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富士通のUNIXサーバー、かく戦えり 第3回

オープンソースはM10に載らないのか?

富士通とオラクルが目指すSPARC/UNIXサーバーの未来

2013年08月15日 08時00分更新

文● 渡邉利和 写真●曽根田元

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(→第2回記事からの続き)

 富士通のUNIXサーバとSPARCプロセッサ開発の歴史を紐解く本記事。最終回となる今回は、サン・マイクロシステムズ買収で富士通の新たなパートナーとなったオラクルとの関係、そして富士通の最新UNIXサーバーである「SPARC M10」の技術について、富士通 執行役員常務 サービスプラットフォーム部門 副部門長 豊木則行氏に聞く。

富士通 執行役員常務 サービスプラットフォーム部門 副部門長 豊木則行氏。富士通のサーバービジネスの歴史を知る人物である

オラクルとのパートナーシップは良好?

――オラクルとの関係は、サン・マイクロシステムズ時代と比較してどう違うのでしょうか。

 SPARC64プロセッサの基本的な開発方針は、「処理性能と信頼性の両方を追求していく」というものです。国内市場だけで開発投資に見合った販売数量を確保することは容易でないので、パートナーであるオラクルの販売網を活用してグローバルに販売することを強く意識しています。

 Solarisがオラクルの知的資産である以上、オラクルと協力しないということはありえない話です。それならば、富士通のハードウェア技術をきちんとオラクルに評価してもらい、オラクルのビジネスにも寄与するようなハードウェア開発を行なっていくことが重要になってきます。

 SPARCプロセッサの開発はオラクルでも継続しています。現在のT4/T5プロセッサは、かつてのT1/T2に比べてシングルスレッド性能も大幅に強化されています。買収後、サンでRock開発プロジェクトを牽引していたメンバーは次々と去りましたが、現場の開発者は多くがそのまま残留しています。

 極めてアグレッシブだったRockの開発プロジェクトとはうって変わって、現在は手堅く着実に進化を積み上げていく開発スタイルに変化しているようです。サン時代には、社内にプロセッサの「スター設計者」が何人も在籍していました。それぞれがすばらしいアイデアを持っていたものの、それを1つのプロセッサに盛り込んだ結果、逆に性能が低下してしまうということもあったようです。そのあたりの反省も踏まえてのことかもしれません。

 なお、オラクルとのパートナーシップに関連して、よく「M10サーバーにLinuxは載らないのか」というご質問をいただくことがあります。現時点では「載りません」とお答えせざるを得ません。ただし、オラクルが自社でLinuxディストリビューション(Oracle Linux)を持っていますので、場合によってはLinuxをサポートする可能性がないとは言えません。ここは両社のパートナーシップに基づき検討していくことになります。

 現在ではUNIXに対して“プロプライエタリ”というイメージが出来上がってしまっており、一方で「オープンソースを使いたい」という顧客ニーズもあります。そうなると、OSがUNIXであるというだけで選択肢から外れてしまうことになるので、SPARCサーバーのLinux対応は今後考えていくべき課題であることは確かです。

「SPARC M10」サーバー、冷却技術の工夫

――SPARC M10では冷却システムに「液冷技術」が採用されています。その意味は何でしょうか。

 M10では、300ワットに達する消費電力とその排熱に対応するために、専用の冷却システムを新規に開発しました。

 現在ではメインフレームも空冷方式を採用していますから、メインフレーム技術の流用というわけではありません。かつてメインフレームのプロセッサがECL※9を使用していたときには、発熱量も大きく水冷方式が一般的でした。しかし、その後CMOSへの移行によって発熱量は抑えられ、現在は空冷方式が一般的です。メインフレームの場合、コア数をあまり詰め込んでいないという点も発熱量の観点からは有利になります。

SPARC M10-4の内部カットモデル

 M10で新規開発された液冷システムは、外部から冷却水を供給する必要がないので、設置場所や運用方法に関しては空冷機とまったく同じでよい点がメリットです。結果的に省スペースにもなっていますし、稼働温度を下げることで機械的な信頼性の向上も期待できます。実は、当初の設計では熱対流を利用したヒートポンプを採用する計画でしたが、プロセッサ側で演算性能を大幅に向上させた結果、当初想定よりも発熱量が増加してしまったため、急遽新たな方式を開発しました。

 ちなみにスーパーコンピュータの「京」では、外部から冷却水を供給する伝統的な水冷方式を採用しています。京はプロセッサの実装密度が極めて高く、狭いスペースに大量のコアを集積する必要があることや、システム全体の規模も巨大であることから、むしろ専用の水冷システムを用意したほうが合理的と判断されたためです。サーバ1台単位で設置されるM10の場合は、そのために冷却水の設備を設置するなどということはできませんので、ほかの空冷サーバーと同じように扱えることが必須だったのです。現在は次世代機向けに、より冷却能力を高めるための開発を行なっています。

※9 ECL:エミッタ結合論理(Emitter Coupled Logic)という高速論理回路素子。一般には“バイポーラ”と呼ばれることが多かった。動作が高速な反面、消費電力(=発熱)も大きい。高速であることからメインフレーム用プロセッサとして長く利用されたが、CMOSプロセッサが1990年代に入って技術発展し、2000年には完全にCMOSに移行した。

(次ページ、富士通のSPARCサーバ、次世代機はこうなる)

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