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大谷イビサのクラウドコミュニティな日々 第2回

日本のクラウド市場を揺るがすwktk感と同胞意識を体感

1000人規模の大勉強会「JAWS DAYS 2014」の納得と驚き

2014年03月18日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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3月15日に開催された「JAWS DAYS 2014」に関して書こうと思う。実は5分前まで、AWSで披露された事例のレポートを書いていたのだが、今回は個別の講演内容より、そのイベントが醸し出す雰囲気やコミュニティ論についてざっくり書くことにした。

JAWS DAYSの本質はやっぱり勉強会

 JAWS DAYS 2014は、全国に41の支部を持つJAWS-UG(AWS User-Group Japan)による全国規模の交流イベント。今年で3回目となるJAWS DAYS 2014では、インフラ関連や事例、ハンズオンなど全7トラックで50以上のセッションが行なわれた。

会場となったベルサール新宿グランド

 AWSが製品戦略や事例を披露する「AWS Summit」と異なり、JAWS DAYSはAWSユーザーが有益な情報を交換する勉強会がベースになっている。実際、会場となったベルサール新宿グランドでは、「ビッグトラック」を行なうメイン会場を囲むように6つのブースで“勉強会”が実施された。この構成はITエンジニア向けの新年会である「CROSS」も同じだが、各ブースがきっちり壁で仕切られているわけではないため、よく言えば活気があり、悪く言えば騒がしい。講演中、とにかくいろんなところから声が聞こえてきて、どこも面白そうと漂うユーザーを迷わせる。

 面白かったのは、ビッグトラックの参加者が必ずしも多かったわけではない点だ。「Obama for America」を率いたマイルス・ワード氏など大物が次々と登場するビッグトラックは、いわばヘッドライナーがずっとステージで演奏しているようなトラック。名前の知れている企業の事例が披露されているので、ある意味混んでいて当然だ。しかし、夕方までいた私が見ていた限り、つねにブースの外にまで人が溢れていたのは、トラック2の「Immutable Infrastructure」だったし、ハンズオンでも床に座りながら、MacBook Airを開いている人が多かった。

Immutable Infrastructureはまったく入れず……

 これがなにを意味するか。やはり技術で飯を食べているエンジニアにとって重要なのは、大規模な事例より、新プロダクトのノウハウやコスト削減やセキュリティ強化に結びつくようなネタ。席数も違うため、比較すること自体がナンセンスではあるのだが、ここらへんはマーケティングイベントではなく、あくまで勉強会というイベントの本質を表わしたようだ。

Tシャツ着ればみんな仲間の和気あいあい感

 フォローするわけではないが、もちろんビッグトラックの内容も充実していた。IT記者の私にとって、勉強会の内容はややハイブローなので、むしろ大規模事例の紹介とエンタープライズAWSを扱ったビッグトラックの方がなじみやすかった。いわゆる“外タレ”の講演はもちろん、電子版の有料化に正面から取り組む日経新聞社やグローバルレベルのネットワークサービスを迅速に構築した任天堂、さらに理想の基幹システムや情報システム部の存在意義まで問いかけた東急ハンズなど、実にパワフルな講演だった。

破壊力満点の東急ハンズ 長谷川秀樹氏のセミナー

 イベント全般で感じたのは、やはりユーザーイベントならではの和気あいあい感。AWSを使ったシステム構築を手がけているエンジニアが参加しているイベントなので、正直言えば商売敵同士のはずなのだが、そんなギスギス感はここにはない。あるのは、「ファンであることが楽しい。参加するだけで楽しい」というWktk感と「主催者か、参加者かわからない」という同胞意識。その点が、IT媒体やベンダーが主催するイベントとは大きく異なる。

 セミナーといっても、講演者が上から目線で話をするのではなく、苦労話や武勇伝を同志に語りかけるようなものが多く、なるほど勉強会の集合体なんだなあと納得する。普段オンラインでしか会えない人同士がオフラインで交流する場でもあるので、各所で立ち話に花が咲いていた。その他、求人情報を掲出したジョブボードなどもあったり、某社の社長が入口でお弁当配ってたり、和服のミクちゃんがSAMURAIハンズオンやっていたり、とにかく通常のITイベントでは見られない風景にいくつも出会えた。

AWSを含め、さまざまな求人情報が張り出されたジョブボード

1000名を超える参加者に驚き

 一方、驚いたのは、やはり参加者の規模。登録者数で1300名を超え、入場者数で1000名以上。しかも大阪、名古屋、仙台で前夜祭が行なわれ、深夜バスにより80名近くのAWSユーザーが乗り込んだという。地方まで巻き込んだこの草の根パワーはきわめて大きい。JAWS DAYSが単一のクラウド事業者のファンイベントと考えれば、その関心の高さは特筆すべきといえる。

 昨年末には企業向けのAWSユーザー会であるEnterprise-JAWS(E-JAWS)が発足しており、AWSを使っている企業が業界に対して発言力を持って行くことになる。実際、E-JAWSのコミッティメンバーである東急ハンズの長谷川秀樹氏はJAWSを食う勢いでE-JAWSをやっていくと明言しており、いろんな意味で今後の活動が楽しみだ。

 JAWS DAYSの事前記事(人生変えに来い!ハイテンションな「JAWS DAYS 2014」の見所)でJAWSのメンバーが指摘していたとおり、AWSはこうしたコミュニティ活動を重視している。こうしたコミュニティ活動は、AWSの競争力の源泉といえる部分であり、他の事業者は素直に見習うべきだろう。とはいえ、コミュニティに必須のwktk感は、外部から醸成するのは難しい。単にお金を出せばよいのではなく、やはりエンジニアが参加しやすい場をいかに作るかがポイントだろう。今回のJAWS DAYSも、AWSがJAWSに企画の多くを任せることで、成功を収めているようだ。

 一方で、他の事業者はどうか? 開発者を中心にしたコミュニティの醸成に長けたマイクロソフトや、勉強会を積極的に開催しているさくらインターネットやニフティなどをのぞけば、なかなかコミュニティ作りに積極的なところは少ない。こうしたコミュニティ活動は、多くのクラウドサービスの評価であまりスポットライトは当たらない部分だが、今後の日本のクラウド市場に大きな影響を与える地殻変動になるような気がしている。

■関連サイト

筆者紹介:大谷イビサ

 

ASCII.jpのTECH・ビジネス担当。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、日々新しい技術や製品の情報を追う。読んで楽しい記事、それなりの広告収入、クライアント満足度の3つを満たすIT媒体の在り方について、頭を悩ませている。


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