2月末に開催されたMWCでは、「Firefox OS」がファーウェイからも初のスマホが登場、さらに25ドルスマートフォンに向けた提携を発表するなど、話題を集めたのに対し(関連記事)、同じく新しいモバイルOSを提案するTizen Associationは地味だったといえる。
だが、同アソシエーションのチェアマン杉村領一氏(NTTドコモ プロダクト部技術企画担当部長)は焦ってはいない。「我々は誰もが交易できるシルクロードを作っている」と、Tizenの位置づけを語る。MWC前日、Tizenが開催したイベントの後、杉村氏に話を聞いた。
しっかりと立ち上がるように
Tizenはしっかり時間をかけてやっている
――2013年は、「Tizen OS」のほか、Mozillaの「Firefox OS」、Canonicalの「Ubuntu」など、新しいOSが発表されました。現在スマートフォンがリリースされているという点では、Firefox OSがリードしていると言えます。スマートフォンがない中で、今後どうやってTizenを盛り上げていくのですか?
杉村氏(以下、同) これら新しいOSと言われているものはそれぞれ出自が異なる。たとえばUbuntuは、デスクトップLinuxの世界では安定した人気があり、これをモバイルに拡大しようとしているようだ。Firefox OSはブラウザーからのアプローチで、志の高いところからアプローチしている。Telefonicaなどオペレーターが安い端末を作りたいという願いが合致しているようだが、実際に何台売れているのかはわからない。ユーザーは良いものを見てしまうと、それより劣るものを買う決断をすることは難しい。
モバイルの世界はまっすぐな意図が必ずしも伝わる世界ではなく、ファッション化している。何百万というアプリがあり、選択肢がある。だが、ユーザーが本当に自分に正しいアプリを選んでいるのかとなるとわからない。9割近くのアプリが一度も検索されていない。
では、Tizenはどうするのか。端末をなかなか出さないからずるいのかもしれない。ゆっくり、慎重にやっている。なぜかというと、LiMo Foundationで一度うまくいっていない経験があるから。業界内で失敗するのもよくないが、もっと悪いのはエンドユーザーにダメと思われること。
立ち上げるときがとても大切。踏まれて死んでしまうような環境に置いてはいけない。育てられる市場をきちんと選ばなければならないと思っている。
――NTTドコモが当面延期を発表しました。
日本の市場はタフすぎる。iPhoneが(スマホの中で)一番安価な市場は、世界中で日本だけ。海外では、値段の高い端末は高く販売されている。こんな日本市場にTizenを持っていくには、Tizenが強くなる必要がある。
――出すか出さないかは技術ではなく、市場の要因ということでしょうか?
技術的な要因もあるとSamsungからは聞いている。Samsungは端末を出すにあたって厳しい基準を持っているのだと思う。早く出してくれたらいいのにとは思うが。
だが、完成度は高くなっている。今回のMWCのブースでも、SamsungとZTEからそれぞれプロトタイプが展示されている。Samsungのものは「Dynamic Box」「Drop View」「Web Clipping」などがすべて動いている。
人間は見たものは信じるが、見えていないものは見えていないまま。見えてないところに本当の強さがあったりする。そういうものがきちんと蓄積されていくと、本当の強さになると思う。
Tizenは誰でも通れる道、シルクロードになる
――Android、Firefox OSなど他のOSに対して強みとなるのは?
Tizenはシルクロードみたいなものと思っている。誰でも通れるし、アイデアを出して商売ができる道。だがシルクロードはその長い歴史で(シルクロードを通る)国が変わっている。そのときどきの大きな国がきちんとメンテナンスしたから持続した。
Tizenは道を提供しているだけ。オペレーターは農耕民族かもしれないし、端末ベンダーは狩猟民族かもしれない。どこか1つの企業が全部ガバナンスするのではなく、共存共栄を選んでいる。依存や脅威がなく、お互いに交易の中で知恵を交換しあうことが、最終的には強くする原因になるのではないか。
そういう交易やコミュニケーションが人類が進化する核になると思っている。歴史を見ても、どこかたった1つの国が独占してずっと続いてきた例はない。だが道路は残っている。Tizenはどこか一社が強いわけではない。Samsungも一票、ドコモも一票で公平だ。
オープン性も大切だ。ソースコードをきちんと開示しており、誰でもダウンロードできる。ある端末ベンダーは本当にオープン化を徹底的に調べた後に参加してくれた。
プラットフォームの開発は高コストだ。多分資産価値は何億円となるだろう。それが誰でもダウンロードできるし、タダで使うことができる。これはすごいことだ。
――動きの早い業界で、長く持つ仕組みをゆっくり作る時間があるのでしょうか?
道はもうある。Tizenは仕組みを作るという発想からきている。ユーザーに一番たくさんの選択肢を与えられるのは、自由に発想できる場だと信じている。ただしそれは小さいところが集まってもだめで、シルクロードのように大きな道でないと。Samsungは確かに大企業だが、たとえばデジタルTVとなると、別の大きなプレイヤーが必要だ。
仕組み、ビジネスモデルの考え方をTizenのメンバーはわかっている。これは我々の強みだ。
――Samsungが「Gear 2」を発表しました(関連記事)
SDKを間もなく公開し、コードベースも近いうちにオープンソースにすると聞いている。
ウェアラブルだがコアは全部同じで、プロファイルが異なる。ウェアラブルであっても、商品でTizenが使われるようになると、コアの部分も一緒に良くなっていく。つまり、Tizen端末が使われていくということはコアが良くなり、他の商品にも反映される。そういうこともあって、Gear 2の発表を喜んでいる。商品がでるとお金が回り、ソースコードにもっと手が入る。やっとそういう循環が始まった。
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