定するだけで、顧客ロイヤルティが高く、継続的に購入したり知人に勧めたりする口コミ効果までを把握できないからです。

顧客ロイヤルティの指標NPS

 顧客ロイヤルティを測定するための指標が「NPS(Net Promoter Score)」です。NPSは、顧客に対して「X社(企業やブランド)を友人や同僚に薦める可能性は、どのくらいありますか?」という「究極の質問」を投げかけることで測定します。

 具体的には、顧客に「X社(企業やブランド)を友人や同僚に薦める可能性」を「0点(おすすめしない)」~「10点(おすすめする)」の11段階で答えてもらいます。10~9点の集団を「推奨者(Promoter)」、8~7点の集団を「中立者(Passive)」、6点~0点の集団を「批判者(Detractor)」と定義し、全体に占める推奨者の割合から批判者の割合を引いて算出するのです。

NPS(Net Promoter Score)算出方法

 顧客ロイヤルティの高い顧客は、「継続購入する」「別商品を購入する」「口コミによる推奨をする」「プレミアムな商品を購入する」といった特徴があり、売上や利益といったビジネス上の成果と強い相関関係があることから、とてもシンプルな指標ですが注目されているのです。

NPSを中心とした指標はロイルティの高い顧客を考え運営していくこと大事

 顧客ロイヤルティの測定結果を元にWebサイトを制作、改善し、コンテンツを検討し、コミュニケーションプランを練るという一連のサイクルで「自分たちの商品、会社、活動を好きになってくれる人たち」を増やそうとするのがNPSのアプローチです。

NPS導入のハードル

 顧客ロイヤルティを測定でき、ビジネスの成果とも連動するNPSは万能にも見えます。しかし、導入には以下のようなハードルがあります。

  • NPSはまだ日本国内で浸透していない
  • Webサイトだけでは、NPSという指標の向上で、実際に顧客ロイヤルティが向上したことを正しく測定できない

 NPSはすでに多くのグローバル企業で導入されており、今後、日本でも少しずつ導入されていくでしょう。しかし、顧客ロイヤルティの向上は、Webサイトだけで達成できないことは、今後も変わりません。顧客ロイヤルティは、店舗やコールセンター、CSR、社長の発言、社員の日常行動など、さまざまな要素に影響されます。Webサイトは顧客ロイヤルティを向上させるためのチャネルの1つでしかなく、Webサイトだけで顧客ロイヤルティが高まるはずはないのです。

 しかし、不特定多数にアプローチするテレビのようなメディアより、OnetoOneで接するWeb方が顧客への影響力は大きく、顧客の心を理解しやすいと考えられています。1日のメディア接触時間は飽和状態です(グラフ参照)が、インターネット接続時間は年々増加傾向にあり、顧客とのコンタクトポイントとしてのWeb・デジタルの役割はますます大きくなっているのです。

出典:博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所「メディア定点調査2013」

 現在はチャネルの1つに過ぎないWebサイトが、テレビ以上の最重要チャネルになるかもしれません。従来のWebサイトでは、顧客の心理に関係なく、「とにかくたくさん見られる、利用されるコンテンツ」が提供されてきました。しかし今後は、顧客が企業や商品によりロイヤルティを持ってくれるコンテンツは何かを考える必要があるのです。

NPSの導入事例

 Webサイトをリニューアルする話はたくさんあります。しかし、Webサイトを顧客ロイヤルティの観点で作り直し、NPSを測定して日々改善するサイトはまだ希です。この記事を読んでも、「NPS自体がよくわからない」「今までいろんな満足度調査もしており、新しい結果が出るとは思えない」「NPSを測定してWebサイトがどうなるの?」と懐疑的でしょう。しかし、指標という裏付けのないWebサイト制作に何の意味があるでしょうか。とにかくたくさん見られる、利用されるコンテンツを提供することが本当にビジネスへの貢献なのでしょうか。

 PVやUUを増やすことが目的ならWebサイト制作にコストをかけず、キャンペーンをたくさん打つ方が効果的です。しかし、多くのWebサイトはプレゼントハンターを満足させるためではなく、企業のミッション・目標を達成させるための戦略的な存在である、という大前提に立って考えるべきです。

 たとえば、複数ブランドを扱うある企業は、以前はブランドごとに競合、市場規模が違うと考え、ロイヤルティの高い顧客の獲得もブランドごとに異なる前提で戦略を立てていました。しかし、この企業でNPSを調査したところ、大きな売上を占めてはいないある商品が高いNPSを示していました。その商品の品質や開発への取り組みを地味に訴え続けている活動が、ロイヤルティの高い真の顧客に評価され、高いスコアに結びついていることがわかったのです。 NPSで「顧客が求めるもの」「高いロイヤルティを感じているもの」が明確になると、Web戦略を策定する軸にできます。この企業は、よりロイヤルティの高い顧客を作りだすために、以下のような対策を実施しました。

  • 高NPSの商品をサイトのメインビジュアルに起用し、さらにロイヤルティの高い顧客の増加を狙う
  • SNSなどを通して顧客と対話し、コミュニケーションを図る
  • 対話を活性化させるキャラクターを開発する

 こうした対策に基づいてWebサイトのコンテンツを見直し、ブランド全体のNPSが向上する対策にしたのです。

 また、アクセス解析ではPVが少なかったため、従来は軽視されていたCSRのコンテンツに、ロイヤルティの高い顧客のアクセスが集中していることもわかりました。そこで、SNSで積極的にアピールすることにしました。

 NPSは、ブランドの数や市場規模とは関係なく、顧客の「ロイヤルティの高さ」を測定する指標です。「ブランド・売上」に偏っていたWeb戦略を、自社の顧客の観点で練れたのがNPS採用のメリットです。

 さらに現在では、Webサイトの訪問者とNPSスコアの高い顧客をアクセス解析上で紐付ける試みをしており、ロイヤルティの高い顧客を増やす戦略に基づいて、Webサイトを運用するようになりました。

新しい指標NPSをプロセスに組み込む

 今回は、顧客ロイヤルティとNPSの解説、Webサイト構築で何を目標にするべきかを中心に紹介しました。NPSは現在の顧客が何にロイヤルティを感じ、また感じていないのかを把握できる指標です。企業ミッションと顧客のニーズのギャップを測定し、サイトの役割を見直し、戦略を立案するための手がかりとして使うとよいでしょう。


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