日本のITを変える「AWS侍」に聞く 第10回
「AWSの顔」が見てきたクラウド、コミュニティ、イノベーションの可能性
玉川、AWSやめるってよ!走り続けた5年と卒業後を聞く
2015年02月02日 12時40分更新
クラウド黎明期からAWSのエバンジェリストを務め、今や「AWSの顔」となった玉川憲さんが、3月にADSJ(Amazon Data Services Japan)を辞める。起業の夢とその挫折、クラウドにのめり込んだきっかけ、コミュニティと歩んで来たAWSの5年、そして“卒業後”のステージについて聞いた。
本連載は、日本のITを変えようとしているAWSのユーザーコミュニティ「JAWS-UG」のメンバーやAWS関係者に、自身の経験やクラウドビジネスへの目覚めを聞き、新しいエンジニア像を描いていきます。連載内では、AWSの普及に尽力した個人に送られる「AWS SAMURAI」という認定制度にちなみ、基本侍の衣装に身を包み、取材に臨んでもらっています。過去の記事目次はこちらになります。
明らかにオーバーテクノロジーだったAWSにインパクト
大学で医療機械を、その後大学院でバーチャルリアリティを学んでいたという玉川さんのビジネスキャリアは、エンタープライズITベンダーの最大手である日本IBMの基礎研究所からスタートする。「スターウォーズに出てきたホログラムみたいなものを研究していた。当時はそのうち特許を書いて、起業して……みたいな淡い夢を抱いていた」と意気込んで入ったという。
テクノロジーの未来を信じ、起業の夢を抱いていた玉川さんだったが、そこで挫折を味わう。「今で言うApple Watchのようなウェアラブルコンピューターのプロジェクトを担当し、試作品を作って発売直前までいったんですが、突然プロジェクト自体がなくなってしまったんです」(玉川さん)。
プロジェクトの中止で「世の中の流れをわかっていないとダメだ」と痛感した玉川さんはこれまで技術一辺倒だった方針を転換し、ビジネスサイドの経験を積むことしたという。2003年にソフトウェア事業部に移り、ソフトウェアエンジニアリングツールを手がけた後、テクニカルトレーナーやコンサルティング、技術営業、テクニカルマネージャーなどを歴任。2006年にMBAとソフトウェアエンジニアリングのマスターを取得すべく米国に留学した。そして、そこで見たのが、スタートしたばかりのAWSだった。
玉川さんはそのときの衝撃を「Amazon EC2が出てきた頃で、その界隈の学生たちがけっこう騒いでいた。実際、私も使ってみたら、明らかにオーバーテクノロジー。APIで動かせることに純粋に感動した。これは世の中を変えると思った」と語る。
布教の最中、見上げたところにいたザビエル
AWSに魅せられつつ、帰国後しばらくエバンジェリストを務めていた玉川さんだが、2010年に日本IBMを退職。マーケティング部の小島英揮さんと共にAWS日本法人の立ち上げに関わることになる。
入社以来、玉川さんはエバンジェリストとしてクラウドやユーテリティコンピューティングのメリットを語り続けた。「エバンジェリストとして重要なのは、いいものをいいと言うこと。そして、どこがいいかという本質を見抜くこと。その点、AWSの製品・サービスってはずれがないので、気持ちよく伝えられる。お客様に喜んでもらえる製品について伝えられる。こんなに恵まれたポジションはない」(玉川さん)。ちなみに個人的に好きなのはAmazon S3とAmazon DynamoDBだという。
とはいえ、当初は勉強会に人は集まらなかった。ユーザーグループも東京にしかなく、「大阪で勉強会やるにも場所がなかったので、見かねた富士ソフトさんが貸してくれた。それでも集まったのは10~20人くらい」と振り返る。地方行脚を繰り返し、昼に話して、夜呑んで、次の日の朝に発つといった“まさに売れないシンガー状態”だった毎日。玉川さんは「北海道から全国縦断し、ようやく鹿児島の勉強会が終わったとき、疲れ果ててホテルの前の公園でたたずんでいたら、フランシスコ・ザビエルの像があった。(450年以上前にキリスト教を布教した)彼の像を見て、かんばらないとなあと思った」と振り返る。
しかし、そのときに集まった感度の高い人たちに玉川さんの話は訴求し、コミュニティを介して波及。その後のクラウド普及の原動力となっていく。「本当に毎日のように面白いことが起こっていました。いつか『クラウド創生期』という本に書きたいです」と玉川さんは語る。
(次ページ、転機は訪れた!東京リージョン開設と東日本大震災の舞台裏)
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