Mobile World Congress 2014に、KDDI代表取締役会長である小野寺 正氏が登場し、「スマートパイプ」に向けた携帯キャリアのアプローチについて語った。小野寺氏は電子マネーにおけるNFCへのプッシュを明確にしたほか、「au ID」を中核としたサービスを紹介した。その後には米国でモバイルNFCを推進する米ISISのCEOが、正式スタートからこれまでの状況を語っている。
あらためて語られた
日本における電子マネーの普及
小野寺氏は最初に、自身が9年前の2004年に掲げた「パーソナルゲートウェイ構想」を紹介した。携帯電話が音声通話やメールだけでなく、音楽、TV、切符やチケット、電子マネー、ポイントカードなど、さまざまなサービスへの入り口(ゲートウェイ)になるというものだ。この構想は、日本では同年に立ち上がった、モバイルFeliCaサービスを契機に実現に近づいていった。
電子マネー全体の動向については、現金文化の日本でおいて、電子マネーはゆっくりと着実に普及しており、「1000円未満の少額決済ではクレジットカードよりもよく使われている」と説明。
電子マネー機能を持つICカード(楽天Edy、Suica、nanacoなど)の発行数も増えており、2012年7月から12月までを見ると、7月の7300万枚から12月には1億9500万枚と倍増以上。その中でモバイルでの利用が占める比率は10%に過ぎないが、「今後伸びる余地が十分にある」とする。そして、FeliCaベースの自動改札機の利用者が7000万人以上、大手小売2社でのFeliCa月間利用額が1億8000万件以上などの実績を取り上げ、「電子マネーの利用は完全に日常になった」と、あらためて日本の状況を説明した
おサイフケータイは(KDDIには)メリットがなかった
NFCへの移行に前向きな姿勢
日本における電子マネーの普及の一方で、小野寺氏はグローバルで利用できる規格が普及していないと問題を提起する。日本で使われているFeliCa搭載カードの発行枚数は7億枚、海外で一般的なMifareは50億枚だが、両者は相互運用していない。
「世界中で電子マネーが使われるようにするため、われわれはNFCの普及を推進していく」と小野寺氏はKDDIの考えを語る。KDDIはソフトバンクモバイル、韓国のSK TelecomとともにモバイルNFCの日韓共同実証実験を行なっており、世界初のNFC商用チケットサービスを実施しているなどの事例を買った。
今回のMWCで発表した「ASIA NFC アライアンス」にも触れ、台湾の中華電信(Chunghwa Telecom)、香港のHong Kong Telecommunication、韓国SK Planetの3社とNFC対応サービスの普及に向けた取り組みを進めていくとした。同アライアンスのもとでKDDIは、3社とNFCタグ仕様、NFCプラットフォームの共通化、共通ブランディングなどを通じて、国境をまたいだモバイルNFCの利用を可能にしていくと発表している。
なお小野寺氏はスピーチ後に記者団の取材に応じ、FeliCaベースのおサイフケータイは「我々には何もメリットがなかった」と語った。FeliCaのビジネスモデルに問題があるとの見解を示し、NFCへの移行に前向きな姿勢を示した。
スマホによって課金プラットフォームを失う
ダムパイプ化回避に向けてKDDIの回答とは
スマートフォンの普及により、通信事業者が回線のみを提供するパイプとなる“ダムパイプ(土管)”化を指摘する向きがある。これまで日本の通信事業者はモバイルサービスのエコシステムの中心役だったが、プラットフォーム側が提供するアプリストアなどにより、存在感が薄くなりつつある。小野寺氏は2009年のデータを見せながら、「フィーチャーフォン全盛期の5年前、デジタルコンテンツの多くをキャリア課金が占めていた」と述べる。当時、音楽コンテンツの96%、ゲームの62%が通信事業者を経由するキャリア課金が占めていた様子が分かる。
だがスマートフォン時代になると、この構造が変わってくる。60%以上のユーザーが有料のアプリやウェブサービスを利用していないことを指摘し、「インターネットカルチャーをモバイルにもたらした」とし、通信事業者を経由するキャリア課金の比率が低下していると続けた。
図からは、Androidでは72%、iPhoneでは25%まで減っており、ダムパイプ化が進んでいることが伺える。一方で、消費者のスマートフォン志向は増えており、KDDIでも端末の総販売台数に占めるスマートフォンの比率が2012年に75%になった図を見せた。「ARPU上昇だけを考えると、スマートフォンへの移行はよいこと。だがこのままではオペレーターはダムパイプになってしまう」と語る。
KDDIがダムパイプ回避策として進めているのが、「3M戦略」だ。さまざまなコンテンツやサービスの「マルチユース(Multi-Use)」、3G/LTE、Wi-Fi、固定などさまざまなネットワークの利用によりいつでもどこでもを実現する「マルチネットワーク(Multi-Network)」、そしてスマートフォン、PC、タブレット、TVなどさまざまなデバイスを利用する「マルチデバイス(Multi-Device)」の3つの“M”で構成されるもので、その中核となるのが共通アカウントサービス「au ID」だ。
デジタルコンテンツはもちろん、オンラインショッピングの決済にも利用でき、ユーザーは毎月の利用料金とともに支払うことになる。2012年3月に開始したau IDを土台とした「auスマートパス」は、500以上のアプリの無制限利用、50GBのクラウドストレージ、クーポンなどを集めたもので、音楽ストリーミングや電子書籍サービスなどもオプションで利用できる。「スマートフォンでアプリを利用時に感じる不安、クレジットカード情報を入力時に感じる不安などに対応する」と小野寺氏はメリットを語り、利用者数は2103年12月末で888万人に達したと報告する。
今後、au IDを進化させ、「もっと簡単に、スマートに、便利にしていく」とし、具体的には今年5月に店舗で利用なプリペイドカード(au WALLET)を追加する予定で、「ネットとリアルの融合を実現していく」と方向性を語った。ダムパイプ化を回避するには、リアルとオンラインの違いを意識させないようにネットワークを進化させていくこと、さまざまなサービスを提供していくことが通信業界の回答の1つではないかと会場に呼びかけた。
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